第2話 年齢

「それに姐御は年下好きだろ? だったらオレでもいいはずだ」

「……」


 うぐっ。

 夢現ゆめうつつな気分を味わっていた私の意識を現実に引き戻すレオの言葉がものの見事に図星を突いており、返す言葉が見つからない。


 ほかの三人もレオに同調するように頷いているし……。


 摘み食いした男たちはほとんど年下だったからバレていても仕方ないけど、無性に居た堪れない……。

 なぜなら、仲間の四人は揃って私より年下だから……。


「ヴィンセントはともかく、ほかの三人は同年代の若い子のほうがいいんじゃない? いや、レオもギリセーフか……?」


 ヴィンセントは私の三つ下だから、今は二十二歳。

 女の方が年上の夫婦は比較的少ないけど、そこまで珍しいわけじゃない。三歳差となるとさらに数は減るけども。


 レオは二十歳だからまだいい。

 女が五つ上なのは多分、相当珍しい部類だろう。でも全くない話ではない。


 だが、十八歳のユリウスと、十五歳のフェリィは別だ。


 七歳差と十歳差は、この国――ブラウンシュヴァイク王国だと非難されかねない。おそらく近隣諸国でも同じだろう。

 男の方が年上な分にはどれだけ離れていても問題ないが、立場が逆だと世間の目が厳しくなる。


 若い男に手を出して、とそしられかねないのだ。


 そりゃあ、女は年を取ったら子供を産めなくなるから、若いほうがいいのは当然のこと。


 生まれた子が大人になるまで順調に育つかわからない世の中だからね。

 外には魔物が闊歩しているし、賊のたぐいや国同士の争いもあるから大人だっていつ命を落とすかわからない。


 今は魔王討伐という各国共通の課題に立ち向かうために不可侵条約を結んでいるので、戦争に発展することはなかった。

 しかし魔王が討伐された以上、今後も国同士が衝突しない保証はない。


 だから男が結婚相手を選ぶなら、同い年か年下が望ましい。それがこの国や近隣諸国の価値観だ。――まあ、ユリウスやフェリィくらいの年齢の男を散々摘まみ食いしていた私が言っても全く説得力がないのだが……。


 でも、別に本気の愛を求めていたわけではなくて、あくまでもその場限りの関係だ。結婚とは関係ないから問題ないでしょ――と言い訳してみる。


「それにあんたたちは魔王を討伐した勇者パーティーなんだから、これから女の子に相当モテるんじゃない? 今、私に求婚するのはもったいないと思うけど?」


 四人とも間違いなく美男子だ。

 現に、以前から女子にモテている。


 それが魔王を討伐した英雄という肩書も得たのだから、今以上に女がすり寄っていくはずだ。

 にもかかわらず、行き遅れの私に求婚するのは非常にもったいないと思う。これから選り取り見取りの人生が待っているのだから。


 一応補足しておくと、国によって多少は前後するが、女性の場合は二十歳で未婚だと行き遅れと見なされてしまう。

 ぶっちゃけると、結婚相手としての価値が著しく下がるということだ。跡継ぎや重要な職務を任せられる身内が必要な貴族や商家、働き手が欲しい農家などは特にこの傾向が強い。


「姐御以外の女になんか微塵みじんも興味ねぇよ」

「それは僕も同じです。師匠以外の女性と結婚する未来なんて考えられません」


 レオが視線を逸らすことなくはっきりと断言すると、間髪入れずにユリウスが同意するように頷いた。


 凄い自信だな……。

 私だったらそんなこと絶対に口にできないわ……。

 一人の男に縛られる人生なんて想像したくもないし――と身の毛もよだつ気分になりかけたタイミングで、フェリィが口を開いた。


「ほかの女に言い寄られても鬱陶うっとうしいだけだし、そもそも俺は姉さんと離れる気なんてないから」

「それなら今まで通り弟として一緒にいられるでしょ」

「姉さんのことは姉としても慕っているけど、一人の女性としても惚れているから、弟と夫の立場を両方手にする。そして姉さんのことを幸せにしたい」

「……」


 弟にそんなに想ってもらえるのは嬉しいけども、ちょっとシスコン具合を拗らせすぎでは……?


 姉として少し心配になるレベルなんですけども……。育て方を間違えてしまったか……?

 これではこの子のに顔向けできない――いや、あの二人なら笑って受け入れるかもしれない。むしろ今の状況を楽しむ可能性のほうが高いな……。


 それこそ私とフェリィが結婚するのを勧める気さえする。

 は結構ノリがいいし、私のことを実の妹のようにかわいがってくれたから。――まあ、今となっては笑い合うことも、冗談を言い合うこともできないんだけどさ……。


「私は――」

「――あんたは言わなくてもわかってる」


 感慨に耽っていた私は、口を開いたヴィンセントの言葉を強引に遮る。

 思い出に浸っていたのを邪魔された気分になって、つい語気が強くなってしまった。


 早々に遮ることができたのは、彼の言葉を最後まで聞かなくてもなにを言うつもりだったのか予測できたからだ。


 女性恐怖症のヴィンセントが、私以外の女に近寄りたがらないのはわかっている。

 そして女性恐怖症を治す気がないのも知っている。


 だから私が尋ねたのは、始めからヴィンセント以外の三人に向けてのものだった。

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