第6話 決闘裁判

 翌日、セリーナは、裁判場に連れて来られた。


 その場には 国王軍の親衛隊、魔法使い軍、レグザム、そして従兄弟のデルバルドがいた。


 おそらく、レグザムは彼を後継に立てるつもりだろう。

 そして、100人を超える大勢の聴衆が周りを囲み、行く末を見守っていた。


 親衛隊の隊長であるザザンが声を上げる。

「四天王が全員不在なのは、どういうことでしょう?」


 その問いに、裁判長のシルヴァが回答する。

「国王暗殺に加担した可能性のある者は、陪席を認めておりません」


 本当にそうだろうか?

 彼らがいることで、何か困ることでもあるのだろうか?


 ザザンもシルヴァも、長らく国に仕えた忠臣であった。

 彼らまでが、レグザムについたとは考えたくない。


 しかし、最悪の事態を想定しておいた方が良い。


 シルヴァが進行する。

「ではレグザム殿、説明してください」

「はい」


 レグザムが立ち上がり、セリーナに国王暗殺の疑いがあることを話す。


 そして、その罪状からして、死罪が妥当であると。


 続いて、デルバルドが立ち上がる。

「アルバート国王には、大変お世話になりました。その恩の大きさは計り知れないほどです」

 言葉とは反対に、淡々とした感情のない話し方だった。


「仮に、その犯人がこの場にいるならば。それがたとえ、ご子息様であっても、到底許すことはできません」

 国王との関係を強調し、後継としての正当性をアピールするつもりだろう。


「セリーナ殿。申し開きはございますか?」


 シルヴァに発言を促され、口を開く。

「無実の罪で疑いの目を向けられるのは、胸が痛みます。しかし、今はそれ以上に、偉大な父の死が悲しくてたまりません。レグザム殿の手配で、私は父の死に目に立ち会うことすらできませんでした」


 会場で、誰かのすすり泣く声が聞こえる。父の死を純粋に悲しむ者も、この場にはいた。


 シルヴァの顔を見ると、彼の目は赤くなっていた。

「レグザム殿。これまでの情報では、セリーナ殿が犯人である確証はございません。何か証拠でもおありでしょうか?」


 レグザムは、部下に指示し、2つの小瓶を用意する。

 さらに、衛兵たちが拘束された男を連れて来る。


「これは、セリーナ様の部屋で見つかった小瓶です。どちらも、ただの水のように見えますが」

 そう言って、彼は器にそれぞれの液体を注ぐ。


「混ぜ合わせると、毒物となります。これを」

 器を衛兵に手渡す。


 衛兵は、拘束した男に、無理矢理その液体を飲ませた。


「この男は、殺人の罪で、死刑が決まっていた者です」

 レグザムの説明が終わる前に、男が悶え始める。


 手足をばたつかせながら、液体を吐こうと咳き込んでいた。


 会場がざわめきだす。


 やがて、体を小刻みに震わせ、その場に倒れ込む。


 そのまま男は、息を引き取った。


 会場は沈黙で包まれていた。


「レグザム殿、神聖な裁判の場で、そのようなことは」

 シルヴァが強い口調で指摘する。


「申し訳ございません。しかし、この毒の脅威はお伝えできたかと」

「しかし、それをセリーナ殿が飲ませたという証拠にはならん」

「おっしゃる通りです。しかし、後継者不在の状況を長引かせては、国の威信に関わります。迅速な解決が必須でしょう」

「それはそうだが。では、どうすると言うのだ?」


 デルバルトが前に出る。

「決闘裁判を申請します」

 会場がざわめく。


 決闘裁判とは、罪の有無を、殺し合いで決定するものだ。

 父の代になってからは、一度も行われていない。


「決闘裁判だと? お主が戦うのか?」

 シルヴァがデルバルトに問いかける。


「もちろんです。亡き国王のために」


 彼らの狙いが理解できた。


 決闘裁判でデルバルトに勝たせ、私を抹殺する。

 そうすることで、彼が後継する正当性も高めることができるというわけだ。


「しかし、王女様に戦わせるわけにはいかん。誰か、代理の者はおらんか?」

 そう言って、シルヴァが会場を見回す。


「もちろん。私がやる」

 ザザンが声をあげた。


 会場からは、歓声や、拍手の音が聞こえる。


「ザザンか。では、他の希望者を募る必要はなさそうだな」

 シルヴァが言う。


 四天王不在の中、ザザンがこの場で最も強いのは間違いない。


 しかし、何かおかしい。


 この状況は、レグザムが仕込んだもののはずだ。


 デルバルトが、剣技も経験も圧倒するザザンに勝てるわけがない。


「待ちなさい。私は承諾していません」

 無駄と知りつつも、声をあげた。


「セリーナ殿、往生際が悪いですぞ」

 レグザムが言う。


「セリーナ様、どうかお引き受けください」

 小声でシルヴァが言う。

 おそらく彼はザザンの勝利を疑っていないようだ。


 こちらの回答を待つこともなく、裁判は進行していった。


 広場の中央に丸い空間を作り、武装した2人が向き合う。

 2人は鎧をまとい、右手に剣、左手に盾を構えていた。


 広場には、冷たい風が吹き込んでいた。

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