第21話 無知なリンゴ ①
室内のゆとりのあるスペースは、3
テーブルの上には、ガラス製の
視線を
「
「ああ。とりあえずしばらくの
「
冒険者という言葉が私の心に
「ずっと、ってわけじゃないんだけどな」
「
「ああ。もう少し落ち着いたら、
自分の
うむ。付いて来てくれるようだ。ちょこちょことした可愛い歩幅は、私の心を踊らせる。
高額な料金を支払った甲斐はある。このクラスの宿屋になると当然のように個室にまで水道が配備されている。
私は自分の手を洗ってからコッタを見おろした。あまりに小さい……。私の
抱き上げていいものだろうか。いいわきゃないのだろう……。不用意な接触は許されざる行為だ。
すぐにフラリとさまよう自分の心を
使用するのは
準備を終わらせて、魔法による変化を現実に引き寄せる。私がしくじるはずもなく、シンク手間の床石の一部は
「魔法?」
コッタは足元と私を見比べて言った。
「ああ。ちょっと大きいキッチンにはこいつが良く効く」
コッタの目には不思議に映ったのだろうか。表情が動かないから良く分らない。けれども
まだ低い。
彼女が上に登ってから、私はもう一段階、魔法で床石を持ち上げた。
ここでもコッタに大きな反応はなかった。彼女は高くなった身長を利用して、依然として蛇口から流れ続けている水を見つめた。じっくりと眺めて、それから指差した。
「この水も魔法?」
「いや。その水は
「うん知ってる。
チエチエ?
「それが進歩したようなメカニズムで動いているんだ」
「メカニズム?」
改めて聞かれると困る。
「いくつかの部品や道具で動くカラクリだ。この水道は〝
「ふーん」
むしろ所々は魔法のままにしたほうが伝わりやすかったのかもしれない。コッタからもらった返事は理解が遠のいたかのような単調なものだった。
床を持ち上げても、幅の広いシンクがコッタを蛇口から遠ざけていた。これ以上の接近は空を飛ばすくらいしか方法がないのだが……、と思っていると、コッタが前のめりな姿勢になって水をつつきはじめた。
「お部屋に帰ったときは、こう、コスコスって感じで、ごしごしって手を洗うんだ」
「?」
ジェスチャーなど使う必要はなかく、私はコッタと一緒に手を洗らった。田舎者でも手ぐらい洗ったことがあるだろうが、私が伝えたかったのは日々の習慣としての手洗いだ。普通に考えれば、これくらいのことは一緒にいれば自然と身に付けていくだろう。
これくらいのことは教えられるが、ほかはメイドの到着が待つしかない。
私は蛇口を閉じて、近くの棚を適当に開いてみた。すぐに
「……」なぜだ、と思っている私がいた。
「……」当然、とでも言いたげに
私はみずからの頭を推理のために働かせることで、その原因をすぐに特定した。答えは彼女の身体を包んでいるエルフィン・ローブだ。そいつの高すぎる
手洗いは最初から不要だったということになる。ふむ……。体を清潔に保つ十全な機能があるわけだから、今のコッタは風呂も不要ということになるのだが、それでは常識が損なわれてしまう。エルフィン・ローブを身に付けているからといって、手洗いや風呂が禁止になるわけでもない。風呂に入る習慣もまた、獲得すべき成長要素だ。ふしだらな生活は品性を下げるほうにしか働かないだろう。
ふしだらな生活を続けてきた私がそんなことを言ってもなんの説得力もないのだが、コッタはそれについてなにも知らないわけで、この点について少し引け目を感じるのだが、つっかかりなしで事を運べる優位な状況を、私はみずから壊す必要性を感じない。
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