神獣ケルベロス 5-1

「グルルォォ」


 暗雲が立ち込め、空がまるで泣いているかのように、ポツポツと雨が降り始める。ケルベロスの巨大な姿が会場に現れ、その存在感は圧倒的だった。三つの頭が威嚇的に唸り声を上げ、それぞれの口からはどす黒い炎が噴き出している。観客たちは恐怖に震え、悲鳴を上げ会場から逃げ惑う。一瞬の内に地獄と化した会場でヒロ、ダンテ、ベネッタは足がすくみながらもケルベロスの前に立ちふさがった。


「で、でけぇ、顔が見えねぇぞ!」


 ダンテが呟きながら剣を拾い、傷ついた体に鞭を打ちながらケルベロスと対峙する。


「これは、魔族武闘会どころじゃなさそうだな」


 ヒロはケルベロスの前に立ち、翼をより一層に燃やして、その凄まじい眼光と対峙する。


「大丈夫なの? あなた達体ボロボロだけど……」


 ベネッタは微かに残った魔力をかき集め、ケルベロスに立ち向かう決意を見せていた。ケルベロスは腹が引き裂かれそうな唸り声をあげ、三つの頭を振りながら一歩一歩前進をする。その巨体は地獄そのものが地上に舞い降りたかのようだ―――


 ―――ロゼは毅然とした態度でグルーディアとゼゼル、その他の軍団長に指示を的確にだす。


「グルーディア、ゼゼルお前たちは何かあった時の為にこの会場に残れ、他の団長は速やかに観客の避難を開始しろ! いいか、誰一人傷つけるな!」


「ロゼ様はどうされるおつもりですか?」


「あの3人にまずは任せる、何かあれば、私がケルベロスを倒す」


 ロゼは腰に掛けた剣をギュッと握り締め、いつでも戦える準備をしている―――


 ―――ケルベロスは足がすくみそうになるほどの唸り声をあげ、口からは火の粉がこぼれている。次の瞬間、ケルベロスの口から放たれた火の玉がヒロに向かって飛んできた。


「ヒロ、気をつけろ!」


 ダンテが叫ぶと同時に、ヒロは素早く身をかわし、炎の玉を回避する。しかし、ケルベロスは容赦なく次々と火の玉を放ち、それをヒロたちは必死に避けながら立ち向かっていった。ベネッタは魔法を唱えて、ケルベロスの足を氷魔法で凍結させる。ダンテは剣を手に、炎を避けながらケルベロスに斬り込もうとしていた。しかし、ケルベロスはその大きな体を巧みに操り、ベネッタの氷の魔法は足止めにもならず、炎の嵐を巻き起こして二人を圧倒していく。


「ぐわぁ!」 「きゃあぁ!」


「ダンテ! ベネッタ!」


 ヒロは炎の攻撃に立ち向かいながら、紋章の力である”煉獄”を活かしてケルベロスに立ち向かった。ヒロの操る煉獄と、ケルベロスの獄炎。似た性質を持つ炎は互いにぶつかり合い会場を強烈な熱気が包み込む。ヒロの獄炎でケルベロスにダメージを与えようとするが、性質が似ているからかその巨体はなかなか崩れない。


「このままじゃ……ダメだ。ベネッタ、ダンテ!  協力してケルベロスを倒すぞ!」


「いや、分かってるけどさ」


「今、倒す算段考えてんだけど、さすがにこの大きさは骨が折れるわね……」


 ヒロが叫ぶと、ダンテとベネッタも応えて、ケルベロスの前に立ちはだかる。ケルベロスは唸り声を上げながら、キョロキョロとしている。ケルベロスは方向を変え、ある方に向かって歩き出した。方向の先にいたのは倒れているベルゼルだ。


「うぅ、あぁ……あぁ……」


 ベルゼルはケルベロスの放つ圧倒的な威圧感に恐怖し、ただ後ずさりをして来るなと願うしかできない。


「ダメだ! アイツ完全に心が折れてるぞ!」


ダンテはベルゼルが戦意を無くしていることに気づき、助けに向かおうとするがこのままでは間に合わない。ダンテの脇をものすごいスピードで駆け抜ける、ダンテよりも早く反応したのはヒロだった。ベネッタはヒロの行動が心配で思わず声を張り上げた。


「くっ!」


「ヒロ!」


ベルゼルの心はすでに折られておりプライドや自尊心など全てを捨てて目の前の恐怖が過ぎ去ることを祈っている。ケルベロスは前足を大きく上げ、一気に振り下ろしベルゼルを襲う。


「うわぁ!」


 ケルベロスの足はベルゼルの眼前で止まった。


「……?」


「大丈夫か? ベルゼル! 早く安全な場所に逃げろ!」


 ヒロは翼を自在に動かし、ケルベロスの攻撃を両手で受け止める。ベルゼルはケルベロスに背を向け、一目散に這いつくばりながら逃げ始めた。


「ったく、強気のベルゼルはどこに行ったんだか……」


「とりあえず、反撃開始ってことね!」


 ダンテとベネッタはケルベロスの後方に立ち、ヒロと挟み合う形でケルベロスと対峙する―――

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