第2話 出会い

 1


私は、ある女性から玉手箱の様な物をも見せられた


箱全体が黒の漆で覆われ、蓋には金色を中心に赤と青で描かれた

鳳凰の様な鳥が空を舞っている。

その絵は、気品があり、まさに生命を吹き込まれたかの様に

描かれている。


「今にも、飛び出して来そうだな」と、独り言を言う様に、

女性に向かって言ったのだが、


その女性は、「貴方には、大変お世話になりました。

私の、感謝の気持ちでこの箱をプレゼントいたします。


でもこの箱は、観ているだけです。

絶対に蓋をとってはいけません。

開けてはいけません。

よろしいですか?

守っていただけますか?」


「貴女は、私に世話になったと言うけれど、私は貴女に会ったのが

今、初めてなのですが?」


すると、その女性は、

「そうですね。今、初めて貴方にお会いしましたね。」


と、平然と語る表情に、私は彼女に一抹の悲しさを観た。


何故、悲しそうな顔をするのだろうか?

不思議に感じたのだが、気を留めずに、


「何故、初めて会った私に、この様な高価な物をくれるのですか?

それに、何故 蓋を開けてはダメなのですか?」


と、私は素直な気持ちで女性に尋ねた。


私を見つめるその瞳は、潤んでいる


「その事は、聞かないでください。

でも、私は貴方に助けてもらったのです。」


「意味が解りませんが、今 会ったばかりの人を、私がどの様に

助けたのですか? 」


「これ以上は、聞かないでください。私は帰らなければいけません。私の後を

追いかけてきてはいけません。

さようなら!」


と言って、彼女は私の顔を見ながら、ゆっくりと後退さりを始めた。


「一寸待って下さい。意味が分からない一寸待って!」


追いかけ様にとする私は、彼女に催眠術をかけられているみたいに

全く、足が動かない。


そして彼女は、振り返る事も無く逃げる様に走りだした。


彼女の後姿を見送りながら気がつくと、私のいる所は見知らぬ

場所である。


「いつのまに、こんな所に来たんだ!?」



と、自分で自分に問いかけてはいるが、何があったのかが、思い出せない。

私は夢の中から出てきたかの様にしか思えてならなかった。




「一体此処は何処であろうか?見たことも無い所だが?


今日はいつ何だ!さっぱりわからない!」


私は、周りの風景を見渡した。

今までに見たことが無い、高い建物が乱立している。

轟音を上げて、走って来る四つのタイヤの乗り物。

人達の風貌を見たらみんな西洋の服を着ている。

自分も西洋の服を着て居る。


「可笑しいな!いつ僕はこんな西洋の服を着たんだ?

もしかすると、此処は異国だろうか?」


ポケットの中を探ると、四角い物入れがあった。


「何だ、これは?」

開けて見ると、紙が何枚も入っている。

よく見ると1万円と書いてある。


「西洋のお金か?こんなの見たこと無いが、日本のお金かも知れないな」

と、独り言を言う僕に、可笑しさを覚えたが、不安は更に深まっていった。


「此処は異国では無い。日本だ!通り過ぎる人の言葉で解る」

と、私は少し安堵したが、通り過ぎて行く人達で知っている人は、誰もいない。


「一体何故、こんな事になってしまったんだ。」


私は必死に想い出そうと試みたが、それも徒労に終わった。


………今は、何時頃なんだろうか?お昼の様に思うが……

道行く人は、慌ただしく過ぎ去っていく。


僕は通りすがりの若い男の人に時刻を訊ねた。


「今ですか、」 と男は、何か四角い物を見ている。

「今、14:23ですね」

と、四角い物に書いてあるみたいだ!

……何だろう、この四角いものは、時計だろうか?……


私は、驚きを隠せなかったが、平静さを装いながら、

「あの、今日は何日でしょうか?」

と、聞いてみた。


その若い男は、怪訝な表情に変わった。


「何日って、どうかしたのですか?今日は3月の9日ですよ」

と、自分が揶揄われているかの様に思ったみたいだ。


……一体、何年の3月9日だろうか?……

と、疑問に思ったが。これ以上聞くのは辞めにした。


「ありがとうございます。少し記憶が飛んだみたいで、

変なことを聞きましたね。ごめんさい」


男は、少し納得した表情を浮かべて、去って行った。





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