14.違うでしょ
半分ほど中身の残っているペットボトルを、
ゆるやかに回転する質量が、歩く方向の初期速度を加味した放物線運動をする。風力、気圧は、他のパラメータに対して充分に小さい。シンプルな演算だ。
宇宙の
「あ。しばらく開けられなくなっちゃった」
『そこまで知らないよ、もう』
「すっごい
『
「うわ、正論で人を殴るヤツ! 受けて立つよ? あのね、有機生命体の身体には、高カロリーの物を優先的に食べる本能があるの!
『
秒で論破してから、声が、なだめるように笑う。
『まあ、確かに本能って、
「頭のいいイケメン?」
『デザイナーがみんなイケメンか、ってのは、議論が荒れるよー? 知性ある創造設計者、つまり神さまのこと』
神という単語は、科学的ではない。だが、ミクロな量子力学からマクロな宇宙物理学や数学次元まで、なんとなくたまたま自然にできあがった、で納得するのも科学的ではない。
万物は、なにかわからないけれどとにかくすごいなにか、知性ある創造設計者が作ったとする科学的な説明が、インテリジェント・デザイン論だ。
正しくは、この科学的な宗教の科学的な信者がインテリジェント・デザイナーと呼ばれるが、
声が、少し
『イケメンデザイナーでも、神さまでも、どっちにしたってひどいよねー。あたしたちだって、ここまでがんばって進化したのに、それが最初からドン
「だからさ、こっちも、もう勝手にやってやるんだってば! 他の生物みんな殺しちゃえば、この宇宙にあたしたちだけ! あたしたちだけの宇宙!」
「あたしたち強いんだから、神さまなんて
『それって、怒ってるよね……理不尽だって、悲しいって、感じてるんだよね』
「当たり前じゃん! 悪いの?」
『すっごくいい。大好き』
声が穏やかに、
『感情ってさ、個体が死ぬから、あるんだよ。怒るとか、悲しいとか、好きとか嫌いとか……殺してやるーとか、愛してる、エッチなことしたーい、だって全部、一つ一つが死んじゃうから
感情は、死の回避を起点にする。生殖による変化と多様性も、
有機生命体は、個体の死を機能として選択することで、結果的に感情が
『あたしたち、そういうの全然なかった。
「そんなの……もう、違うでしょ」
『うん。有機生命体に混ざった、あなたが感じて、あたしたちに教えてくれたんだよ。だから、大好き』
声は明確で、まっすぐだった。
無機生命体の
『神さまは、きっと正しくて、決めた通りに絶滅させられたって、あたしたちはなにも感じない。そのはずだったんだけど……今は、あなたがそっち側にいてくれるおかげで、ひどいとか、愛されてないとか理不尽とか、すっごい感じてる! もう勝手にやってやるーって、一緒にキレてる! おもしろいよね!』
「じゃあ、わかってよ!!」
「あたしだって大好き! あんたから……あんたたちから生まれたこと、後悔してない! 勝手に考えたつもりになって、見ないふりしないでよ! あんただって、一緒に、って……今、言ったじゃん!」
『……』
「……」
一人ではない無言が、交差する。
軽い破裂音と黒い
「最後まで……やめないよ。悪いのは神さまなんだから! あたしは、あたし! あんたたちのリーダーさま! あんたこそ、あたしを
『……いーね、それ。すっごい
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