第15話 皆と学校へ


 情報処理が追い付かずにオーバーヒートを起こして気絶してしまった沙苗。

 それから暫くして彼女は目を覚ましたのだが、全員が自分の方を見ていることに困惑した表情を浮かべながら言う。


「えっと……何で皆して私を見てるんですか?」


 その疑問に対し、僕らは答える。


俊吾「何でって……気絶してしまった沙苗が心配だからだよ?」

繁信「儂も同じく心配になったからだ」

俊介「俺も気絶した沙苗嬢が心配になったからね」

朱璃「私も気絶されてしまった沙苗さんが心配で…」

詩織「私も沙苗さんのことが心配で…」

相良「皆様と同じ理由にございます」

遥「私も皆様と同様の理由ですね」

桃花「私もですね」


 僕らが気絶した自分のことを心配で見ていた、という答えを聞いた彼女は、少しはずかしくなってしまったようで、両手で顔を隠してしまった。

 そうし始めてから少しして、両手で顔を隠すのをやめた沙苗は言う。


「は、恥ずかしい…。

 でも、心配してくれてありがとうございます。

 一気に重要な情報を聞いてた私の頭の処理が追い付かなかったみたいです…」


 お礼を言いつつもそう言う沙苗に僕は謝る。


「ごめん沙苗…僕らが一気に全てを話してしまったばかりに」


「俊吾が謝る必要はないわよ?

 私も瀬戸崎家の一員として認めてもらった以上、何れは聞くべき秘密だったのだから。

 だからそれが遅いか早いか、の違いでしかないもの」

(お?おお?! 沙苗の口調が元に戻ったーー!!)


 そう馬鹿なことを思いながら聞いていた僕。


「沙苗がそう言うなら…分かったよ」


 僕がそう言うと、チラッと自分の腕時計を見たお爺様が口を開く。


「おおっ、もうこのような時間であったか…。

 そろそろ寝ないと明日に影響してしまいそうだのぅ…」


「あ~、確かにお爺様の言う通りですね。

 僕らも寝ないと起きられず、学校に遅刻してしまいかねないね…。


 だからもう解散して寝よう!」


 お爺様の言葉に僕が続けてそう言った。

 だってもう、23時を過ぎてたからね…。


 僕の言葉を受け、兄貴達は「おやすみ」と言ってリビングから出ていった。

 残ったのは僕・沙苗・朱璃・詩織・桃花さんの5人だけとなった。

 なので僕は言う。


「さて、僕らもそろそろ寝ようか」


 そう言うと、沙苗達は「うん」と頷いて立ち上がった。

 そして僕らはリビングを後にし、寝室や客室へと向かうのだった───



 ───その筈が、何故か沙苗と詩織は今現在…僕の寝室にいた。

 朱璃と桃花さんは自分の寝室へと向かったというのに、である。

 そして僕の寝室にいる2人が口々に言う。


「さて俊吾…私は今朝の宣言通りに有言実行しに来たわよ♪」


「私は何時も通りに俊君と寝る為に来ただけです」


「………もう好きにしてくれ」


 2人の言葉に、僕はそう答えるしかなかったのだった。



 そして次の日の朝、起きた僕の両腕は昨日の朝とほぼ同じ状態になっていた。

 1つだけ違ったのが、2人共が既に起きていて僕を見ている、という状況だということである。

 目が覚めた僕に気付いた沙苗と詩織が同時に言う。


「おはよう、俊吾♪」

「俊君、おはようございます♪」


「沙苗、詩織、おはよう。

 もう朝食が出来てる筈だから、着替えてリビングに向かわないとね」


 沙苗と詩織に朝の挨拶を返した後にそう言った僕。

 その僕の言葉を聞いた沙苗と詩織はベッドから出て、パジャマから制服に着替え始める……僕が見てる前で堂々と、ね。

 朝から心臓に悪い……と、内心バクバクだけど極力2人を見ないようにしながら僕もベッドから出てパジャマから制服に着替える。

 ……因みに先に制服に着替え終えた2人は僕が着替えている所をガン見していた、とだけ追記しておく。



 3人揃ってリビングに向かうと既にテーブルには朝食が並べられており、お爺様達が着席していた。

 どうも食べずに僕ら3人が来るのを待っていたらしい。

 僕らがリビングに入ってきたことに気付いたお爺様が口を開く。


「おお俊吾、おはよう。

 沙苗嬢、詩織嬢もおはよう」


「おはようございます、お爺様」

「繁信様、おはようございます」

「おはようございます」


「良く眠れたかね?」


「私はぐっすりと安心して眠ることが出来ました」

「私も眠れましたわ」

「僕は…まぁまぁ、ですかね」


「なんじゃ、俊吾は余り眠れなかったのか?」

(それはそうでしょうよ、お爺様。

年頃の2人に抱きつかれてたんですから…)


