第3話 不安と興味

2


私は、この見知らぬ場所に興味を持ったが、それと同時に

不安な心も目覚めた。

初めて見る物に、驚きを感じた。


……もしかして、此処は未来か?私は時を超えてこの様な場所に居るのか? だが一体何故? それに私の名前は?

両親? 全く思い出せない! 何故だ!……


私の不安は、恐怖心に変わって行った。


「全く思い出せない!」

恐怖心を持ちながら、私は道をとぼとぼ歩いていた。

何処に行く宛も無いのだが。


道行く人は、私の横を擦り抜く様に急ぎ足で歩いている。

みんな、そんなに急いで何処に行くのだろうか?


私は、手に持った箱を思い出した。


……この箱、昔話に出てきた玉手箱に似ているな。

そういえば、浦島太郎も竜宮城から帰ってみたら、

見知らぬ人達ばかりで、見知らぬ場所に居たと言っていたな。……


と、浦島太郎に似ている事に気がついた。

……浦島太郎も玉手箱をもらった。

乙姫様に開けてはダメだと言われた。

私と同じだ!

浦島太郎は、玉手箱を開けたらお爺さんになったのだった。


僕も開けるとお爺さんになるのだろうか?

でも、開けるなと言われると、開けたくなるし

でも、お爺さんになるのは、嫌だし……


「ちょっと、そこ退いてもらえませか?そんな所で立ち止まっていたら、困ります!」


と言う、女の声が聞こえた。怒っているみたいだ。


怒られた私は、道の片隅に行った。


「何か、あったのですか?」

と、さっき怒っていた女が、聞いてきた。

見ると、顔じゅう化粧が塗ってある。

この様に、化粧だらけの女性を見るのも初めてだった。


でも、私は勇気を出して、その女性に聞いてみた。


「おかしな質問をしますが、今、明治何年ですか?」


「はあー、明治?あんた、頭おかしいの?馬鹿じゃないの」

と、私に関わるのが嫌だったみたいで、私を嘲笑して去って行った。


……やはり、私は、未来に来たみたいだ……

不安が現実に変わった瞬間でもある。


……これからどうしよう?こんなところで生きていけない。

いっそうの事、死んでしまおうか?

でも、自殺するのは嫌だし。

浦島太郎みたいに、お爺さんになって死のうか!

でも、いきなりお爺さんになるのは怖いし!

でも、生きていても怖いし!………


と、僕の頭の中は混線するかの様にいろんな想いが交錯した。


……思い切って、この蓋を開けてしまうか!

浦島太郎みたいだけど、浦島太郎では無いし、

だってあの女性は、乙姫様では無かったし、

もしかすると、違う事が起きるかもしれないし……

と、まだ混線した状態で、踏ん切りのつない僕だった


「おい、あんた!そんな所で、何ぶつぶつ言ってんだ!」

と、凄みのある男が、僕の顔を見て言ってきた。


「嫌、別に何もないです」

と、少し怯えながら答えた。


「手に持っているのは、なんだ? ちょっと見せてみろ!」

と、強引に僕の手から奪い取った。


……何だ?この男は!私はこの様に見えても元武士の子である。

無礼は許さん!……

と、何故か心の声が聞こえた。少し記憶が戻ったみたいだった。

だが、発した言葉は、


「この蓋を開けてはいけない。お爺さんになるかもしれません」

と、その男の注意を促した。


「お爺さんになるだと?馬鹿な事を言ういな!

おまえは、浦島太郎か?

立派な箱ではないか?高価な物だな!

一体何が入っているんだ?」

と、言って男は、蓋を外そうとした。

慌てて、私はその男の手を押さえた。

男は、私を睨みつけているが、私も怯まない。

お互いに睨み合う中、男は箱の蓋を開けるのを諦めたみたいだった。

私は、その表情を確認し、男の手を押さえる力を抜いた瞬間、

男は蓋を開けた。


……しまった、謀られたか!……と、思ったが

何も起こる事も無く、二人は無事であった。


「何にも起こらないじゃないか?馬鹿かお前は!

爺さんにならなかったし、白い煙も出ないではないか!」

と、私に向かって、罵りの言葉を吐いた。


……町民風情に、蔑みを受けるとは、徳川様の時代なら、

お手打ちだぞ!……

と、言ってやりたい気持ちを抑えるのがやっとだった。


そして、私の発した言葉が、


「本当ですね、何も起こらなかったですね。」

と、言いながら、箱を返してもらった。


「馬鹿に付ける薬は、無いぞ!早く家に帰ってクソして寝ろ」

と、下品な言葉を残して去って行った。


私は、何も起こらなかった事に安堵したが、

何故女性はあれほどまで、「この箱の蓋を取ってはいけない」と言ったのか疑問だった。


箱の中に、手紙が入っていた。

「何だろう?この手紙は!」

不思議に思って、開封してみた














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