第2話 俺の秘密を明かす時・前編
俺と沙苗さんは、城西学園から出て城西駅へと向かっていた。
歩いていると、隣にいる沙苗さんが話し掛けてきた。
「俊吾さんは、私が家出をした経緯とかを聞いてこないけど、なんでかな?」
「落ち着いた場所で詳細を聞こうかなって思ってたからだよ。
帰宅途中に聞くような内容じゃないなって思ってね。
だから…今は聞かないよ」
「気を使ってくれて、ありがとう」
「別にお礼を言われるような事じゃないよ…っと、話してる間に城西駅に着いたな」
「ほんとだ。 城西学園から徒歩で15分位だから、あっという間に着いちゃったね!」
「そうだな。 さてと、時刻表を確認しないとな。
この時間帯に乗ることがあまりないから、電車があるかどうか…」
「そうなんだね。 でも、私もこの時間帯に電車に乗ったことはないかな。
丁度いい時間の電車があるといいね、俊吾さん!」
「そうだな」
そう話し合った俺と沙苗は駅の中に入り、時刻表前へと移動する。
この城西駅から俺の家までの最寄り駅である白蘭駅までは、15分少々で着く。
白蘭駅から更に歩いて20分程で俺の家に辿り着く感じだ。
だから、家から城西学園迄の通学時間は約1時間掛かる計算になる。
まぁ、家の車で行くのなら約35分程で城西学園に着くのだが、俺が瀬戸崎財閥グループの会長であるという秘密をバラしたくないがため、仕方がなく電車通学してるって感じだ。
さて、時刻表の前に着いたので電車の発車時刻を確認する。
「お、白蘭駅に18時30分発の電車があったぞ!
現在の時間が18時25分だから、急いで切符を買って乗らないと間に合わない!」
「えっ!? それは急がなきゃだね!!」
「だな!」
時刻表で白蘭駅行きの電車時間を確認した俺と沙苗さんは急いで切符売り場へと移動し、切符を買う。
だが、問題が発生した。
「あっ!!」
「どうした? なんか問題でもあったか?」
「えっと…その…財布の中のお金の残金を確認せずに家を出ちゃったから……切符代が足りません!
だから俊吾さん、切符代を貸して!!お願いします!!」
「…ははは。 沙苗さんって、意外とおっちょこちょいな所があるんだな!
切符代は俺が奢るから安心して!
ぷっ、くくく!」
「ありがとう!って、そんなに笑うことないでしょう!?俊吾さんのばかぁぁ!!」
沙苗さんの意外な一面が見れた俺は、思わず笑ってしまう。
そんな俺を、顔を真っ赤に染めながらポカポカと胸を叩いてくる沙苗さん。
そんなことを切符売り場でしてると、
『間もなく、18時30分発白蘭駅行き各駅電車の発車時刻となります。お乗りの方はお急ぎ下さい!繰り返し連絡します。間もなく──』
という構内アナウンスが流れるのを聞いた俺と沙苗さんは、慌てて切符を買って改札を通り、階段を駆け下りて、何とか電車に乗ることができた。
それから間もなくして、白蘭駅行きの電車が発車するのだった。
◇◆◇◆◇
何とか白蘭駅行きの電車内に滑り込んだ俺と沙苗さんは、息も絶え絶えの状態だった。
それから間もなくして電車が発車した頃、少し呼吸が安定しだした沙苗さんが話し掛けてくる。
「ギリギリ発車時刻に間に合ったわね、俊吾さん」
(もう完全に素で話してるよ、この人)
「そうだな。 だがしかし、座るところがないな」
「だね。 この時間帯でも混雑してるのね」
「帰宅ラッシュだから、仕方がないのかもしれないな」
「そうだね」
周りを見回してみても、帰宅ラッシュの時間帯ということもあり、俺と沙苗さんは席に座ることも出来ずに、入口付近で立っていた。
沙苗さんに気付かれないよう、俺はさり気なく沙苗さんを守るように立つ。
そんな俺に、沙苗さんは更に話し掛けてくる。
「ねぇ俊吾さん?」
「ん、どうした?」
「私を守るように立ってくれて、ありがとね♪
そういう男子って、女子からすると評価ポイントが高かったりするんだよ? 知ってた?」
そう言って、首を
「っ!? いや、知らなかったよ。
さり気なさを装ってたのに気付かれてたとは思わなかったよ」
「俊吾って、分かりやすいからね!それに俊吾ってね、クラスの女子や同じ学年の女子に人気なんだよ?」
「えっ!?そうなのか!?