 そう心の中でツッコミを入れておく。

 面と向かってそんな小っ恥ずかしいことを言うわけにもいかないから、ね。


「まぁ、よいか…。

 俊吾達も揃ったことだし、朝食を頂くとしよう」


 何とかお爺様の追及を逃れた僕は、沙苗と詩織と共にテーブル席へと向かい、着席した。

 そしてお爺様の言葉を合図に、僕らは朝食を食べ始める。

 本日の朝食は、ご飯・ワカメとジャガイモの味噌汁・だし巻き玉子・焼き魚(鮭)となっている。


 …え?質素じゃないかって?

 いやいや、別にこれが普通だと思うんだけど…。

 お金持ちだからって、必ずしも贅沢する必要はないと思うしね。

 人間、質素に生活するのが一番だよ…うん。


 そう思いながらも食べ進めていく。

 そして食べ終えた僕らは、少しまったりしてからエントランスホールへと向かった。


「それじゃ行ってきます」


「行ってらっしゃい。

 俊吾・沙苗嬢・詩織嬢・朱璃、しっかりと勉学に励んでくるのだぞ!」


「うん」

「はい。 では行ってきます、繁信様」

「はい、行ってきます!」

「分かりました。

 それでは行ってきます!」


「俊吾様・詩織様・沙苗様・朱璃様、道中お気を付けて行ってらっしゃいませ」

「皆様、お気を付けて行ってらっしゃいませ!」

「おう、行ってこ…いててててっ!?」

「そんな巫山戯た挨拶は関心しませんね、俊介様?

 それでは皆様、お気を付けて行ってらっしゃいませ。


 ……俊介様は後で説教ですので、お覚悟を」

「遥…それは勘弁してく……いだだだだだっ?!

 だから脇腹を抓るのを止めてくれーーーっ!」


 兄貴と遥さんは何をやっているんだろ……と思いながら、僕らは玄関を出るのだった。



◇◆◇◆◇



 瀬戸崎家を出発した僕らは、春の陽気に包まれながら白蘭駅に向かって歩いていた。

 そこで僕の左腕を抱きしめながら歩いていた沙苗がふと呟く。


「ん~! 今日は暖かいわねぇ!

 ようやく春らしい気候になってきたようね!」


 沙苗のこの言葉に、僕の背中に乗っている詩織が言う。


「沙苗さんの言う通り、今日は暖かいですね。

 …俊君の方が温かいですが」


 み、耳に詩織の吐息が直に…?!


「確かに沙苗さんの言う通りですね~♪」


 右隣にいた朱璃がそう言った……僕の右腕を抱きしめた状態で歩きながら。

 ……だから僕は3人に向けて言うのだった。


「あのさぁ…何で君達は僕に密着しているの?

 玄関を出てからずっとだけども…」


 僕にそうツッコミを入れられた3人は顔を見合わせる。

 そしてそれぞれが口々に僕に言い始める。


「ん~? 俊吾だから?かな!」

「俊吾、だからですね」

「お兄様、だからです」


 こ、答えになってねぇ…。

 僕が知りたかった答えじゃないよ、それ…。

 うん…君達はもっと周囲を気にした方がいいと思うんだよね、僕。

 特に男性陣からは「何だあのハーレム野郎は!!」「その場所を俺と代われや!」「あの野郎、羨ましすぎるぜ!」なんていう恨みの籠った視線・殺気が僕に集中してるからね…。


 こんな状況で歩き続けて10数分後、僕らは白蘭駅に到着するのであった───



───────────────────────


 俊吾達が学校へと向かった後の瀬戸崎家エントランスホールでは、遥が俊介に対して説教をしている最中であった。


「……聞いているのですか、俊介様!」

「いや、聞いているが……そろそろ俺も出勤時間が、ね?」

「それなら御安心下さい、俊介様。

 桃花に頼んで遅刻のご連絡をさせましたので……4時間程」

「い、いつの間に!?

 …最後のは聞こえなかったけど、何て言ったの?」

「俊吾様方をお見送りした直後に、です。

 最後?別に私は何も申してはおりませんよ?」

「そ、そうか…」

「ええ、そうです。

 ということで説教の続きを致しますね♪

 ……お見送りの際の言葉遣いが気に入りませんでしたので♪」


 そう言う理由で俊介様は遥様に説教されていたのか、と近くで見ていた桃花は思うのだった。

 ……ニコニコ顔だけど目が冷め切っていた遥に戦慄しながら───




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