第3話 俺の秘密を明かす時・後編

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 電車から降りた俺は、俺の胸に顔を埋めたまま抱き着いている沙苗を伴い、ホームの階段を登った先にある改札口に2人分の切符を通し、白蘭駅の出口へと歩いて行く。

 出口近くになって、俺の胸に顔を埋めていた沙苗に服を引っ張られたので、俺に話したいことがあるのかな?と思ったので、一先ず他の人の邪魔にならない場所に移動してから立ち止まり、沙苗を見る。

 そしたら沙苗も俺の方を見上げた後、口を開く。


「俊吾…さっきはごめんね」


「なんで沙苗が俺に謝るんだ?」


「それは…その……電車の中で泣いちゃったし、思わず抱き着いて俊吾の胸に顔を埋めちゃったからかな?顔を埋めてるのは今もだけど…」

(俊吾の匂い、好きだから離れたくないとは絶対に言えない…恥ずかしいから絶対にね!

 それに、俊吾の心臓の鼓動が早い…)


「別に謝る事じゃないでしょ、それはさ」

(今も抱き着かれてるから、かなりドキドキなんだけどな!)


「俊吾、迎えに来たぞ!」


 その時、俺の名前を呼ぶ声が聞こえたので、聞こえた方に振り返ると---そこには執事服をビシッと着こなした壮年の男性が立っていた。

 沙苗も驚いたのか、思わず俺から離れる。


「父さん!?なんでいるの!?」

(なんで、相良さがらがここに!?)」


「なんで居るのって言われてもなぁ。

 俊吾の帰りが何時もよりも遅いから心配になってな。

 だから迎えに来た」

(坊ちゃんを呼び捨てにする日が来ようとは…)


「そういうことか…。

 父さん、迎えに来てくれてありがとう。

 沙苗、この人が俺の父さんだよ」

(相良が来てるということは、メイド長のはるかさんも来てるな)


「は、初めまして! 俊吾さんと同じ城西学園でクラスメイトの西園寺沙苗と言います。

 いつも俊吾さんには良くしてもらってます!」

(流石にお父様の前で俊吾を呼び捨てには出来ないわね…)


「沙苗さんと言ったね。

 いつも息子の俊吾がお世話になっている。

 これからも息子と仲良くしてもらえるかな?」


「は、はい! 勿論です!」


「さて、ここでは落ち着いて話すことも出来ないから、そろそろ帰ろうか俊吾。

 外の駐車場に車を停めてるから、そこまで行こうか。

 お前のさんも待ってることだしな」


「分かったよ。 それじゃ沙苗さん、行こうか」

(ここは俺も沙苗に合わす形で敬称を付けとくか)


「はい!」


 俺のことを迎えに来た父さんと共に、俺と沙苗は駐車場に移動する。



 駐車場に移動すると、1台の高級車リムジンが停まっていた。

 そして、その車の傍には1人の女性が立っていた---メイド服姿で。


「俊吾、迎えに来たわよ!」


「母さんもありがとう」

(遥さんを"母さん"って…何か言いにくいなぁ)


「は、初めまして…俊吾さんのお母様!

 俊吾さんと同じ城西学園のクラスメイトで西園寺沙苗と申します!」

(なんで俊吾のお母様はメイド服姿なの!?)


「初めまして沙苗さん、俊吾の母です。

 まぁ立ち話もなんですから車に乗って下さい、沙苗さん。

 それから俊吾もね」

(俊吾様を呼び捨てにしなければならないなんて…。

後で叱られないことを願います)


「分かったよ、母さん」

(遥さんを"お母さん"呼び……慣れねぇ)


「分かりました、お母様。

 そ、それでは失礼します!!」


「沙苗さん、そんなに緊張しなくても。

 もっとリラックスして? ね?」


「は、はい!お母様!」


「全員乗ったことだし出発するぞ」


 そう言って相良さんは運転席に座り、ハンドルを握ると、車は静かに走り出す。

 走り出してから暫くして、俺は口を開く。


「改めて迎えありがとう、父さん母さん……いや、執事長の相良にメイド長の遥さん」


 俺の言葉を聞いた沙苗は「えっ!?」と、驚きの声をあげる。


「いえ、執事長兼専属執事として俊吾様のお迎えは当然のことでございます」


「俊吾様、私も相良さんと同じですよ?

 だから私共にお礼は不要にございます」


「沙苗さん、詳しいことは家に着いてから話すよ」


「俊吾さん、分かりました」


 沙苗は詳細を聞きたそうにして俺を見ていたが、俺がそう話した為、一先ひとまず納得してくれたみたいで、しつこく聞いてくることもなく俺の隣で大人しくしていた。

 ただし、俺の服の袖をギュッと掴みながらだったが。



 それから暫く走った後、俺の家に到着した。

 いや、家というよりも巨大な屋敷と言った方が正しいのかもしれないな。

 その証拠に、車から降りた沙苗が放った一言が、この屋敷の大きさを物語ってるだろうね。


「なによこの家のデカさは!?