知らなかったよ---ってか、俺の名前の呼び方が変わってる…」
俺が女子達に人気だって知らなかったな。
それと、沙苗さんに名前を呼び捨てにされて少しだけ恥ずかしかったが、気づかれる訳にはいかないな。
そんなことを俺が思ってるのを知ってか知らずか、沙苗さんは更に口を開く。
「名前を呼び捨てるの……ダメ、だったかな?
同い歳でクラスメイトだから、呼び捨てで呼んでも良いかなって思ったんだけど…どうかな?」
そう言って上目遣いに俺を見上げて言ってくる沙苗さ……沙苗に、内心慌てながらも言葉を返す。
「そ、そうだよな!?
同い歳でクラスメイトでもあるんだから、呼び捨てでも良いよな!?」
「なに、俊吾ったら照れてるの?意外と可愛いところあるんだね!」
「て、照れてなんてないよ!?ってか、可愛いってなんだよ!
…あ、さてはさっきの仕返しのつもりなのか!」
「ふふっ♪ さあ、どうかしらね」
そう言って笑って誤魔化してる沙苗だけど、そんな彼女の顔はほんのりと赤く染まっていた。
そんな沙苗が、真面目な口調で話し始める。
「俊吾ってさ、いつもクラスメイトの皆が困ってる時は必ず手を差し伸べるよね…男女問わずに。
だからなのか、クラスの男子からは頼りにされてるし女子からも頼りにされてる。
そんな俊吾を狙う女子が結構いるんだよ---城西学園にはね!
俊吾は知らなかったでしょ?
まぁ、俊吾のことを狙ってる女子は、同学年だけじゃなくて上級生の中にもいるって噂もあるんだよ?」
沙苗からその話を聞いた俺は、照れ臭くなりつつも言葉を返す。
「それこそ、俺は知らなかったよ。
改めて言われると照れ臭いな!
だけどそもそもの話なんだけど、困ってる人に手を差し伸べるのは人として当たり前のことじゃないのか?
義務感だとか正義感だとかなんてのは、俺にとってはどうでもいいんだ。
周りに助けを求める人が居たら助けたい・困ってる人が居たら、その人の助けになりたい……そう思ってるだけだよ、俺は。
だからなのかな、沙苗が家出して泊めて欲しいって俺に言ってきた時に思ったんだよね---沙苗を放っておくことなんて俺には出来ないなってさ!
だから、沙苗を俺の家に泊めることにしたんだ」
そうやって俺が話し終えた時、沙苗が急に俺に抱き着いてきて、俺の胸に顔を埋めながら口を開く---それも泣きながらである。
「…えぐ……ぐす……ありがとう、しゅんごぉぉぉーー!!」
そんな沙苗に対して俺は、なんで泣いてるのかが分からずに困惑しつつも、優しく彼女の背中に両腕を回して抱きしめる。
その時、周りにいた乗客から拍手の嵐が沸き起こる。
「兄ちゃん、よく言った!
お前さんは男の中の男だなぁ!!」
「若いのにしっかりした考えを持った兄ちゃんだなぁ!!俺、感動しちまったよ!!」
「若いのに立派な男だね、アンタは!!
私があと10年若ければ…」
(どさくさに紛れて何を言ってるんですか!?)
「今時の若者も、まだまだ捨てたもんじゃないな!!
ほんとに高校生かって疑っちまったよ、俺はな!!」
「素敵!!あの子がいなかったらアタックしたのになぁ!」
(貴女も一体、何を言ってるんですかぁ!?)
などと言われた。
所々の言葉は聞かなかったことにしよう…うん、それがいい。
そんな感じで周りにいた乗客達に言われて照れていた時、
『間もなく、次の停車駅である白蘭駅に停車致します。お降りのお客様は車内にお忘れ物ないように確認の上、慌てて転ばないようにお気を付けてお降り下さい!繰り返し連絡致します。間もなく───』
という車内アナウンスが流れたので、駅のホームに入って停車した電車の扉が開いた途端に、俺と沙苗は、降りる他の乗客に混じるように慌てて電車から降りるのだった。乗客達からの暖かい言葉に対しての恥ずかしさから逃げるように───
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