第4話 首領狼現る

  ボスウルフが、唸り声を上げて走り寄る。


 あっという間に、こちらとの距離が詰められていく。


 そして、その白い巨体が空中に跳び上がる。


(なんて脚力だ)


 それは、10メートルを超える程の高さだった。


 双剣を頭上でクロスさせ、攻撃に備える。


 振り下ろされる右の前足を、2本の剣で受け止める。


(これ、は、)

 重量に、スピードとパワーが上乗せされた一撃は、予想外に強烈であった。

 下手に耐えるより、衝撃を受け流した方が良い。


 レオナルドの体が、後方に大きく吹き飛ばされる。


 地面の上を回転しながら、なんとか体勢を立て直す。


「なかなかの威力だな」

 攻撃の当たりどころが悪かったら、大きなダメージを負っていただろう。


 敵は再度、こちらに向かって攻撃するための助走をつけていた。

 またもや空高く跳び上がる。


 双剣をクロスさせる。


「これで終わりだ」


 今度は身を守るためではない。反撃するためだ。


 炎剣と雷剣を重ね、技を放つ。


 〜無慈悲な雷炎〜


 剣を重ね合わせた箇所から、炎に包まれた雷が、放射状に放たれる。


 雷炎は、突っ込んできたボスウルフへ直撃する。


 その体は、空中で一瞬の間に焼きつくされる。


 地面には、何も落ちてくることはなかった。


 肉の焦げる臭いだけを残し、魔物は消滅した。


 辺りを見回すと、周囲にいたウルフは、一頭残らず姿を消していた。

 これだけの実力差を見せつければ、のうここには近寄らないだろう。

 

 依頼を終えたレオナルドは、商店へ報告に戻った。



 ――「もう済んだの? 早いわねぇ!」


 店主の女性が、目を丸くして言う。

 念のため、証拠としてウルフの牙を見せてあげた。


「しばらくは、あの場所に近寄らないと思います。もしまた出たら、無償で討伐します」

「あらあら、アフターフォローまでバッチリね。ほら、これ報酬」

 金貨の入った布袋を手渡される。中には薬草も入っていた。


 その薬草を見て彼女が言う。

「使う必要なかったみたいだけど」

「ありがとうございます」

 気持ちだけでも嬉しいものだ。


 これだけの金があれば、しばらく生活する分には困らない。

 このまま、他の依頼を受け続けるか、他にすべきことがあるか。


 先のことを考えようとするが、正解が見つからない。


 こんな時、あの人だったらどうするだろう?

 彼女なら、いつだって、すぐに答えを導き出す。

 

 私はただ、その指示に従ってさえいれば間違いなかった。

 その彼女が、なぜあのような選択をしたのか。


 レオナルドの頭には、セリーナの顔が浮かんでいた。


 ぼんやり考えごとをしていると、店主の言葉で現実に引き戻される。

「そういえば……」

 急に彼女の表情が曇る。


「どうしました?」

 彼女は言いづらそうに、言葉を続ける。

「アルド国の噂なんだけど、聞いてる?」

「アルド国の噂? いいえ、知りません」


 嫌な予感がしてしまう。


 店主は、この先を言っても良いものかと逡巡しているようだ。

 黙って、話し出すのを待つ。


「まあ、噂なんだけど……あの国の国王が、毒殺されたそうよ」

 体の芯に衝撃が走る。

 返す言葉が出てこない。


(毒殺だと? いや、ただの噂だ……)

 そう思おうとしたが、動揺は収まらない。


「もちろん、誤報かもしれないけど。ずいぶん広まってるみたいよ……」

 私の反応を見て、気の毒そうに言葉を続ける。


「……その話は、どこで?」

「酒場に商品を届けに行った時、そこの店主に聞いたの」

「……そうですか。教えてくれてありがとうございます」


 誤報だとは言い切れない。

 確認するために、国へ戻るべきだろうか?

 自分が行ったところで、何ができるのだろうか?


 何が最適な行動であるか、やはり判断がつかなかった。


「それでね。聞いた話だとね」

 女店主が続ける。


「その犯人として、王女さんが疑われてるそうよ」

 再び衝撃が走る。確かに、真っ先に怪しまれるのは彼女だろう。


「それで、王女はどうしてるのですか?」

「ごめんなさい。これ以上のことはわからないわ」

「いいえ。ありがとうございます」

 そう言って、商店を後にした。


 もう考える必要などない。

 やるべきことは決まっていた。

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