第8話 聞きたいこと


「聞きたいことがあるんだけど…」




こういうときに聞かれる疑問というのは、重要なことかしょうもないことかの2択だ。当たり前だけど。






「何?」






「氷帝さんって、全国でも有数のトップ選手…だよね? どうしてこの高校に来ようと思ったの?」





思ったよりしょうもなくもなければ重要性が高いわけでもないこと聞かれた。






「高校を選んだ理由…?」






「そう。うちの高校は実力も高いとは言いきれない。それなのにトップレベルのプレイヤーである氷帝さんが選んだ理由が聞きたくて…」






言われてみればそうだ。だが、私は決してバドの強さで高校を選んだわけではない。






どうして大半の人は強い選手は強豪校に行くと思ってるんだろうね。





「そうだね…とりあえず、私はバドの強い弱いで高校を選んだりしてるわけではないってことだけは言っておくね。」






「そして、この高校を選んだ理由…だけど…」






…どうして今の高校を選んだのか。私はその理由を思い返してみることにした。







――――――



高校選択。それは人生のわけ目とも言われる。しかし、中3に上がるときでも、私の志望校は決まっていなかった。





一般的には、将来なりたいものに向けた勉強ができるところを狙える高校だったり、学歴を少しでも良く見せるために頭のいい学校を狙う人もいる。






でも…私には、そういったものが一切なかった。






それでも、幸いなことに学力はそこまで低くはないので、選択肢は少ないわけではなかった。






選択肢が少なくても希望がないと意味がないんだけど。





そしてたまに聞くのが、仲が良い子と一緒になることを目的とした志望校にする人もいる。




しかし当然、私にそんな人はいなかった。





―――――


時は更に遡って、私が中学校1年生のとき。




私は、そこでもバド部を選んだ。というか、それ以外に考えられなかった。





そのときは、まだ人と接する機会は必要最低限、とかではなかった。





そして、今と決定的に違うのが、その当時、私にはダブルスのペアがいた。





実は今はダブルスは出場自体を拒否していて、そのためペアもいない。





昔から私は、ただ努力し続けてきた。





努力して、結果を掴むことこそが全てだと思ってきた。





あの姉がそうだったように。





今では自堕落な姉も、昔は努力できる優秀な人間だった。私なんかよりも、もっと。






両親はそんな姉ばかりを褒め、私のことはただいるだけのような扱い。






だから私は、姉に追い付きたくて、両親に認められたくて、努力を続けてきた。





様々なことを試してきて、バドなら姉にも勝てるということがわかった。







それから、バドにのめり込んだ。







それでも…バド一点張りでは、多才な姉には勝てなかった。






それで…私の努力は無駄だと知った。






どう足掻いても、姉には勝てない。だったら張り合うのはやめよう。そう思った。







それからの私は、どこかおかしかったのかもしれない。






何かにとりつかれたようにバドに全てを捧げた。シャトルを打たなかった日が無いほどに。






それだけのことを中学校に入る前からやっていたのだから、当然周りとのレベル感の差というものが生まれる。







私と組むことになったダブルスのペアの子でも、私は物足りなく感じた。







ダブルスというのは、ペアの相性次第で強さが変わる。片方が仮に全国三連覇とかの化け物でも、相棒によってはそのペアが勝てないことだってある。





私たちのペアもそれだった。






あるとき、ペアを組んでいたその子から言い出してきたのだ。






「申し訳ないけど私、あかりちゃんとじゃ打ちづらいなと思うんだけど…」







いずれ、その言葉は来るだろうと思っていた。だって、試合中でもその子は何だか動きづらそうにしていた。






バドという競技が楽しくなるのは、コートの中を動き回るからだ。それがある程度制限されるくらいならそれがダブルスの普通だが、全くもって動けないというのは問題だ。







だから、私からペア解消を申し出た。








そしてこのまま次のペアを…となりそうになったそのとき、ふいにその子が口を開いた。






「…どうして、そんなに頑張ろうと思えるの?私たちの年齢だとまだ将来の選択肢もたくさんある。そんな中ただバドだけを頑張り続ける…それってどういうことなの?私にはわからないよ…」





そう聞かれた私は、咄嗟に答えることができなかった。





それと同時に、その質問はなんだか、私のこれまでの人生を否定されてるような気がした。きっと彼女にそんなつもりはないのだろうけど。





その質問にも、それに答えられない自分にも腹が立った。あのときの私は、本当に周りが見えていなかったんだろう。





その後は、なんだか記憶がうやむやになっている。私自身、思い出したくない記憶に心のどこかで蓋をしているのだろう。





それから私は、ダブルスには絶対に出ないと宣言した。





そして今のようなシングルス特化選手になったというわけだ。





――――――




なんだかんだ言ってバドの話に向いてしまったけど、これが私という存在が人を寄せ付けない理由だ。





進学先の決め方は、正直どうでも良かった。バド部があって、顔見知りがいない場所。それで一番近いところがここだった。それだけだ。




海人くんの質問に対する答えはこれだけだ。



「なんだか薄っぺらくて申し訳ないけど…」






「いえ、全然大丈夫です。むしろ、氷帝さんのことを1つ知れた方が嬉しいです。」




そうして、彼はそのまま帰っていった。








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部活一筋少女の青春革命 ヨッシー @lovecomedy555

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