第6話 こう言ったら悪いけど…ナイスタイミング


さて、今日も授業を終えたところで、バドミントン部全体に緊急招集がかかった。




緊急と言うが、何事だろうか。




部活における緊急招集で連絡されることと言えば普通はなんだろうか。




新入部員?だとしても、招集までする必要はないはず…




そうして向かった先で受けた連絡は、衝撃的なものだった。




それを聞いたとき、誰からともなくその言葉が出てきた。



「顧問の先生が…変更…?」





「そうだ。女子の顧問をしている大森先生が階段から足を滑らせて… かなりの大怪我で、今年中の復帰は難しいかもしれないとのことだ。」


…は?


顧問の先生が変わることも驚きだが、それ以上に階段から足を滑らせたということに驚いた。普通にしてれば基本階段から落ちるなんてことはないはずだ。



とはいえ、それが事実なのだったら受け入れるしかない。


そのまま、新しい顧問を紹介されることになった。




「えー、大森先生に代わってバドミントン部の顧問を務めさせていただきます、空井です。」




「早速ですが、練習方針を少し変更したいと思います。」




「「「「え??」」」」




その場にいた全員の声が重なった。




もちろん小学生じゃあるまいし教員のことについて深く掘り下げたりはしないけど、まさか即そんな話をしてくるとは。





「聞いたところ、以前は男女別で練習していたそうですね?」




「しかしそれでは、ゲーム練でも同じような人たちばかりで、戦法や打ち方などが偏ってしまいます。」




確かにそれはそうだ。私もそう思っていた。



だが、その状況を良くする方法はあるのだろうか?練習試合はそう簡単に組めたものではないし…




…あれ?でもさっき「男女別で~」とか言ってたような…




…そういうことか。




「というわけで、今後の練習は男女合同としたいと思います!」




急に話を進められてしまったが、新しく来たばかりなのにここまで動かせるものなのだろうか…。




「ちゃんと男子側の顧問の先生から了承は得ているから、何も心配することはありません。」




逆になんでOKしたんだ。そもそも男女別なのは校長が決めた方針だからそう簡単に変えることはできないはず…



とはいえ、日時までずらすのはちょっとやりすぎな気もしてたけど。





まあ、細かいことは考えない方がいいんだろう。




…考えてみれば、これは海人くんと接触できるチャンス…?




そう思ってしまえば、細かいことなんて置いておく以前に頭から抜け落ちてしまった。





とにかく、この機会を活かさない手はない。ありがたく活用させてもらおう。





顧問の先生が入院してるのにありがたくと言ってしまうのは何だか少し違う気がするけど…






――――――



*海人side



今わかったことを簡単に言おう。



男女の活動日、活動時間が同一化されることになった。




そう、つまり氷帝さんと会う機会が自然と増えるということだ。



理由としては女子の顧問をしていた大森先生が入院することになり、新しく来た空井という先生が決めた方針らしい。




何はともあれ、氷帝さんにはこの機会に様々なことを聞いてみたいというものだ。



せっかく彼女の方から他人に接しているし、その理由も聞きたい。



一番聞きたいのはバドのことだけど。




ひとまず、この方針変更は基本俺にとっては利でしかない。





こう言ったら大森先生や多方面に悪いけど…ナイスタイミングだ。





――――――


*氷帝あかりside



その翌日、実際に男子と居合わせた練習をすることになった。





…のだが。







私は海人くんの方を気にするあまり、練習に集中できていなかった気がする。




恋心ってこんなにも恐ろしいものなんだ…(まあ、恐ろしいものという表現はちょっと違う気がするけど…)




しかし、練習中の海人くんを見て驚いた。



彼があまりにもストイックに練習に取り組んでいたからだ。




一球一球のコースが正確に、相手の打ちづらいところに飛ぶように…ラケットの振り方を見れば、コントロールを意識していることも伝わる。




だから彼は、あそこまで私を追い詰めたんだ。





才能ある者より努力する者の方が強いということか。別に私に才能があるわけではないけど。




もっと言えば、彼は私とは努力の量がまるで違う気がした。



彼は高校からバドを始めたと聞いている。つまり、まだ1年もバドをやっていないのだ。



それでもあれほどの実力が身についているのは、尋常ではないほどの努力をしたからに違いない。




その日の練習内容は結局、ほとんど覚えていなかった。


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