第16話 続・皆と学校へ

 白蘭駅に辿り着いた僕らは、構内に入ってから真っ直ぐに切符売り場へと向かう。

 因みに詩織は構内に入る前に僕の背中からは降りた、と追記しておく。



 少しして切符売り場前に辿り着いたのだが、通勤・通学ラッシュ時間のせいで、券売機前は切符を買い求める人々でごった返していた。


「どうしましょうか、お兄様。

 この状況では切符を買うのは難しいと思いますが…」


 券売機前の状況を見て不安げな表情をした朱璃が僕にそう聞いてきた。

 確かに朱璃がそう聞いてきてしまうのも無理はない。

 このままでは切符を買えずに遅刻してしまう可能性が高いからだ。

 さてどう切符を買おうかな、と僕が思案していると…券売機の方から見知ったメイド服姿の女性が僕らの方へと向かってくるのが見えた。

 さて、その見知ったメイド服姿の女性とは───


「───お待たせ致しました、俊吾様。

 先回りして皆様の切符を購入して参りました!」


 僕らの前まで歩いてきてそう言ったのは、エントランスホールでお見送りをしていた筈の桃花さんだったからだ。


「あ、ありがとう…桃花さん。

 切符を事前に購入してくれたことには感謝するけれど、何故に桃花さんが僕らよりも先に白蘭駅にいるの?


 あ、まさかだけど…」


 切符を購入していてくれた桃花さんにお礼を言いつつも、何で先回り出来ていたのかについて嫌な予感がした僕はそう桃花さんに聞いた。


「あ~、それはですねぇ……爆速運転で白蘭駅に向かったからですね!

 まぁ、実際に切符を購入したのは私のぶか……ぎにゃあああああーー?!」


 予想通りの答えに、僕はニコニコ顔で桃花さんの頭をグリグリする。


「「「……………」」」


 桃花さんが僕にグリグリされているのを見ていた沙苗達は、無言で首を横に振る。

 どうやら説教されても懲りずに再び爆速運転をした桃花さんに呆れてしまったようである。

 遠巻きに此方を見ている桃花さんの部下であるメイド護衛隊の面々も呆れた表情をしていた。


「うぅ……酷い目に遭いました…」


 僕のグリグリ地獄から解放された桃花さんが涙目になりながら言った。

 なので僕は呆れながら言う。


「……全く反省していない桃花さんが悪い」


 僕のこの発言に"うんうん"と頷く沙苗達…と、メイド護衛隊の面々と《SPの面々》。

 ……ん?SPの面々?

 今気付いたけど、僕らの周囲にSP達がいるじゃん…。

 この感じだと僕らが瀬戸崎家から出た瞬間から護衛をしてくれていたようだね。

 僕が気付けないなんて……いや、護衛対象に気付かれるようじゃ、SP失格ってことになってしまうのか。

 まぁ、それは今は置いておくとして、だ。

 無事に切符も手に入ったし、僕らはホームに向かうことにしよう。

 時間的に余り余裕もなさそうだし。


「桃花さんへの説教は夜にするとして、僕らはホームに向かおう」


 僕の発言に桃花さんは絶望した表情をするが、それを見て見ぬふりをした朱璃が言う。


「ですね、お兄様。

 ではお兄様方とは此処でお別れですね。

 この白蘭駅から発車している美園駅行きの電車に乗って、美園女学院高校に向かわなければなりませんので」


 朱璃の発言に対し、詩織が口を開く。


「そう言えばそうでしたね…。

 どうか道中、お気を付けて」


 不安そうに言う詩織に、桃花さんが言う。


「御安心下さい、詩織様。

 朱璃様は私達メイド護衛隊とSPがお守り致しますので」


「詩織、桃花さん達が護衛なら何も心配はいらないよ」


「お兄様の言う通りですよ、詩織さん。

 ……っと、そろそろ電車の発車時間が…『間もなく1番ホームに当駅7時40分発、美園駅行きの電車が到着致します。

 お乗りの方は1番ホームにてお待ち下さい。

 尚、白線より外にいると危ないですので白線の内側にてお待ちいただけるようお願い致します。

 繰り返しお知らせ───』……みたいですので、行きますね。

 行ってきます!」


 そう言うや否や、朱璃は慌てて改札口へと向かって走っていった。

 その走っていってしまった朱璃の後を、僕らにお辞儀をした桃花さんとメイド護衛隊、SP達数人が追っていった。

 後に残った僕らも3番ホームから発車する城西駅行きの電車を待つ為に改札口へと歩き出す。

 そして改札口に切符を通してながら通過した時、構内放送が流れる。


『間もなく3番ホームに当駅7時45分発、城西駅行きの電車が到着致します。

 お乗りの方は3番ホームにてお待ち下さい。

 尚、白線より外にいると危ないですので白線より内側にてお待ちいただけるようお願い致します。

 繰り返しお知らせ───』


 それを聞いた僕らは慌てて3番ホームへと続く階段を駆け下り、到着待ちの列に並んで電車が来るのを待つ。

 無論、僕らから少し離れた位置にメイド護衛隊とSP達もいるけどね。

 そして程なくして電車が到着し、僕らは電車に乗り込むのだった。



 電車に乗った僕らは、幸いにも空いていた座席を確保することに成功し、並んで座った。

 沙苗が左側、僕が真ん中、詩織が右側の順にだね。

 そして座って一息ついてから僕は口を開く。


「席が空いていてラッキーだったね。

 何時もは座れない程に混雑してたから、ね」


「ほんと俊君が言ったように、座れて良かったです。

 今日は良いことがありそうですね!」


「俊吾と沙苗さんの言うように、ほんと混雑してるのよね…この電車。

 だから座れて良かったって思うわ」


「まぁ、滅多に座れないからね」


 確かに座れたことはラッキーだと思うし、詩織が言ったように今日は良いことがあるかもって思うんだけどさぁ……何で君達は僕に密着しているのかな?

 密着されているせいで、僕の両手が塞がれていて何も出来ないんだけど?

 スマートフォンでネット小説を読みたいんだけどね、僕。

 んでもって、胸を押し付けてきてるのはワザとなのかな?

 お陰で僕の心臓がバクバクしちゃってるんだけど…。

 だから少し離れてくれると嬉しいんだけどなぁ……なんて事を沙苗と詩織に言っても無駄なんだろうけれども。


 そう悶々としていると、車内放送が流れ始める。


『皆様おはようございます。

 この度は当列車をご利用頂き、誠にありがとうございます。

 発車時刻の7時45分となりました。


 事故防止の為、お立ちのお客様は手摺や吊革にお掴まり下さいますようお願い致します。

 この列車には優先席がございますので、お近くにいらっしゃるお客様は携帯の電源をお切りになられますようお願い申し上げます。

 それ以外ではマナーモードへの切り替えをお願い致します。

 ドアが閉まりますので、ドア付近にいるお客様は衣服等の挟まれにご注意下さい。


 それでは発車致しますので、衝撃にご注意下さい。

 次の停車駅は城西駅、城西駅に御座います』


 車内放送終了と同時にドアが閉まり、電車は目的地である城西駅へと向かって走行をし始めるのだった───


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る