第7話 死闘

 ザザンとデルバルトは、剣と盾を手に睨み合っていた。


 この勝敗により、セリーナの罪が決まる。

 ザザンが勝てば無罪、デルバルトが勝てば死罪。


 実力は、ザザンが圧倒的に上回っている。

 彼が勝つであろうことは、誰の目からも明らかであった。


 しかし、セリーナは嫌な予感がしていた。


 視線を彼らの後ろへ移す。


 紫色のローブを身につけた男が目に入る。

 レグザムは、不適な笑みを浮かべていた。


「始め!」

 聴衆が、固唾を飲んで見守る中、シルヴァの号令によって、戦いの火蓋が切られる。


 先に仕掛けたのは、デルバルトだった。

 盾を体の前に構えながら、右手の剣を振り下ろす。


「遅いな」

 ザザンは盾でその剣を跳ね返す。


 デルバルトは、何度も斬りかかるが、ザザンの盾に押し返され、徐々に後ろへ下がっていく。


 ザザンは落ち着いて、相手の動きを見極めていた。

 この男が、この実力で、なぜ挑んできたのか、ザザンには理解できなかった。


 万に一つも、彼に勝ち目などない。

 これだけの実力差があることは、本人も分かっていたはずだ。


「何を企んでいる?」


 デルバルトからの返事はない。

 彼は再度こちらに向かって来る。


 ここから何か、策でもあるのだろうか?

 このまま倒してしまって、良いのだろうか?


 圧倒的に優位に立っているからこそ、彼はこの状況に戸惑いを感じていた。


(いや、悩んだところで答えは出ぬか)

 こんな時は、できることにひたむきに取り組むしかない。


 ザザンは、かつて国王に言われた言葉を思い出す。


(私に、迷いなどはない)

 剣を握る手に、力が入る。


 デルバルトの一撃を盾で押し返す。

 そのまま盾で相手の体を押し込み、体勢を崩す。


 後方にのけ反ったデルバルトの胴体に、剣を振り下ろした。

 ザザンの最初の一撃は、デルバルトの上半身を、鎧ごと斜めに斬りつけた。


 勝負はついた、はずだった。

 斬られたデルバルトが、何事もなかったかのように再度斬りかかる。


(どういうことだ?)

 この傷では、剣を振ることなどできないはずだ。


 ザザンは動揺するも、盾で攻撃を受け切る。


(こ、これは)

 その一撃は、先ほどまで受けていたものよりも、重たくなっていた。


 ザザンは、デルバルトの攻撃後の隙をついて、2度目の斬撃を与える。


 水平に斬りつけた刃は、デルバルトの胴体にヒットする。

 鎧を切り裂き、彼の体に到達する。


 しかし、剣はそこで止まってしまう。


 その状態から、デルバルトが斬りかかる。


 ザザンは何とか盾で防ぐも、盾が後方へ弾き飛ばされる。


「しまった……」

 身を守る術を失ってしまった。


 デルバルトの体から剣を引き抜き、後ろへ下がる。

 両手で剣を握り直し、前方に向ける。


 すかさず、デルバルトが近づいて来る。

 彼の後方では、レグザムが杖を構えていた。


(ヤツが、何かしているのだろう)

 ザザンは、自らの敗北を悟っていた。


(ここで、私は死ぬだろう。ならば、最後に何ができる?)


 ただやられるわけにはいかない。

 少しでも、セリーナ様のために命を使いたい。


 彼はそう考えていた。


「デルバルトよ! この神聖な決闘において、他人の力を借りるとはな!」

 まるで、負け惜しみのようなセリフを口にする。


「……」

 デルバルトは、何も言わずに距離を詰めてくる。


(反応なしか。構わん)

 ザザンの言葉は、聴衆に向けたものだった。


「果たして、アルドの神が、その行為を認めるだろうか!?」

 国王の後継者としての正当性に、少しでも疑問を持たせようとしていたのだ。


「少なくとも、私は認めん。命を賭してでもな」

 そう言って、デルバルトの首に斬りかかる。


 剣は首にヒットするも、やはり、そこから先に進まなかった。


(セリーナ様、どうかご無事で)


 次の瞬間、ザザンの首が宙に舞う。


 デルバルトの一撃が、ザザンの体から頭を切り離した。


 飛ばされた首は地面を転がり、首から下はその場で倒れ込んだ。


 広場の聴衆から悲鳴が上がる。


「ザザン……」

 セリーナの口から、無意識に声が漏れていた。


 決闘裁判に負けたことよりも、彼の死が、ただただショックであった。


「勝負あったようですね。さあ、宣言を」

 レグザムがシルヴァに進行を促す。


「い、今の勝負には、外部からの支援があったように見えた。正当な決闘だとは……」

 シルヴァの言葉を聞き、レグザムが剣を握る。


「私の負けです!」

 セリーナが声を上げる。

 これ以上、仲間の死を見たくはなかった。


「ですから、裁判長。私は、罪を受け入れます」

 シルヴァの目を真っ直ぐに見て言う。


 彼は、口を震わせながら、判決を宣言する。

「セリーナ、様、判決は、死罪……」


 その宣告に、広場は騒然となった。

 シルヴァが膝から崩れ落ちる。

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