第14話 瀬戸崎家の秘密

 渋谷での爆買い?を終えて瀬戸崎家に戻ってきた僕らなのだが……何のやる気も起きない程に疲れ果てていた。

 原因は言うまでもなく桃花さんの荒すぎる運転のせいであり、その桃花さんは全員からの説教を受けた。

 だけど説教を受けた当の本人である桃花さんの現在はというと……リビングのソファーに座る僕の膝に頭を乗せ、討伐直後のスライムのように溶けきっていた。

 え~と、桃花さん?……その口から出そうになってるよだれはどうにかして欲しい、かな。


「俊吾様の膝枕~♪ 最高過ぎて寝てしまいそうですぅ~♪」

(ホントにメイド護衛隊副総長なのか、疑いたくなってしまうね…うん)


「完全にお兄様の膝枕で溶けきってますね、桃花さん…。

 瀬戸崎家全員からの説教を受けていた時のシュンっとした様子が皆無ですね。

 寧ろ演技だったのでは?と、疑いたくなってしまいました」


「でも、とても可愛らしい表情をしているわよ?」


「沙苗さん…桃花さんは普段からこんな感じですよ?

 こんなだらけきった表情をしながら当主である俊君に膝枕させているメイドが、瀬戸崎家メイド護衛隊副総長の役職持ちだと紹介されても、誰も信じないと思います」


「詩織、それは僕も思ってることだから」


 そう言って僕は桃花さんの頭を撫でながら(半ば強制的に)も言葉を続ける。


「でもね、これでも桃花さんは厳正な審査と試験を突破した上で日々の研鑽を積んできたからこそ、瀬戸崎家メイド護衛隊副総長という役職にまで昇格した実力者なんだよ。

 ……まぁ、桃花さんは僅か1ヶ月足らずで実力で副総長にまで上り詰めてしまったけれど」


 そう桃花さんのことを話す僕に、沙苗が聞いてくる。


「ねぇ俊吾、瀬戸崎家の護衛になるってのは…そんなに厳しいものなの?」


「うん、そうだよ沙苗。

 履歴書による審査、筆記試験、武術試験、家事試験の4項目からなる審査に合格しないと、メイド護衛隊になることは出来ないよ。

 まぁ、SPも同様の審査があるけれどもね。


 はっきり言うけれど、履歴書審査の時点で応募してきた人の内の99%は不合格となるね。

 履歴書審査を突破しても、筆記試験の採点時に満点でないと落ちる。

 2項目を突破した後に行われる武術試験にて、当主である僕を追い込むことが出来なければ不合格になる。

 3項目を突破した後に行われる最後の試験である家事試験で、当主である僕が指定した金額以内で食材を調達し、調達した食材を余すことなく使った料理を作り上げ、それを食べた僕が美味しいと思えるような料理を作ることが出来れば合格、出来なければ不合格になる。

 尚、履歴書審査は瀬戸崎家ではなく政府と宮内庁が行っているから」


 そう答えた僕に対し、沙苗が感想を述べる。


「……とても厳しい審査なのね。

 俊吾自らが武術試験の試験官を務めるということは、俊吾がそれだけ強いってことでしょ?

 それらを突破した上で今の地位にいる桃花さんは、非常に優秀ってことね」


「うん、桃花さんはとても優秀だよ。

 だって僕が初めて武術試験で負けてしまったから、ね」


「俊吾がどれだけ強いのかは、見てないから分からないけれど、桃花さんが相当強い…というのは理解したわ。

 だけど疑問があるのだけれど、聞いてもいい?」


 沙苗が何に関して僕に答えて欲しいか……について分かってしまったので、僕は先回りする形で答える。


「沙苗が僕に聞きたいことというのは……履歴書審査を何で瀬戸崎家ではなく"政府と宮内庁が行っているのか"についてだよね?」


「え、ええ。

 その事がどうしても気になってしまったのよ」


 僕は少し思案した後、沙苗に言う。


「既に沙苗は瀬戸崎家の身内だと思っていたから、何時かは話さなければならないと思っていたんだよね……僕の本当の正体を。

 唯それを話す前に……桃花さん、屋敷内にいる全員を直ぐに招集して」


 そう言って僕は桃花さんに指示を出す。

 すると、桃花は素早い動きで立ち上がってから僕に聞いてくる。


「こうしていながらも皆様のお話は聞いておりました。

 俊吾様がそう仰る、ということは……いよいよ沙苗様に話されるのですね?

