Act.2
「…多すぎ」
ダンボールの中は、何なのかまるでわからない代物で溢れかえっていた。
動物を模した像であったり、欠けた土器等。あとは無数にある写真の束。
この写真がまた曲者だった。束ごとに分野別なのかと思ったら、ただの日付ごとだったものだから、一枚一枚資料と照らし合わせながら分類してかなくちゃならない。
こりゃ、生徒に頼みたくもなると社会科の先生に少しだけ同情しつつ、僕は手を動かしていく。
「…なんだ、これ」
とある写真の束があった。10枚ほどだろうか。
クリップでまとめられたその束の一番上には、「古代エジプト文明の何かを記載した石板である」ということと、おそらく写真を撮った人の名前が走り書きされたメモが挟まっている。
メモの片隅に小さく書かれていた「詳細不明」の4文字に惹かれ、束のまましまってしまえばいいものを、僕はクリップを外した。
1枚目。
写真には、古びた石板が写っていた。女性のものだろうか、細くしなやかな手が石板を片手で持っており、おそらく空いているであろうもう片方の手で写真を撮っている。
石板全体にびっしりと象形文字のようなものが書かれている。ただ中央部分だけは円形に文字がなく、代わりに五芒星をあしらった魔法陣が描かれている。
2枚目。
少しだけ、目眩がした。
これもまた1枚目と同じような石板が写っている。よくよく見てみれば、文字の羅列に違いがあるが、全体的なデザインは同じだ。
3枚目。
頭の奥で、まるで泡立つみたいな感覚が芽生える。
まるでトランプが並べられていくみたいに、頭の中で覚えてしまった石板たちが列を為していく。
4枚目。
何かが、体の奥から抜け出ていく。
5枚目。
何かが、おかしい。
これ以上、この写真を見ないほうがいい。
これはきっと、呪われている。
そんなことを思いながらも、なぜか僕の手は止まらない。
6枚目。
見知らぬ記憶が、再生される。
一面に広がる砂漠。その只中で、自分の手が砂に触れる。金色の、不思議な文様と魔法陣が刻まれた腕輪をつけた自分の手から淡い光がじわりと滲み出し、焼きついた砂は、冷たい水へとあっという間に姿を変えた。
まるで、魔法みたいだ。
7枚目。
もう、記憶だけじゃなかった。
薄暗い準備室も、埃っぽい匂いも、座っているパイプ椅子の感触も、吸い込まれるように消えていく。
そうして広がった世界は、一面の星空だった。
手元には丸い円盤のようなものを持っている。…星見盤、だろうか。
硬い素材に、直接刻まれたそれはお世辞にも綺麗なものだとは言えないし、星と星とを繋いで描かれた星座もどこか歪だ。
夜空を見上げ、星見盤と照らし合わせる。
星座を認識した瞬間、視界の片隅で何かが立ち上がった。
それは様々な動物であり、人であり、物だった。
黒のようにも、青のようにも見える不思議な色合いで具現化するそれらは、すべて星座に由来するものだと、遅ればせながら僕は気づいた。
8枚目。
ふと我に返れば、手元にもう星見盤はなく、写真の束が握られている。
もう一度見上げると、夜空から星々が消えてしまっていた。
9枚目。
黒一色になってしまった夜空に、新しい星がゆっくりと瞬き始める。
10枚目。
最後の一枚。
真っ暗だった夜空には新たな星が輝き出し、何かの星座を形作る。
それは、人の姿をしていた。
何の変哲もない、ただの人。
見知らぬ星座は前と同じように、視界の片隅から湧き出てきた。
前と違うのは、それが明確な色合いを持っていることだ。
肌は浅黒く、髪は真っ黒。波打つような長髪は、どこか肉食獣じみている。体には白い布を巻き付けているだけで、右肩のあたりで金色のボタンが留められていた。
そして、怖いくらいに冷静な瞳と、僕の目とが合う。
背筋が、凍る。
それはいつもの、他人を怖がっている僕の性格のせいじゃない。
そんなちゃちなもののせいじゃない。
だって、だってその人間が────────────
「見つけた」
僕と同じ顔をしているのだから。
「私の、弟子」
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