第2話 ギャルが誘ってくる

 三日後、俺はいつも通り学校へ登校。

 教室に到着して早々、クラスメイトに囲まれてしまい早すぎる退院に驚かれた。


「栗林くん、もう退院したの!?」「トラックにかれたって聞いたぞ!」「よく無事だったな」「骨折で済んだとか信じられねえ……普通死ぬだろ」「奇跡すぎるだろッ」「運のいい奴め」


 俺が桜庭さんを助けたことが噂になっていた。……そりゃ、何週間も休んだのだから話題にもなるか。


「みんな心配かけて済まなかった。もう大丈夫だから」


 正直、居心地が悪かった。

 あの事故から約一ヶ月が経ち、久しぶりの登校ともなると違和感があった。

 そもそも俺は影の薄い人種。

 こうして囲まれてワイワイ騒がれるの自体が異常で苦手。そんな俺の気持ちを察したかのように、背後から桜庭さんが現れ――俺の手を引っ張った。


「ちょっと、みんな。悪いんだけど通して」


 桜庭さんの一声により、みんな散り散りになった。こんなあっさり……。さすがというか、この殺気はヤバすぎるな。


 一番隅の窓際の席へ。

 もちろん、隣の席は桜庭さんだ。


「ありがとう、桜庭さん。恩に着る」

「いいのいいの。困っていたみたいだし」

「まあね。それにしても、ここまで話題になていたとはね……」

「そりゃそうだよ。4トンのトラックにかれて生きているとか普通じゃないよ」


 まるで冗談みたいに言う桜庭さん。そう言われると本当に冗談みたいだ。

 しばらくしてホームルームがはじまった。


 前の席の女子がこちらをチラチラ見てくる。

 ……えっと、誰だっけ。


 名前は憶えていないけど、可愛いんだよな。こっちもギャルなんだが、クールというかダウナー系だから近寄りがたいというか、話しかけづらいというか。だから関わることはなかった。


 ――はずだった。


 前の席から“なにか”飛んできた。


 こ、これは……手紙?


 女子らしい便箋が送られてきた。開けて見てみると、休み時間に話したいと書かれていた。えっ……俺と?


 この名前も分からない女子ギャルと……。


 よく分からないまま俺は同意した。


 そして休み時間になって、俺は廊下へ向かった。前の席の女子が俺の方へ寄ってきた。


「よかった、話しができて」

「あー、うん。で、俺に何か用かな」

「いろいろ話したいんだ。ほら、君ってば隣の席の桜庭さんを助けた有名人だもん。女子は全員気になってると思うよ」


「えっ……マジで?」


「マジで。あのアイドル的存在の桜庭さんを助けたとか凄いことだよ。しかも、気に入られてるとかさ。びっくりしちゃった」


 そんなに凄いことだったのか。……知らなかったぞ。

 いや、そりゃ人気なのは知っていた。

 老若男女問わず好かれていることも。犬や猫でさえもな。


「そ、そうなんだ。偶然助けたんだけどね」

「ていうか、よく生きていたね」

「運が良かっただけだよ」

「そうかもね。でも、あたしはカッコイイと思ったよ。これからもよろしく」


 人生で女子から握手を求められるとか、これが初めてだ。俺は迷いなく、手を差し伸べた。……なんて細い指だ。


「よろしく。……ついでに、名前を教えてくれるとありがたい」

「ちょ、前の席なのに」

「すまない。トラックにかれて記憶が――」

「ああ、そっか。記憶が飛んだんだ。あたしは未世みよ姫島ひめじま 未世みよだよ」


 冗談なんだが、なぜか納得してくれたのでヨシとしよう。

 それに名前が判明した。

 姫島さん……か。良い名前だ。


「俺は栗林だ」

「知ってるよ~。くりばやし 迅人はやとくんでしょ。よろしくね、迅人」


 いきなり呼び捨てされ、俺はドキッとした。

 ギャルの距離感ってこんなに近いものなのか……。けど嬉しいな。

 今まで散々なことばかりだったけど、トラックにかれてから俺は桜庭さんと姫島さんと話せるようになった。こればかりはトラックに感謝だ。


 その後、俺は席へ戻った。


 すると隣の席の桜庭さんがジトッとした目で俺を見ていた。


「じ~」

「な、なんだい。桜庭さん。俺の顔になにかついてる?」

「ううん。なんか姫島とコソコソしてなかった……?」

「あ、ああ……それね。ちょっと呼び出されてさ」


 驚いて叫ぶ桜庭さん。クラス内に声が響いて、みんな振り向く。うわっ……! すっごい見られてる。けど、桜庭さんはお構いなしに話を続ける。


「なんで前の席の姫島と仲良くしてるのさ!」

「なんでって言われてもな。俺もその答えが欲しいんだけど、永遠の謎だ」

「あの子は止めておいた方がいい」

「えっ……なんで?」

「姫島はやばいよ」


 やばいって、なにがやばいんだ……?


「具体的に教えてくれ」

「えっと――」


 そこでチャイムが鳴ってしまった。くそう、姫島さんの話は後か……。


 だが、思った以上に姫島さんは俺と仲良くしてくれた。授業中に手紙を何度もくれたし、やりとりしている内に、かなり打ち解けた。

 なんの問題もなさそうだけどな。


 そうして桜庭さんとの仲を深めつつも、姫島さんともどんどん急接近していった俺。



 一週間もすると、姫島さんは俺を何度も誘ってきた・・・・・

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隣の席のギャルが誘ってくる 桜井正宗 @hana6hana

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