第3話 口出し

「私はミレディと添い遂げることができないのならば、一生独身を貫きます」

「……その言い方は卑怯じゃない? しかも重いし……」


 私以外の女は眼中にないどころか、近くにいたら脱兎の如く逃げ出す始末のヴィンセントがまともに結婚できるとは思えない。

 彼が宣言した通り、私と結婚できなかったら本当に生涯独身を貫くつもりなのだろう。


 私のことが好きだから結婚したいのか、ほかの女が怖いから私で妥協しているのか、果たしていったいどちらなのだろうか? と首を傾げたくなる。


 いずれにしろ、私と結婚できなかったら一生独身を貫くと言われてしまっては、彼のことを弟分として可愛がっている身として同情心が湧いてしまうし、なにも悪いことをしていないのに最悪感が押し寄せてくるではないか。

 もしかして、同情を買って求婚を受け入れてもらおうという算段だったりするのだろうか……?


「それは失礼致しました。しかし、ミレディのことを想っているからこそ出た言葉だと思ってください」

「うん。悪気がないのはわかってる」


 いろいろ言ったけど、本当はヴィンセントに同情を買うつもりがないのはわかっている。

 ただ、私がちょっと現実逃避したかっただけだ。


 だって、まさか仲間の四人に同時に求婚されるとは夢にも思わないじゃん。しかも私にとって都合が良すぎる条件付きで。


 でも私にとっては四人とも弟みたいなものだから、申し訳ないけど異性として意識したことなんて今まで一度もないのよね、と胸中で独白していると――


「お願いします師匠! 僕と結婚してください!!」

「姐御! 頼む! オレには姐御しかいねぇんだ!!」

「姉さんと結婚できたら俺はほかになにもいらない。だからお願い」

「ミレディを幸せにする栄誉を私にください」


 再び四人が求婚の言葉とともに手を差し出してきた。


「……」


 正直、私も女だから男にこれだけ想ってもらえているのは嬉しい。

 姉貴分の私が保証できるほど優良物件の四人だから尚のこと。


 だけど実際に四人のうちの誰かと結婚できるかと問われても即答できない。

 四人は結婚しても今まで通り自由気ままに過ごしていいと言ってくれているが、家庭を持つ以上は限度があるだろう。


 ほかの男は私に夫がいるとわかったら敬遠するだろうし、今まで通り好き勝手に摘まみ食いできなくなるかもしれない。


 私は結婚よりも恋愛を楽しみたいタイプだ。大恋愛よりも気軽な恋がいい。

 それこそ一夜の愛を楽しんだりするほうが性に合っている。


 だから夫がいるという理由で敬遠されてしまうのは都合が悪い。

 それにいくら夫公認でほかの男と関係を持てるとはいえ、さすがに申し訳なくて男漁りするのは気が引けてしまう。


 誰かに気を遣うことなく自由気ままに一度きりの人生を楽しみたいから、私は結婚を避けているのだ。少なくとも今は純愛を求めていない。


 一応誤解がないように言っておくが、別に年がら年中、男遊びをしているわけではないわよ?

 あくまでもの時に気に入った男を見つけたら手を出すというだけだ。そもそも暇がなければ遊んでなんかいられないし。


「――すまぬが、少々話に介入してもいか?」


 四人の求婚に返事をせずに黙り込んでいた私をみかねたのかはわからないが、ずっと愉快そうに趨勢すうせいを見守っていた陛下が口を挟んできた。


「なんでしょうか?」


 私は陛下に顔を向ける。

 すると、ユリウスたちも私から視線を逸らして陛下に顔を向けた。


「私はお主がどのような人柄なのか知っているつもりだから言わせてほしいのだが……」


 陛下はそこで一旦口を閉じると、言葉を続けていいか問うような視線を私に向けてくる。


 私と陛下はそこそこ付き合いが長い。

 確か初めて会ったのは私が十五歳の頃だから十年前になる。


 今は勇者パーティーの一員として活動しているが、私は元々傭兵だった。――いや、一応、今も傭兵だけど。ちなみに私の戦闘スタイルは今も昔も拳闘士一筋だ。


 そして当時、既に傭兵として活動していた私は、隣国との争いの際にブラウンシュヴァイク王国の陣営に加わった。

 ブラウンシュヴァイク王国側の陣営として参戦することを決めたにより鬱憤を溜めていた私は、気を晴らすように戦場で暴れに暴れまくり、とんでもない功績を挙げまくってしまったのだ。


 軍団を壊滅させたり、複数の敵将を討ち取ったり、自軍の危機を救ったり、地形を変形させてしまったりなど、それはもう盛大に暴れ回った。


 戦自体は私の暴れっぷりが功を奏したのか、ブラウンシュヴァイク王国の勝利で幕を閉じた。


 そうして、戦後行われた論功行賞で陛下に対面したというわけだ。

 私はそういった堅苦しいことが嫌いだから出席したくなかったのだが、自分でもやりすぎたと自覚していたほどの功績を挙げてしまったので、さすがに逃げられなかった。


 その日以降、私と陛下の交流は続いている。

 しかもなぜか陛下に気に入られてしまったようで、身分の差を超越した態度で接してくる始末だ。


 でも、陛下が私の人柄を知っているというのは正しい。

 私も陛下の為人ひととなりを知った上で信頼している。世話になることもあったからね。


 だから陛下が今のような真面目な場面で遠慮がちに話に割って入ってくる際は、必ず益となる結果をもたらしてくれるというのも知っている。


 なので、四人に求婚されて困っている私は助け舟を得られると思い、陛下の視線に応えるように頷いて続きの言葉を促した。

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