第4話 勇者と戦士
「四人はお主の自由を保証してくれているようだし、結婚してやっても
ユリウスたちを
「お主も少なからずこやつらのこと想っているのだろう?」
と問うてきた。
「それは……そうですね」
そりゃあ、私にとって四人は弟みたいなものだからかわいいよ。
一緒に魔王討伐の旅をした仲間でもあるから、当然、情だって湧く。
でも、それはあくまでも姉貴分として、仲間としての情であって、男女間に生じる
「それで充分なのではないか?」
「そういうものですか?」
政略結婚じゃないのなら、互いに愛し合っている者同士が結婚するものでは? と思った私は少しだけ首を傾げる。
「愛があるから情が生まれる。情があるから一緒にいたいと思うし、支え合えるものだと私は思う」
確かに……。
「それに結婚から始まる恋愛もある。私がそうだったからな」
そんなこと言われましても、陛下、あなたには奥様が二十三人もいらっしゃるでしょうに。
だから、どなたとの馴れ初めのことを指しているのかわかりませんよ。
「どの妃殿下との話ですか?」
「この場で例を挙げるならマルスリーヌが最も相応しいな」
「正妃様ですか」
「ああ。隣国の王女だった彼女とは、嫁いで来るまで顔を会わせたことすらなかったからな」
あ~、そういえばマルスリーヌ様は隣国の王女様だったね……。
私が生まれた頃には既に陛下のもとに嫁いでいたから、元は他国の人だったってことを完全に失念していた。
「妃の中には私が見初めた者もいるが、ほかにも政略結婚した者が複数いる。だが、マルスリーヌを始め、彼女たちとは結婚してから愛を
陛下と妃殿下たちの仲の良さは有名だ。
女のことを政略結婚や子作りの道具としか思っていない男は多い。――特に王侯貴族の男性は顕著だ。
そんな中、陛下は妃殿下たちを一人の女性として愛し、とても大事にしている。
ちなみに陛下には側妃のほかに十五人も
好色なところがある陛下と上手くやれているのだから、妃殿下たちは不満があまりないのだろう。
まあ、この国で一番の権力者である陛下に表立って不満を口にすることなどできないのかもしれないが、それでも後宮に不穏な動きや雰囲気がないのは国内では有名な話だ。
なので、多くの妃たちと円満な関係を築いている陛下が口にすると説得力がある。
「故に情があるなら結婚して、その後、夫と恋愛してみたら
そう言われると結婚するのは悪くない気がしてきた。
仲間の四人に抱いている情は揺るがないし、今は弟のようにしか思っていなくても、今後も同じとは限らない。一人の男として好きになることだってあるかもしれない。
それこそ夫婦になりパートナーとして向き合ってみたら姉貴分としての情が、妻としての愛情に変わることだってあり得る。
少なくとも、結婚したことがない私がその可能性を否定することなんてできない。
「一理ありますね……」
「結婚したくない相手ならともかく、しても構わないと思っている相手なら一考の余地はあるのではないか?」
「まあ、私も女として生まれたからには一度くらいは結婚したいと思っていますし、いつかは子供を産みたいとも思ってはいますが……」
私はそう言いながら、ちらりとユリウスに視線を向ける。
白い肌のユリウスは、黒いショートヘアを清潔感のあるスタイルにまとめている。
少しあどけなさが残る顔は女性が見惚れてしまうほど整っており、濁りがない澄んだ茶色の瞳は彼の真っ直ぐな性格を表しているかのようだ。
真面目で裏表がなく、困っている人がいたら助けなくては気が済まないお人好しな性格は好ましいし、適度に鍛えられた肉体と、長い手足が不自然にならない平均よりもやや高めの身長もポイントが高い。
出会った頃は頼りなさげだったのに、今は頼もしさすら感じる。
そんな彼と出会ったのは三年前。
当時、魔王の動きが活発になり、各国が対応に奔走していた頃だった。
避難民としてフォルトゥーナ教国に逃れたユリウスがコーニーリアス大聖堂で管理されている聖剣に触れると、煌々と輝いて彼と融合するように吸収されたらしい。
その瞬間――新たな勇者が誕生したのだ。
魔王に対抗する手段を得た人々は歓喜したが、ユリウスは戦闘経験など持たないどこにでもいる普通の少年だった。
そこで、当時世界最強の傭兵と謳われていた私がユリウスの指導役に選ばれたというわけだ。――ちなみに推薦したのは陛下らしい。
だからユリウスは私のことを師匠と慕ってくれている。
女としても好いてくれているというのは完全に予想外だったが――と胸中で苦笑しながらレオに視線を向ける。
彼は私と同じ褐色肌だ。
前髪の中央部分が逆立っているのが特徴の銀髪で、肩に掛かるくらいの長さがある。
気が強そうな顔つきと、鋭さのある赤い瞳に近寄りがたさを感じる人もいるが、彼も間違いなく美男子だ。
大柄で鍛え上げられた肉体を持つ彼に抱かれたいと願う女は多い。私も出会い方が違えばその一人だったかもしれない。
大盾を持ち、身体を張って仲間を守る姿には頼もしさがあるし、素直にかっこいいと思う。
出会った頃はやんちゃ坊主だったのに、今となっては彼が前線にいると安心して戦うことができる。
そんな彼と出会ったのは五年前のこと。
場所は隣国の貧困街。
そこで孤児のレオと出会った。
彼は貧困街で少年少女たちのリーダーのような存在であり、とても慕われていた。
生きるために悪さをするのは当たり前の生活だったそうだが、仲間たちと協力しながら楽しく暮らしていたらしい。
しかし、やんちゃが過ぎたのか本物の犯罪組織に手を出してしまい、仲間諸共、命の危機に瀕してしまった。
レオは仲間を守るために一人で犯罪組織と相対する覚悟だったらしい。
ところが、別件でたまたま貧困街を訪れた私が、犯罪組織の連中が傷だらけの少年を取り囲んでいる現場に遭遇してしまったのだ。
そして、その少年こそがレオだった。
先を急いでいた私はレオを囲っている大人たちが悪者だと決めつけ、邪魔だったので通り掛けに蹴散らしてしまった。瞬殺である。
その結果、助けた形になったレオに慕われてしまったのだ。
義理堅い性格の彼が恩返しさせてくれと懇願するので、私が困った時に助けてもらうから強くなれと言ったら、本当に強くなってしまった。
私も時々、暇を見つけては指導をしに赴いていたが、ほとんど自力で強くなった彼には度肝抜かれたものだ。鍛え抜かれた身体を見て相当努力したのが感じ取れたから。
そうして勇者とともに魔王討伐に向かう者を探していた時にちょうどいい人材だと思い、レオを勧誘しに行って今に至る。
もしかしたら四人の中で一番戦闘センスがあるのはこの子かもしれない――と彼の底知れないポテンシャルに将来が楽しみになった私は、気持ちを切り替えてフェリィに視線を向けた。
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