 俊吾様の真の御身分に関してを、です」


「うん、そうだよ」


「場所は大ホールで宜しいでしょうか?」


「うん、場所はそこで大丈夫だよ」


「畏まりました。

 直ぐに集めて参りますので、先に移動をお願い致します。

 それでは失礼致します」


 僕とのやり取りを終えた後、桃花さんはリビングから出ていく。

 僕の雰囲気が変化したことを察した朱璃と詩織はソファーから立ち上がり、桃花さんの後を追うようにリビングから出ていく。

 朱璃と詩織までもがリビングから出ていったことに驚く沙苗に、僕もソファーから立ち上がりながら声を掛ける。


「さて沙苗、僕らも移動しようか……大ホールにね。

 そこで全てを話すよ……極一部しか知らない僕の本来の身分を、ね」


「う、うん…」


 そう戸惑った返事を返しながら慌てて立ち上がった沙苗と共に、僕らはリビングを出て大ホールに移動する。



 僕と沙苗が大ホールに着いた時、大ホール内には相良を始めとした屋敷で働く全使用人達が既に大ホール内に集結していた。

 偶然にも帰宅時間と被ったのか、大ホール内にはお爺様と兄貴の姿もあった。

 全員が集まっていることを確認した僕は、沙苗を伴って大ホール内の中央に位置する壇上へと向かい、登壇した。

 そして僕は、壇上に設置されたワイヤレスマイクのスイッチを入れて話し出す。


『皆、仕事の途中にも関わらず僕の招集に応じて集まってくれてありがとう。


 さて、今回集まってもらったのは……僕の隣にいる沙苗を我が瀬戸崎家の一員である事を、当主である僕が認めたという報告と、あの事を教えるのに見届け人が必要だったからだ。

 皆も沙苗のことは既に知っていると思うから、この場での紹介は省かせてもらう』


 そこで一旦区切り、息を整えてから再び話し始める。


『さて、全員に集まってもらった本題に入ろうと思う。

 僕の本来の身分を沙苗に明かそうと思うのだが……反対の者は挙手をして欲しい!

 決して気軽に明かせないものだから、認めない場合は遠慮なく手を挙げて欲しいと思う』


 しかし誰も手を挙げることはなかった。

 なので僕は話を続ける。


『反対の者が誰もいないので、僕の本来の身分を沙苗に明かします』


 そう言ってから僕は沙苗の方に向き直ってから口を開く。


『沙苗、僕が今から言うことは決して世間には公表出来ない……いや、時が来るまでは伏せ続けなければならない国家機密に当たることだと肝に銘じて聞いて欲しい。

 だから聞きたくない場合は、大ホールから退出しても問題ないからね?』


 そう僕が聞くと、沙苗は首を横に振ってから口を開く。


「いえ、退出はしないわ。

 だって俊吾がさっき言っていたじゃない…私も瀬戸崎家の一員だってね?

 だから私、最後まで聞くわ」


 沙苗の答えを聞いた僕は頷く。

 そして話し始める。


『僕は瀬戸崎財閥グループの2代目会長であり瀬戸崎家当主でもあるけど、僕には軽く明かすことが出来ない身分があるんだ。


 それが皇族という身分になる。

 より正確に言うならば"皇太子"ってこと』


「……………………」


 僕が皇族で皇太子である事を聞いた沙苗の時が止まる。

 暫くの時間だが石像になっていた沙苗だが、僕が言った意味を理解したようで、見ていて面白いくらいに慌てて片膝をついてこうべたれる沙苗。

 そして敬語で言う。


「こ、皇太子様とは露知らず、大変失礼致しましたっ!!」


 そう畏まって言う沙苗に、僕は苦笑いしながら言う。


『あ~………沙苗、頭を上げて立ち上がってくれないかな』


「む、無理無理無理無理です!!

 皇太子様であると知ってしまった以上、同じ目線でいることなど…わ、私には到底出来ませんっ!!」


 まぁ、沙苗がこうなってしまうことは予想出来ていたので、僕は沙苗に近寄って無理矢理立たせ、目線を合わせて言う。

 マイク越しではなく直でね。


「沙苗、どうか今まで通りに接してくれると…僕としても嬉しいかな。

 皇太子としての僕のお願い……聞いてくれるよね?」

(いくら何でも、このお願いはずるいよね…)


「ひゃ、ひゃい!!分かりましゅたからっ!!

