第26話 裏切り
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「しんちゃん、辛い時は、お酒に限るわよ。
川島英吾も歌っていたわよ。
♪忘れてしまいたい時や、どうしようない時、男は酒を飲むのでしょう、
って言っていたよ。飲んで忘れれば良いのよ。あんな女の事は!」
と、みどりに言われたが、レイの事は思い出したばかりである。
ところで、川島英吾って誰?
みどりは、新たに酒を追加注文して、私に注いでくれた。
私は酒には強い方だが、全て話したら気が緩んだのか、
知らぬ間に酔って寝てしまった。
どれくらい寝たのだろうか?
「お客様、もう閉店の時間ですよ。」
と、女の人の声がした。
ぼんやりと見える顔は、先程の店員である。
辺りを見渡すとみどりが居ない
ぼやけた意識で僕は店員に聞いた。
「みどりさんは、何処に行きましたか?」
「お連れの人は、先程帰りましたよ。お代は頂戴いたしました。」
お代は頂戴した?みどりがお金を払ったのか?と思い
僕の持っていた財布を探したが、何処にも無い。
みどりが盗んで持って行ったのか?
アイツは、最初から僕を酔わせて、お金を盗む気でいたんだ!
親切な振りをして、話を聞く振りをして、僕に同情するふりをして
僕を騙していたんだ!
これが日本人か!地球人か!
物凄い怒りが込み上げて来た。
「おのれ、女。謀ったな!」
と、心の中で叫んでいた。
店を出た僕は、途方に暮れた。時刻は午後の11時を過ぎていた。
早春の夜風は、冷たく一人では旅籠にも泊まる事は出来ない。
ましてや、僕は無一文だ。
これから、どうしたら良いのかわからない。
いっその事、此処で腹を切って死のうか?
でも、自ら命を絶たなくても、野たれ死にしそうである。
そんな事を考えながら
トボトボ歩いていると、レイの手紙の事を思い出した。
「そう言えば、手紙に・・・」
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僕は、その手紙をポケットから出した。もう一度その手紙を読んでみた。最初読んだ時は、記憶が完全では無かった為、意味が理解できていなかった。その手紙には、
[生きていけないと思った時、蓋に書いてある、鳳凰に話かけてください。きっと不思議な事が起こる筈です。では、さようなら。]
と、書いてある。今がその時だ!生きていけない。
僕は、一人になれる場所を探し、公園にのベンチに座って、
蓋の鳳凰の絵に話しかけた。
「鳳凰様、もう僕は生きてはいけません。どうしたら良いのでしょうか?」
と、言ってみたが何も変化は見られない。
もう一度言ってみたがダメだった。
何だこれは!手紙には嘘が書いてあるのか?
レイまで、私を騙すのか!
と、怒りと同時に悲しみが湧いた時、またもや、私の目から涙が溢れてた。
「レイに会いたい。」
僕は、女々しい男である。父親に叱られると感じたが、それ以上に、レイへの想いが強かった。
大粒の涙目が、蓋の鳳凰に落ちて行った。
その時である異変が起きたのは!
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