 家というよりも、巨大な屋敷と言った方が正しいよ!?」

(おい沙苗よ…相良と遥さんの前で素が出ちゃってますよ~?)


「うん、正に巨大な屋敷だからね。

 改めてようこそ沙苗、俺の家に!」


「それでは俊吾様、西園寺様。中に入りましょう」


 そう相良に言われたので、俺と沙苗は中に入る。中に入ると、屋敷で働くメイド達がエントランスホールの両サイドに並んでおり、これまた一斉に頭を下げながら挨拶してくる。


「「お帰りなさいませ、俊吾様!!

 そしてようこそお越しくださいました、西園寺様!!」」


「ただいま、皆」

(沙苗を連れてくることを知っているとは……我が家の情報収集能力が優秀過ぎやしませんか!?)


「こ、こんな歓待を受けたのは初めてだわ私…」


「そうなんだね。

 まぁ、一先ずは応接室に移動しようか。相良、ご案内を」


「畏まりました、俊吾様。

 沙苗様、それではこちらへどうぞ」


 相良にそう言った俺は、沙苗と共に応接室へと移動する。



 応接室内へと入った俺は「ソファーに座るように」と言って沙苗に薦め、座ったのを確認してから俺も沙苗とは対面に位置するソファーへと腰掛ける。

 そのタイミングを見計らったかのように、メイド長の遥さんが淹れたての紅茶を俺と沙苗の前に置いてくれた。

 なのでそのお礼を言って一口飲んでから、俺は話し始めた。


「遥さん、紅茶をありがとう。


 さて、沙苗が気になるであろう俺の……いや、僕の素性を明かすよ」


「うん…」


「明かす前に確認なんだけど、沙苗って西園寺財閥グループの令嬢だよね?」


「ええ、そうだけど…。

 それがどうかしたの?」


「いや、この日本には西園寺財閥以外にも財閥グループがあるのは知ってるよね?」


「ええ勿論知ってるわよ?」


「沙苗なら知ってて当たり前だよね。

 その財閥グループの中でも最大規模の財閥グループは何処か知ってるかな?」


「当然、知ってるわよ?

 瀬戸崎財閥グループでしょ?……って、ん?瀬戸崎?

 確か俊吾の苗字も瀬戸崎よね?

 ……ってことはまさかねぇ。俊吾が瀬戸崎財閥グループの御曹司なわけがないわよね?

 偶然にも苗字が一緒なだけよね?」


「…正確には御曹司ではないよ、僕は。」


「正確には御曹司じゃない?って、どういうことなの?」


「それはね、日本最大規模の瀬戸崎財閥グループの御曹司じゃなく---僕が"現会長"だからだよ」


「は?……はあぁぁぁぁぁぁーーー!?」


 僕が瀬戸崎財閥の現会長、という事実を知った沙苗の驚きの声が屋敷内に木霊するのだった。



◇◆◇◆◇



 暫くして落ち着きを取り戻した沙苗…と思っていたら今度は物凄い剣幕でテーブルの上に身を乗り出して僕を見ながら聞いてくる。


「俊吾!!瀬戸崎財閥グループの現会長って、どういうことなわけ!?

 まだ私と同じ、高校1年生でしょ!?それに、貴方の父様と母様は何処にいるのよ!?」


「さ、沙苗様…。

 俊吾様がとてもびっくりしておられますので、少し落ち着いて下さい」


 驚きで何も言えなくなってしまった僕の代わりに相良が助け舟を出して沙苗を宥める言葉をかけた。


「あ、ごめんなさい。私ったら、あまりの衝撃発言に我を忘れてましたわ…」


 相良に言われて僕の様子を見た沙苗はハッとした表情をし、相良に謝罪した。


 それから少しして、沙苗が紅茶を一口飲んで落ち着いた頃を見計らって僕は話し始める。


「沙苗が落ち着いてきたから、僕が会長になった経緯とそれから何故この場に両親が居ないのかについての説明をしたいんだけど、いいかな?」


「さっきは本当にごめんなさい!もう落ち着いたから大丈夫よ。

 だから聞かせて---貴方が会長になった経緯の全てを」


「うん、分かった。 それじゃ話し始めるよ。

 この話には、この場に居ない父さんと母さんの話にも繋がるんだけどね。

 僕の父親は一代で今の瀬戸崎財閥グループを築き上げた凄い人だった。

 だけど僕が中学を卒業する日、僕の卒業式が行われる中学校に向かう途中で居眠り運転の大型トラックに追突され、搬送先の病院で亡くなったんだよね。

ニュースにもなったから、事故の話くらいは知ってると思う…」


「っ!?……嫌なことを思い出させてしまって、ごめんなさい。でも、そのニュース自体は見たことがあったけど、その事故で亡くなったのが俊吾のお父様だとは思わなかったわ…」


