参照プロット(第三話①)

シーン12

場所:学校の屋上

人物:優、志津花

展開:

志津花しづかゆうに、怪物たちの本質を説明する。

台詞:

珪素生命けいそせいめい、という概念がいねん御存知ごぞんじでしょうか」

「知らない」

「地球上の珪素けいそは、ほぼすべて二酸化珪素にさんかけいそ鉱物質こうぶつしつの状態で安定して……」

「ごめん、もう少しすっ飛ばして」

「……メタルス○イム」

「あ、うん! わかった、あれね!」


「本来、この宇宙の万物を創造なされた神さまに、分神ぶんしんのわたくしがこのようなことをお話しするのは、文字通り以上の釈迦しゃかに説法なのですが」

「そんな表現、良く知ってるね。宗教違いじゃないの?」

「……釈迦しゃかは西暦の紀元前、現在のインド地方に実在した人物であり、神の呼称には該当しません。そして宗教という文化は、知的生命が分布ぶんぷする生存圏の各地において、共有するべき道徳的規範どうとくてききはんを集約したものであって……」

「すいません、余計なこと言いました! 本筋に戻ってください!」


鉱物質こうぶつしつ二酸化珪素にさんかけいそ、高分子結合による樹脂じゅしの性質を持った珪素化合物シリコーン、これらの相反あいはんする特性と、有機生命体の基礎となる炭素結合に珪素けいそ置換ちかんした場合を考え合わせ、想像上に発生した金属質きんぞくしつあるいは鉱物質こうぶつしつ生物種せいぶつしゅが、珪素生命けいそせいめいです」

「つまり、メタルス○イムってことだよね」


「……完全に同一ではありませんが、金属質きんぞくしつあるいは鉱物質こうぶつしつ生物種せいぶつしゅ、宇宙環境へ適応した剛性体組成ごうせいたいそせい樹脂じゅしの性質で可動する軟性体組織なんせいたいそしき、選択的に配置した導体元素どうたいげんそニューロンによる超伝導演算ちょうでんどうえんざん次元縦波干渉じげんたてなみかんしょう超空間並列共有知能ちょうくうかんへいれつきょうゆうちのうをも獲得かくとくした、宇宙空間を主要な生存圏とする無機生命体、それが彼らです」


「彼ら無機生命体は、有機生命体である皆さまとは、相容あいいれない生物種せいぶつしゅとしての敵……すなわち、敵性群体てきせいぐんたいと呼称します」


「彼らは個体死と交配による変化の可能性、それがもたらす多様性と環境適応の拡大を根幹こんかんとした生命進化において、すでに限界に達した存在です。先日来せんじつらいの二つの個体は、単純な外観上は差異さいがあっても、生物としてはまったく同じ単一の群体ぐんたいなのです」

「ええと、つまり?」

「……染井吉野そめいよしののようなものです」

「風流だね」


「でも、なんで敵なのかな……? 桜の宇宙モンスターって言われても、それなら、宇宙にいるんだよね? なんで地球に?」

「地球のみではありません。全宇宙規模で、彼らは有機生命体の生存圏を侵食、爆発的感染拡大パンデミックに至っています」

爆発的感染拡大パンデミック……?」


シーン13

場所:ビルの屋上

人物:唯

展開:

ゆいと、姿のないゆいが会話の形で、志津花しづかの説明を補足する。

台詞:

「どこも、最後の一押しって感じだねー」

『そこからが、意外と難しいんだって! 有機生命体って、一つ一つは弱っちくてすぐ死ぬのに、気がつくとあっちこっちに残っててさー!』


『まあ、惑星わくせいそのもの、地殻ちかくに同化して、土壌組成どじょうそせいから窒素ちっそも炭素も原子核崩壊げんしかくほうかいさせた置換変性ちかんへんせいに入ってるし、後は時間の問題なんだけど』

「時間勝負なら、代謝たいしゃ腐乱ふらんもない無機生命体の独壇場どくだんじょうでしょ」

『それを言うなら独擅場どくせんじょうでーす』

「うっさい! 生きてる日本語ってやつだから。どぅーゆーあんだすたーん?」


『それはともかく、さ。申しわけないとは、思ってるわけよ。地殻同化ちかくどうかとか土壌組成どじょうそせい置換変性ちかんへんせいなんていつもやってるし、混じり込んでる有機生命体だって、炭素結合をちょっと崩壊ほうかいさせてやれば、すぐ無機物になってたし』


『まさかそんな、代謝たいしゃ腐乱ふらんもする有機物に、中途半端に独立しちゃって、並列共有知能へいれつきょうゆうちのうにも齟齬そごが出るなんて』

置換変成ちかんへんせいを制限してるの。鉱物質こうぶつしつのつるつるお肌になったら、さすがにおかしいってだけ。いざとなったら、すぐできるよ」

『しなくていいんじゃないかなー』

「なに、まーたその話?」


シーン14

場所:学校の屋上

人物:優、志津花

展開:

説明の続き。神が構築した宇宙と生命のシステムと怪物たち、有機生命の汎宇宙存在はんうちゅうそんざいへの進化をになう変移へんいウィルスだったはずの敵性群体てきせいぐんたいの、全宇宙規模の爆発的感染拡大パンデミックを収束させなければならない使命を明かす。ゆうが回想する入院中の幹仙みきひさ葉奈子はなこの場面を、間にはさんで描写する。

