第2話 帰り道
その後も練習は続き、特に何事もなく終わった。
そして普段通り、特に理由はないが素早く帰路につく。
私は電車通学をしていて、帰りの電車では基本スマホを見ている。ほぼ日課みたいなものだ。
今日は彼について調べてみることにした。
粘着質なストーカーとか思われるかもしれないが、決してそんなものではない。
一応、部活でやっているだけの選手でもバドミントンの協会に登録することは可能だ。
そうすれば、公式戦に出られる量も増える。
しかも、協会の公式サイト的なのを見れば、大会の入賞者などの概要も見られるのだ。
とりあえず、公式戦でのトーナメント表から確認する。
トーナメント表には高校名も記載されているので、特定の選手を探すのは容易い。
うちの高校の名前と、『海人』という名前を探す。
すると、『日向海人』という名前を見つけた。
これだ。
次に、大会での実績を見る。と言っても、入賞レベルまで行っていないとどの程度なのか検討もつかないけれど。
しばらく大会の入賞者を見ていたが、彼の名前は見当たらない。
どうやら実績はそこまでないようだ。
私は彼の名前を探すのを断念した。と、自宅のある駅に着いたようだ。そんなに長い間見ていたとは…
電車を降りて帰路につく。
この駅で降りる人はほとんどいない。
駅なのに静かな少し奇妙な空間に、足音だけが響き渡る。
「あ…」
不意にそんな声が後ろから聞こえた。
普段はそんな他人の声など気にも留めないが、妙に聞き覚えのあるその声に、私は思わず振り向いた。
振り向くとそこには、つい1、2時間ほど前に私を追い込んだ彼の姿があった。
「氷帝…さん? き、奇遇だね… ははは…」
そう言って彼は力なく笑った。
ぎこちないその笑みは、私とここで会ったことが気まずいということを前面に表しているのだと思う。
これまでにも何度かそういう反応をされたことがあった。きっと私のイメージを変に捉えているのだろう。
これまでは、そんな反応を取られてもなんとも思わなかった。
…でも、彼にそういう反応を取られるのは…なんか嫌だな…
嫌だ…?
理由も分からないままそんなことを考えていると、どうやら表情が険しくなっていたようだ。
「…えっと…俺何かしました…?」
ついに敬語まで使われてしまった。
私はその時、考えることに集中しすぎるあまり口数が少なくなっていることに気づいた。
「いや…ごめんなさい…こんな場所で人と会うなんてなかなか無いから、誰かなって」
咄嗟に口にしたのは、そんな言葉だった。
誰かなって。ってなんだ。知らないはずないだろう。練習試合もしたんだし。覚えてなかったらニワトリか何かだ。
「えっ!? 覚えてない… 俺は日向海人です。今日の試合、良い経験になりました。」
名乗られてしまったのでそちらに話を合わせて進めることにする。
「日向…さん? そういえば今日は男子と練習試合をしたんだっけ…」
「俺のことは『海人』って呼び捨てにしてもらって構わないですよ」
「それは私が嫌。 じゃあ…『海人くん』でいいかな?」
「…はい」
「それで?私にわざわざ声をかけるってことは何か用があるの?」
「それは… 同じ駅の人ってうちの高校だと珍しいのでつい…」
「まあ、確かにこの駅から降りていくうちの高校の生徒は私も見たことがないわね」
「でも…貴方は私が通学してる時間も一度も見たことがないのだけれど…」
「この辺りなら7時の電車とかでも間に合ったりしますからね。そのくらいの時間に乗ってます。」
「なるほど。どうりで会わないはずだわ。」
「それで…あの… せっかくなので、途中まで一緒にどうですか?」
「構わないわ」
というわけで、彼と一緒に駅から出ると、家の方角まで同じであると判明した。
「まさか方角も同じなのにこれまで気づかなかったとは…」
歩きながら彼が言う。
「ええ…さすがに意外だわ…」
私も知らなかった。
「あ、俺家ここなんで、それじゃ。」
と、目の前の建物を指差して言った。
「分かったわ。また今度。」
そう言って彼と別れ、私は自宅へと向かった。
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