第5話 弓使いと魔法使い
透き通るような白い肌をしているフェリィは、四人の中で最も小柄だ。
でも、ほかの三人が高身長なだけで、別にフェリィの背が小さいわけではない。もしかしたら細身の体型が余計小柄に見える原因かもしれない。
白桃色の髪で翠色の瞳を宿す左目が隠れている上に、表情の変化が乏しいのでミステリアスな印象を周囲に与えるが、実際はクールで無口なだけであり、気を許している相手には多少なりとも頬の筋肉が緩む。そこがこの子のかわいいところだったりする。――姉馬鹿かもしれない。
中性的なルックスの美少年なので、年上の女性にすこぶる人気がある。
これに関しては世のご婦人方に全面同意だ。――やっぱり姉馬鹿かもしれない。
今まで何度も姉だの弟だの言ってきたが、実は私とフェリィは本当の姉弟じゃない。
この子と初めて出会ったのは私が駆け出しの傭兵として活動し始めた十二歳の頃なので、十三年も前のことになる。なので、四人の中で一番付き合いが長い。
私のことを実の妹のようにかわいがってくれた傭兵夫婦の息子がフェリィだった。
それがきっかけで、当時二歳のフェリィと出会ったのだ。
だから私は当時から実の弟のようにかわいがっていたし、フェリィも舌足らずな喋り方で「ねぇね」と呼んで懐いてくれていた。思い出すだけで頬が緩んでしまうほどかわいかった。
しかし、それから三年後、私がブラウンシュヴァイク王国側の陣営に加わって暴れ回った例の戦が行われるきっかけになった隣国との小競り合いで、傭兵として参戦していたフェリィの父が戦死してしまったのだ。
怒りと悲しみに暮れていた私は、フェリィの母の気持ちも背負って例の戦で暴れ回り敵討ちを果たした。
ところが、再び三年後に不幸が訪れる。
フェリィの母が流行り病に侵されてしまったのだ。
別の国にいた私が駆けつける間もなく亡くなってしまった。
それでも慌てて駆けつけた私に悲しみに暮れる暇はなかった。
なぜなら、当時八歳のフェリィが一人取り残されることになったからだ。
幸いフェリィは母親が体調を崩す前に知人の家に預けられていたので無事だった。
そのことに安堵した私は、兄、姉と慕った二人の忘れ形見であるフェリィを引き取ることにしたのだ。
以降、本人の意向もあり、最低限一人でも生きて行けるように戦闘技術などを叩き込んだ。
私が勇者パーティーの一員として魔王討伐に赴くことになった時、フェリィを連れて行く気はなかった。
彼は当時十二歳だったし、かわいい弟を危険な旅に連れて行きたいと思う姉がいると思う? いないよね?
でも一緒に行く気満々だったフェリィに、「姉さんも十二歳の頃から傭兵として活動してたじゃん」と反論の余地がない指摘をされてしまい、泣く泣く同行を許可した。
まあ、結果的には戦力として申し分ないほど技術を叩き込んでいたから大いに助かったのだけれど――とフェリィが無事だったことと、かわいい弟が頼もしくなったことに感慨深くなった私は、最後にヴィンセントに視線を向ける。
金髪碧眼のヴィンセントは伯爵家の人間だ。
長髪を
日焼けしていないように見える綺麗な白い肌から温室育ちと思われがちだが、実際は正反対であり、堅苦しい貴族社会を毛嫌いしている。
貴公子然とした振る舞いをするので、市井の人々が想像するような容姿端麗の貴族そのものと言ってもいい。でも性格は貴族らしくなく、相手の身分関係なく誰とでも分け隔てなく接する。
魔法使い故に華奢な印象があるかもしれないけれど、レオに次ぐ高身長であり、実は身体能力も高い。
そんな彼と初めて出会ったのは四年前のこと。
彼は今でこそ女性恐怖症を患っているが、元々はかなりの女好きだった。
名門であるレイヴンズクロフト伯爵家の直系、優れた容姿と魔法の才能など、女性にモテる要素を複数備えていることを自覚していたヴィンセントは、それらを武器に散々女遊びをしまくったそうだ。
しかし、度が過ぎたのか、対応を誤ってしまったのか、彼は一人の女性に粘着されることになってしまう。
それは嫉妬だったのか、恨みだったのか、独占欲だったのか、原因は今でも定かではない。
いずれにしろ粘着されてしまったヴィンセントは、その女性に呪いを掛けられてしまったのだ。
法に反する呪法に犯されてしまったヴィンセントは、生殖能力を失った上に、
ヴィンセントは優れた魔法使いであり、豊富な魔力を有していたため、完全に言いなりならいように抗えてはいたが、女の奴隷同然の存在に成り果ててしまい、
ところが、むしろ家に帰れなくなったことが彼を救うことになる。
なぜなら、いつまで経っても帰宅しないヴィンセントのことが心配になった兄――伯爵家の当主が陛下に相談したからだ。
そして相談された陛下が私に捜索依頼を出した。
その結果、私がヴィンセントを見つけ出して救出したのだ。
もちろん呪いも解呪した。少々強引だったけど、生殖能力が戻ったんだから許してほしい……。
この時の出来事が原因でヴィンセントは女性恐怖症になってしまったのだが、元はと言えば自業自得である。女遊びをするにしても、もっと上手くやれば良かったのだから。
だからこそ彼は、多くの妃や
男を摘まみ食いしている以上、他人事ではない私も気をつけよう――と改めて自戒した。
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