台詞:

「神さまが構築した宇宙と生命のシステムにおいて、彼ら敵性群体てきせいぐんたいは、進化を加速させる変移へんいウィルスとして設計されていました」

「ウィルスって……病気?」

「絶滅が定められていた進化の競合種、とも言えます」


「先述しました通り、無機生命体は金属質きんぞくしつあるいは鉱物質こうぶつしつの特性による永続的な無変化、並列演算へいれつえんざんによる単一群体化たんいつぐんたいかという、生存手段の究極に行き着いたがために、これ以上は、もう存在する意味がない生物なのです」


「そして、そんな無機生命体と対照的に、個体の生存手段を最低限まで放棄ほうきしたがために、永続的な変化、進化と退化の果てしない試験素材として、生物の本道を生きる有機生命体……この二つが接触し、有機生命体が無機生命体を駆逐くちく、絶滅させる生存競合の過程で、有機生命体が無機生命体の獲得かくとくしていた特性を部分的に吸収適合、新たな汎宇宙存在はんうちゅうそんざいへ進化することが、いわば、神さまの設計なされた摂理せつりだったのです」


「ええと……うん、まあ……その……」

「……あてうまとか、かませ犬とか追放ざまぁの勇者とか、そんな感じです」

「時々、そうやってレベル落としてくれるの、すごい助かる」


「ですが、その神さまの設計なされた摂理せつりを、彼らが逸脱いつだつし始めたのです」

「え? 神さまの、予想外の設計ミスってこと? そんなのあるの?」

「それはもう、全知全能ですから。この宇宙に存在する、ありとあらゆる悪もポンコツもすっとこどっこいも、すべて網羅もうらしておられます」

「絶対、そんな意味じゃないと思ってた」


敵性群体てきせいぐんたいの増殖率、惑星わくせい地殻同化ちかくどうかによる環境変動の感染率、土壌組成どじょうそせい置換変性ちかくへんせいによる有機生命体にとっての惑星致死率わくせいちしりつが、想定を超える高さにまで悪化した爆発的感染拡大パンデミックの状態が、現在です。そのアンチウィルス、いわゆる抗体進化を、あくまで有機生命体が成しげるための軌道修正が、必要になったのです」


「わたくしたちが降臨こうりんした、使命にございます」


シーン15

場所:ビルの屋上

人物:唯

展開:

敵性群体てきせいぐんたいの共有知能としてのゆいは、有機生命体と混ざったゆいの心情を理解、自分たちから離そうとするが、結局は強い意志と愛情の形を受け入れる。

台詞:

『インテリジェント・デザイナー、なんて言い方もあるけどさ』

「頭のいいイケメン?」

『デザイナーがみんなイケメンか、ってのは、議論が荒れるよー?』


『知性ある創造設計者、つまり神さまのこと。ひどいよねー。あたしたちだって、がんばって進化したのに、それが最初からドンまりに決まってた、なんてさ。愛されてないよねー!』

「だからさ、こっちも、もう勝手にやってやるんだってば! 他の生物みんな殺しちゃえば、この宇宙にあたしたちだけ。あたしたちだけの宇宙!」


「あたしたち強いんだから、神さまなんてらないよ。強ければ、なにしたっていいんだから。弱い方が死ぬの、普通なんだから」

『それって、怒ってるよね……理不尽だって、悲しいって、感じてるんだよね』

「当たり前じゃん! 悪いの?」

『すっごくいい。大好き』


『感情ってさ、個体が死ぬから、あるんだよ。怒るとか、悲しいとか、好きとか嫌いとか……殺してやるーとか、愛してる、エッチなことしたーい、だって全部、一つ一つが死ぬからるんだよ』


『あたしたち、そういうの全然なかった。らなかったんだよ。みんな同じで、増えるけどそれだけで、変わらなくて……壊れてもどっかの欠片かけらでさ』


『有機生命体に混ざった、あなたが感じて、あたしたちに教えてくれたんだよ。だから、大好き。神さまはきっと正しくて、決めた通りで、あたしたちはなにも感じない。そのはずだったんだけど……今は、ひどいとか、愛されてないとか理不尽とか、すっごい感じてる! もう勝手にやってやるーって、一緒にキレてる! おもしろい』

「じゃあ、わかってよ!!」


「あたしだって大好き! あんたから……あんたたちから生まれたこと、後悔してない! あんただって、一緒に、って……今、言ったじゃん!」

『……』

「最後まで、やめないよ。悪いのは神さまなんだから! あたしは、あたし! あんたたちのリーダーさま! あんたこそ、あたしをゆいちゃんさまって呼んでよね!」

『……いーね、それ。すっごいえらそう』


シーン16

場所:校庭

人物:優

展開:

志津花しづかが説明した内容を、ゆうが一人で歩きながら整理する。敵性群体てきせいぐんたいが破壊された後の残留粒子ざんりゅうりゅうしが、地表と海洋をわずかに変性へんせいさせている。

台詞:

「ウィルスで進化って……そりゃ、SFアニメとか漫画なら、あったような気もする、かな」


「新型コロナが、生物兵器の流出ってうわさもあったっけ。歴史でやってたペストとか、毎年のインフルエンザとか、普通は、ワクチンでなんとかしてたイメージだけど」


「俺たちの身体も、その度に少しずつ、なんか変わっていったりしてるのかな」

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