これはデートなのかもしれない
第30話 お着替えは終了しております ①
私は宿泊先となっている部屋の扉にノックをして、知らぬ間に
迎えに来てくれた者は金髪のメイドだけだった。近くにコッタの姿はなかったのだが、その事実は私を
「どうぞぉ~」
『静かにすると、いいことがあるかもしれませんよ?』
と、静寂から舞い込む幸運を示唆しているかのようだ。そして当然、私は煽られる。喜ばしいことがコッタに訪れたのだろうか。服を着替えたであろうコッタに対するこの期待に――――この年甲斐も無いときめきに潤いが与えられるとでも言うのだろうか。
私は金髪のメイドを
そこにたのは
コッタを見ていると恥ずかしさにも近い気持ちが熱く頭にまで登ってくる。だが
コッタは何も言っていない。けれどもコッタの全体が『コッタに注目』と、私に
私は何度も何度も体感時間の延長を実行に移し、その光の中へと……。
たゆたう……。ひろがる?……。
私はここで半永久的に続く時空に拘束されるのだろうか……。
コッタの髪には、太陽と手をつないだようなのオレンジ色の新鮮な艶が戻っている。
根底にあるヘア・アレンジはショートカットのツインテールだ。
小さく
ピピッと鳥の
つまりはマリーゴールド。コッタの美しき
彼女の体に
守る
なにからなにまで際どい。
コッタに
そういった恩恵をコッタの次に受けている者は、最初から彼女と共にあった
究極……そう……究極なのだろう。最高の中心にコッタがいた。無論コッタは最初から最高に可愛かったのだが、今の彼女ならば世界中の瞳を『
街娘にしてはヤリすぎだ。ここまで
コッタはいまだにブドウの
その
「ルーク様がお帰りになりましたよ」
「あっ」
顔をあげたコッタがトンッと――。大きすぎるソファから、小さく飛び降りた。
コッタが
いったいなんだというのだ、今動かれた私は……動かれるだけで……。いや……。もはや崩れているのかもしれない。私は……もう……。
元気そうに見えるコッタだ。それがなによりだ。表情から読めることはいまだに増えやしないのだが、アクティブな彼女が私の
彼女は私の直前で止まった。
「食べる?」
コッタの小さな指先がブドウの
「あ、ああ……」
「?」
「あ、ああ」
「あーん?」
「い、いや……。そうではないのだが……」
もちろん私は〝あーん〟など要求していない。けれども断腸の思いと共に送り出した拒否の言葉はコントロールを失っている。
そもそも私には最初からその意志がなかった……。私のセリフは最初の
そのうえ私の体は、〝あーん〟を獲得するために、
私はあらゆる行動の内側に、この罪深き
ハニー・ビー・フロート? 花の蜜に誘われて、やることなすこと制御ができない。
不可能……不可能なのだよ……。
コッタの指と、コッタの果肉にむけて
止めることなどできなかった。止まれるはずもなかった。
もし星のめぐり合わせを自由に操作できるなら、誰しもが任意の2点間の距離を縮めてしまうのではないだろうか?
その小さな指先に近づく許可が、他ならぬコッタからおりているのだよ……。
時はきたのだよ……。
さらば開かれん……。
私の口は未知なる幼女との共有体験に近づいて……。
今、ファンファーレが高らかに……。
「あっ……」
ピッ、と――。コッタの小さな声ともに、彼女の指先からブドウが弾き出された。
甘かった。甘かったのだと思う。
ブドウをつまんで保持しておくための力の調節が、コッタには難しかったのだろう。幼さゆえの不器用さが、私と指先との接触まで持ちこたえなかった。
終わった。……。
いいではないか……。それもまた……。心の中でわずかな涙が落ちたとき、支配地域に隔離されていた私の心は、正気という範疇に戻ってきていた。
上空1メートル30センチ付近。私は標的を正確に
まだ……終わっていない……。終わってなどいない!!
確かにブドウとコッタの指先という切り離すべきではないワン・ペアは失われたが、まだブドウを獲得する権利までは失われてはいない。地面に到着するまでの時間が残されているし、そう簡単に到着しない。
これは救済か? 私はコッタが用意した果肉を、彼女の指ごと口の中に含もうとしていた。
危ないところだった……。
自然落下を始めたブドウを見ると、私はなおも後ろ髪を引かれる思いを感じるわけであるのだが、それでも犯罪者まがいの理論形成と、それに伴う行動規則からは逃れることができていた。
フラットな境地に帰ってこれている。そのはず……。
コッタの指から分離してしまったブドウと言えど、コッタの指によって
そのブドウは甘かろうが酸っぱかろうが私が入手したほうが自然だ。
今ゆっくりと落ちていくブドウを見ながら、私はいったいどうやってブドウを拾い上げるべきなのかと
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