 そう言って心痛な表情を浮かべる沙苗を安心させるようと思った僕は言う。


「沙苗、心の整理はついてるから気にしないで。

 知らなくても無理はないか…僕の存在は世間一般には伏せられてたんだからね。

 あ、僕の母親は此処とは別の場所に暮らしてるから…そこは安心して欲しいかな。

 唯…今はまだ母親の素性を明かすことは出来ないのが心苦しいけどね」

(他にもまだ話してないことがあるけど、時が来たら必ず話すから…。

例えば…僕の義妹のこととか、ね。

だから今は…沙苗、全てを話せない僕を許してね)


 そこで話を区切って紅茶を口に含んでから再度、続きを話し始める。


「話の続きだけど…父親が亡くなった後、誰が父親亡き後の財閥を引き継ぐかの話し合いが本社で行われた。

 本来であれば…財閥の会長職には大幹部の1人が引き継ぐ予定だったんだけど、その人が財閥の金を横領してることが発覚したんだよね。

 …それも就任式当日という目出度い日に、ね」


 そう言って僕はまた紅茶を一口飲み、呼吸を整えてから再び話し始める。


「就任式当日に不正が発覚したもんだから、就任式の内容が次の会長は誰がやるという話し合いの場と化してね。

 その話し合いの結果、揉めに揉めた末だったかな…最終的に何故か父親の一人息子の僕が父の跡を継ぐ形で、瀬戸崎財閥グループの会長に就任することが決まってしまったんだよね。

 だから高校に入学する迄の僅かな期間で、経営に必要な知識だとか、瀬戸崎財閥グループで何をやってるか、とかなのは全て覚えさせられた。

 僕的にはまだまだ"唯の学生としての生活"を存分に謳歌したかったんだけどね…」


 ここまでの僕の話を静かに聞いていた沙苗は、紅茶を一口飲んでから口を開く。


「俊吾の説明で大体のことは分かったわ。なんて言っていいのかは分からないけど……会長職、頑張って!」


「沙苗、ありがとう。


 それでさ…今更感はあると思うんだけど、執事長の相良とメイド長の遥さんのことを沙苗に紹介するよ。

 2人共、沙苗に自己紹介を」


「畏まりました、俊吾様。

 西園寺様、この瀬戸崎財閥グループ会長である俊吾様の専属執事と瀬戸崎家執事長を仰せつかっている相良さがら 宗正そうじと申します。

 それと以前は"瀬戸崎ホールディングス株式会社の会長"をしておりました。

 これから宜しくお願い致します」


「相良さん、こちらこそ宜しくお願い致します」


「次は私ですね。

 瀬戸崎家のメイド長を仰せつかっている望月もちづき はるかと申します。

 今年で21歳になります!」


「遥さん、自分の年齢まで紹介する必要はないんじゃないのかな?って、僕は思うのだけど?」


「別に言っても良いではないですか!

 …ということで西園寺様、私のことも今後とも宜しくお願い致します!」


「遥さん、こちらこそ今後とも宜しくお願い致します!」


 2人の自己紹介が終わった所で、扉をノックする音が聞こえる。

 そしてその音に反応した相良が応対する。


「…入ってきなさい」


『はい、失礼致します』


「今は来客中ですよ? 一体、何事ですか?」


「重要な来客中に申し訳ございません、俊吾様、相良様、遥様、西園寺様。

 それがその…西園寺財閥グループ会長の西園寺 誠二郎せいじろうと名乗る方が"我が娘が此処に居るだろ"と言って、何のアポイントもなくこのようなに尋ねてきまして…。

 どうすれば良いかの判断を仰ぎに来ま次第です」


 メイドの説明に反応を示したのは、僕の対面に座る沙苗だった。


「えっ!?お父様が!?なんでこの場所が!?」


 突然の父の来訪に驚きと狼狽えを隠しきれてない沙苗を横目に見ながら、僕は伝えに来たメイドに告げる。


「伝えに来てくれてありがとう。

 この時間に騒がれても周囲に迷惑が掛かるだろうから…この部屋に案内して差し上げてくれ」


「畏まりました、直ぐにお連れ致します。

 …念の為に警備を強化しておきます。

 では失礼します」


 退出してくメイドを見送った後に沙苗を見ると、彼女は怯えた表情な上、身体を震わせながら何かを呟いていた。


「なんで……お父様が……」


 声が小さ過ぎて聞こえなかったが、唯ならぬ様子の彼女に僕は言う。


「沙苗、大丈夫だから僕に全て任せて欲しい」


「俊吾……しゅんごーーー!!」


 僕が掛けた言葉に安心した表情になった沙苗は、僕の隣に移動してきて抱きついてくる。

 そんな彼女の頭を優しく撫でながら、西園寺財閥グループ現会長である西園寺 誠司郎を待つ。

 いい大人がなんて非常識な時間に、と思いながら───



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【補足説明】


 この作中に出てくる財閥とは、日本経済の中枢を担っている企業の集合体の総称です。


 俊吾が会長の座についている瀬戸崎財閥を筆頭に、8大財閥が日本の経済を回していると言われています(あくまでも作中での話です)。

 今はまだ2つの財閥しか登場していませんが、物語が進行していくに連れて明らかになっていく予定です。








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