第26話 ラウンジへ ①

 私は金髪のメイドと客室の外の廊下ろうかに出た。


 廊下の幅は広く、毛足けあしの長いカーペットが全面にきつめられている。灰色の表面には格子こうしの大きなアーガイル・チェックの模様が入っていおり、かくばった空間を意図的に意識させる重厚な美意識があった。


 この階層には4部屋あると勘定かんじょうしていいのだろう。さきほど私たちがくぐった扉のほかに、壁際には3つの両開きの扉が距離を開けて配置されている。さいおうの壁際には屋上への階段と従業員用と思われるせまい扉があった。


「ルーク様もご一緒されますか?」


 金髪のメイドが尋ねてきたことは、服飾店ふくしょくてんへの同行だった。


 私は地上階のラウンジで時間をつぶすよと言ってことわった。幼女の服を選ぶセンスが自分にあるとは思えない。せいぜい今や大手を振って買うことができる幼女向けのパンツに目の色を変えるのがせきやまだ。メイドに一任いちにんするのが無難ぶなんだろう。


「私はラウンジで待っているよ」

「それでは地上階までご一緒いたします」


 〝ご一緒〟か……。


「私への対応はゆるめてもらっていい。適当に扱われているほうが気が楽だよ」


 とはえむかう方向が同じであったから、私は斜め前を歩き出した金髪について階段をくだった。

 

 その最中に私は気がかりだった注意事項をメイドに伝えた。


 それはコッタが身につけているエルフィン・ローブと、クマさんポシェットの流用である。あれらはコッタの御守おまもりにもなっている貴重きちょうな装備である。新しく買い替えたりせずに、そのまま継続してコッタに身につけさせておきたい。


「あと古着は全部ぜんぶてずにとって置いてくれ。コッタにとって大切なものだ」


 そうなると旅行りょこうかばんくらいは買っておいたほうがいいのだろうと気が付いて、私はその購入も金髪のメイドに任せようとした。


 鞄のほうが多少値がはってもかまわないから、大きなトランク形状で、頑丈がんじょうで、あと幼女でも気に入るデザインがいいと、結局さまざまな注文をつけることになった。


「そのかばんは少し難しいかもしれませんね」


 金髪のメイドはクスリと笑う困り顔で私のほうを振り返った。階段は前をむいて降りたほうが良いのではないかと思うが、下方から見上げる仕草をみせつつも、とどこおりなく進んでいる。さりげないが上級者のテクニックだ。


 確かに私の発言は狂っていた。この街に流入してくる物品で私の要求を満たすことは不可能であるし、世界水準で見ても、幼女が気に入る巨大な鞄というものはほとんど存在しないだろう。


 私はあとで普通の旅行鞄をコッタと買いに行くと訂正ていせいすると、コチラを元気付づけるような「はい」という返事が背中ごしに聞こえた。若い娘がもつ嫌味のない態度がすべて再現されている。一見スキだらけに見えるのだが、こちらもメイドとしてはタダ者ではないのだろう。


 服の購入費用は精算チェックアウトのときに一括いっかつ請求せいきゅうされることになった。前払まえばらいとして預けているインゴッドの範囲におさまりそうだということも、このときメイドが教えてくれた。隠居いんきょ生活せいかつのうちにきんの価格はそこまでくずれしていなかったらしい。

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