第2話 裏切り
……気付くと、レオナルドはいつの間にか、玉座の間にいた。
これは夢の中だろうか。
「すまんな。まんまと嵌められた」
アルバート国王が言う。
これは、玉座の間での過去の記憶だった。
「アルバート様の責任ではありません。しかし、この後のことが心配です」
国王側の勢力が減ることで、さらに好き勝手を許すことになりかねない。
「また何か、手を打ってくるだろうな」
「はい」
できれば、国王のそばで、国のために尽くしたかった。
「しばらくは、隣国で大人しくしてくれ。時が来たら動けるようにな」
「かしこまりました」
今はこれに従うほかない。
国王も、ことを荒立てたくはないだろう。
「しかし、セリーナも大変なことをしてくれる」
アルバートが苦々しい表情で言う。
「セリーナ様にもお考えがあるのでしょう。聡明な方ですから」
「そうだが、取り巻きがよくない。やはり魔法使いなど、信用ならんわ」
国王の魔法嫌いは相変わらずだった。これがセリーナとの不仲の要因でもある。
――目が覚める。トロストの宿屋にあるベッドの上で横たわっていた。
体を起こし、鎧を身につける。
財布を取り出してみる。
中には、今日を過ごすだけの金しかなかった。
(出るか)
仕事を探しに町へ繰り出す。
町の酒場へ足を運んだ。
酒場の掲示板に、クエストが貼り出されている。
依頼内容と達成報酬を確認し、引き受けるつもりがあれば依頼主のもとに話を聞きに行くという流れだ。
(これが良いか)
『魔物の討伐依頼』を選択する。
依頼主は、商店の店主だ。
貼り紙をはがし、商店に向かった。
「助かるよー。こいつのせいで仕入れが止まってんのよ」
商店に着くと、こちらが何も言う前に、店主の女性がまくし立てる。
手に持った依頼書を見て、察したのだろう。
「は、はい」
女店主の圧に、たじろいでしまう。
「ところで、あんた見ない顔だね。どっから来たの?」
「アルド国です」
出身を隠すつもりはなかった。
ただ、目立たないようにだけ注意する。
「あの国も大変だねぇ。危ない国に囲まれちゃって」
「ええ」
その通りだった。
もはや、いつ戦争が起きてもおかしくはない。
「優秀な王女さんが頑張ってるみたいだけど」
少しの雑談の後、依頼の詳細を確認し、目的地へと向かった。
セリーナ様の聡明さは、隣国にも伝わっていたようだ。
自分のことではなかったが、少し誇らしい気持ちが生まれていた。
(しかし、どうしてこんなことに)
王女セリーナの裏切りの瞬間が、頭の中に浮かぶ。
――アルド国の聖域と呼ばれる、星の祭壇での出来事だった。
この祭壇が、何者かに破壊された。
セリーナは、疑いの目をアルバート国王に向けさせようとしていた。
「確かに、お父様の仕業でないことは理解できたわ」
セリーナの目論見は、失敗に終わる。
国王のアリバイが証明されたのだ。
「それで、これは私が仕組んだことだって言いたいのね」
疑いの目は彼女に返ってくる。
「違うか? こんなことをして得するのは、お前くらいだ」
アルバート国王が、静かにそう答える。
しかし、セリーナに動揺した様子はない。
「どうかしら? そうやって、私のことを嵌めようとしているのでは?」
「どういうことだ?」
「レグザム」
新参者の魔法使いの名を呼ぶ。
「はっ」
レグザムが魔法を用いて、映像を映し出す。
空中に、星の祭壇の様子が投影された。
両手に剣を持つ何者かが、星の祭壇に向けて双剣を振るっていた。
その何者かの姿は、はっきりと認識できない。
剣から放たれた雷と炎の斬撃が、祭壇を切り裂いた。
「こんな芸当ができるのは、双剣使いのレオナルドくらいよね」
映し出された映像に視線を向けながら言う。
「そんなことをするわけがないだろう」
呆れたようにアルバートが返す。
「これはお父様の責任? それとも、レオナルド本人の責任かしら?」
セリーナは、私には目もくれず、国王に詰め寄る。
「アルバート様。ここは丸く収めましょう。私が責任を負います」
国王に、そう耳打ちをする。
セリーナが、顔を背ける。
このやり取りの最中、彼女とは一度も目が合うことはなかった。
(果たして、これで良かったのだろうか?)
今になって考えると、これが最善の手立てだったかは分からない。
不穏な空気の漂う祖国を離れることが、正解だったのだろうか。
セリーナが国王と向き合う。
「彼には長年、国に仕えた功績があるわ。殺しはしません。国外追放とします」
(殺すつもりはない、というのは本心だろう。いや、そうだと思いたい)
ということは、レオナルドに追手を仕向けた黒幕が、他にいることとなる。
「国王。これからは家臣の行動に注視するよう、お願いいたします」
レグザムがそう言い残し、去って行く。
彼をにらみつけるアルバートの目は、それだけで人を殺せそうな鋭さをしていた。
――辺りを見渡すと、店主に依頼されていた場所にたどり着いていた。
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