 私を見続けるのはやめて欲しいです……は、恥ずかしいのでっ!!」


 あ~らら、見事にお顔が真っ赤に……って、僕のせいか。

 頭から湯気まで出ちゃってまぁまぁ……って、それも僕のせいか。

 流石にこれ以上、沙苗を晒し続けるのは良心が痛むから解散しよう。

 そう思って再びマイク越しに話し出す。


『あ~……なんだ、その…とりあえずは僕の身分を沙苗に明かす目的は達成出来たってことで!

 急な招集にも関わらずに集まってくれてありがとう!

 では以上! 解散っ!!』


 僕の解散宣言を聞いた使用人達は一斉に大ホールから出ていく……笑いたいのを必死に堪えようとした表情をしながら。

 後に残ったのは執事長の相良、メイド長の遥さん、お爺様、兄貴、朱璃、詩織、桃花さん、僕……そしてお顔が真っ赤な状態の沙苗だけとなった。

 なので僕らは大ホールを後にしてリビングへと戻ることにした。



 大ホールからリビングへと戻ってきた僕らは、それぞれがソファーに座る。

 遥さんだけは人数分の飲み物を用意し、それをソファー前に設置していたテーブルの上に置いた後、兄貴の隣に座る。

 そして淹れたての紅茶を一口飲んでから僕は口を開く。

 因みに沙苗は強制的に僕の左隣に座らされているよ……これも皇太子であると分かった僕に慣れる必要があるだろ!という皆の配慮?によるものだったりする。


「さて沙苗、少しは落ち着いたかな?」


「は、はい……」

(うん…落ち着けていないな…こりゃ)


 返事がまだぎこちないが、こればかりは慣れてもらう他ない。

 そう僕が思っていると、相良が沙苗に声を掛ける。


「沙苗様……俊吾様が皇太子様であることは決して他言しないようお願い致します。

 それとですが、これまで通りに俊吾様に接して頂ければと思います。

 ……直ぐには無理でしょうが、少しずつ慣れて頂ければとも思っております」


「は、はい……1日でも早く慣れるよう、善処致します」

(善処…か。 まぁ、致し方がないかな…)


 そう言う沙苗に今度は兄貴が声を掛ける。


「沙苗嬢の気持ちも分からなくもない。

 今まで普通に接していた俊吾が、実は皇族の一員だった……それも皇太子だと分かってしまったのだからな。

 でもまぁ世間一般に公表してない以上、俊吾は私立城西学園高校の1年生で瀬戸崎財閥グループ2代目会長としてでしかない。

 だから気軽に接してやってくれ。

 俊吾もそれを望んでいるからな。


 それと更に爆弾を落とすようで申し訳ないが、俺も皇族の一員になるね。

 俊吾の兄だと分かっている沙苗嬢は、俊吾が皇太子という時点で察しているのではないかな?」


「……ということは……っまさか!?」


 兄貴の話を聞いている中で、何かを察した沙苗が言う前に僕が言った。


「そう、沙苗が察した通りに僕のお母様……瀬戸崎 美菜みなは皇家の直系だよ。

 そして父さんである健吾けんごと結婚して生まれたのが僕と兄貴になるね」


 僕の言葉を引き継ぐような形でお爺様が話し出す。


「だから俊吾と俊介も皇家の直系となる。

 そしてこの瀬戸崎家は……皇家の直系である美菜様を守る為だけに興された家なのだよ。

 そういう目的の為だけに興された家だった筈なのだが、俊吾の母君である美菜様がある日突然、財閥を興したいですわ!という我儘を言い始めおってのぅ……。

 だが当時の政府と宮内庁であっても、美菜様の我儘を止めることは出来なかったのだ。

 だからつまり……結果から言えば美菜様は、美菜様と結婚した儂の一人息子の健吾と結託した上、政府と宮内庁の静止を振り切る形で強引に財閥を興してしまったのだ。

 更にそこに皇族の皆を巻き込んだ形で、だ。

 それらの経緯を経て、今の瀬戸崎財閥と瀬戸崎家に繋がるわけだ。


 そしてもう1つある。

 俊介が敢えて隠したことを儂は言おうと思う。


 俊吾と俊介の義妹の朱璃も、皇家の直系となる。

 沙苗嬢には更に混乱させるようなことを言ってしまい申し訳ない…とは思っておるのだが、現当主である俊吾が沙苗嬢も瀬戸崎家の一員だと宣言してしまった以上は……明かすべきだと思った。

 だから明かさせてもらった次第だ。


 儂からは以上だ」


 お爺様の話を聞いていたであろ沙苗の様子が気になった僕は、沙苗の方を見た瞬間には慌て出していた。

 だって沙苗は……頭から白い煙をモクモクと出しながら気絶していたのだから───


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る