魔族武闘会開催! 3-4
「すでに私の罠は設置済みよ、ここまで設置するのに苦労したんだから」
ベネッタは両手を上げてやれやれといった表情を浮かべていた。
「ベネッタ……お前今じゃないな!?」
ギロッと睨むヤコブに対し、
ベネッタはニヤリと笑って返す。
「気づいた? そうこの前の試合も、その前の試合も、何なら最初の試合の時から少しずつ設置させてもらったの。大変だったんだから」
そう、
ベネッタは罠を初戦の時から戦ってないふりをして、
魔法をずっと使用していたのだ。
誰にも気づかれることなく、
罠を設置していく。
それは最初から試合を観戦していたロゼだけでなく、
その場にいた全員が気づいていなかった。
唯一人、
ダンテを覗いては……
「おい! 審判! これはいいのか!? やってることはイカサマだぞ!」
ヤコブが審判であるイヴに訴えるが、
イヴはため息をついた。
「はぁ、その証拠はありませんよ? 言葉でそういってるだけかもしれませんし、そうではないかもしれません。言ってしまえば気づかないやつが悪いです」
イヴははっきりと言い放った。
あまりにはっきりと言われたからか、
ヤコブはそれ以上問い詰めることができないでいた。
確かに、
試合だからと言われれば卑怯なことは良くないことなのかもしれないが、
もしこれが戦場であれば、
それに気づけなかった=『死』を意味する。
イヴは遠回しにそれを伝えているのが分かったヤコブは、
歯をギリギリとさせて、
ベネッタを睨む。
その様子を眺めていたベネッタは、
手を口に当ててクスっと笑った。
「ねぇ、ヤコブ……試合前からすでに戦いは始まってるのよ、貴方達がどう戦うのか
なんて私には手に取るようにわかる。私のIQは250なんだから」
「なっ!?」
ベネッタのIQを聞いたヤコブは言葉が出なかった。
「マジか!?」
ベネッタのそばにいたダンテは驚き、
後ずさりをしてベネッタから距離を置き始める。
「なんであんたが驚くのよ、知らなかったの!?」
後ずさりをするダンテをベネッタは大声を出して引き留める。
「いやぁ、頭のいい奴だとは思っていたけど……」
「いいから、あんたは早く戦いなさいよ!」
ダンテとベネッタがごたついているのをヤコブは見逃さない。
「このやろう、よそ見してんじゃねぇよ!」
ヤコブはベネッタに近づき、
一撃を加えようとしたが、
突然眩い光がヤコブの視界を奪う。
自身に攻撃が来ることを予知していたのか、
ベネッタは自身にも魔法を設置していたのだ。
「ぐあぁ! 目がぁ、目ガァ!」
「おい、どっかで聞いたことあるセリフだな」
ダンテは剣を握りしめ、
ヤコブを一撃を加えた。
ザシュッ
腕から赤黒い血が飛び散る。
ヤコブはハンマーを地面に落とし、
斬られた腕を抑えつつ、
眩む目をなんとか回復させた。
「くそぉ、お前らぁ!」
ヤコブは視界が回復したが、
手元にハンマーは無く、
動きが鈍くなっている。
「ヤコブ! お前はここで終わりだ!」
キィン
金属がぶつかる音が響く。
「なんだ……やっと動けるようになったのかよ」
ダンテの剣を受け止めたのは、
氷漬けから脱出したディエゴだ。
「あぁ、ったく性格の悪い女だな、あとでお仕置きをしねぇと」
ディエゴはニヤリと微笑み、
すかさず反撃に移り、
ダンテに一撃を加えた。
「ぐあぁ!」
ダンテの右腕から一筋の血が流れる。
「そう簡単にやらせねぇぞ、ヤコブいけるか?」
ヤコブはハンマーを手に持ち、
肩にハンマーを担いだ。
「おぉ、問題ねぇ」
ヤコブはディエゴの前に立ち、
ダンテ達に向かって大きな雄たけびを上げながら突進した。
「無駄なのが分からないの?」
ベネッタの魔法が次々と作動していく。
「お前の魔法の方が無駄なんだよぉ!」
魔法によって発現する、
爆発、氷の刃、突風、岩石の罠を、
ヤコブはその身に全て受けるも、
それらをものともせず突進を続ける。
「そんな! 魔法をあれだけ喰らってピンピンしているなんて、どんだけ頑丈なの!」
ベネッタはヤコブのあまりの耐久力に驚きを隠せない。
ヤコブが魔法を耐えることができたのはディエゴの仕業だった。
ディエゴのスキルの”付与”によって、
体力、防御力をヤコブに付与していたのだ。
ヤコブの後ろでディエゴは反撃を伺っている。
「見たか、これが俺たちの切り札だ!」
「はっはっはっ、全て壊れろぉ!」
ヤコブの一撃がダンテを襲う。
「うぐぅ!」
ダンテは何とか剣で受け止めた。
(ダメだ、こいつ……攻撃が重い!)
ヤコブの攻撃は非常に重たく、
全ての衝撃を受け止めることができず、
吹き飛ばされてしまう。
「ぐあぁ!」
「ダンテ! ……!!」
ベネッタがダンテに気をとられていると、
脳天に鈍い音が響き渡る。
ミシィ
ベネッタのこめかみにハンマーが直撃する。
「がはっ!」
ドガァァン
堪らずベネッタは吹き飛ばされ、
壁に激突をして瓦礫に埋もれてしまう。
「ベネッタ!」
「おい、よそ見してていいのか?」
ヤコブの影に潜んでいたディエゴの斬撃によって、
ダンテは体を切り裂かれてしまう。
「ぐあぁ、くそ!」
ダンテは攻撃を剣で受け止める。
「バカが! 剣で受け止めたら腹が無防備だぞぉ!」
ダンテの死角である下からの攻撃に反応できず、
ヤコブのハンマーがダンテの顎を打ち抜いた。
「がっ……」
ダンテの意識が遠のいていく。
その間にも、
ディエゴの絶え間ない攻撃でダンテの体には無数の切り口が出来上がり、
大量の出血をしていた。
「ほら、もう楽になっちまえよ!」
ヤコブはハンマーを両手で持ち、
ダンテの顔面目掛けて振りぬいた。
攻撃をもろに受けたダンテは、
声を上げる暇もなく、
豪快に吹き飛んでしまう。
ヤコブとディエゴの息のあったコンビプレイに、
ダンテとベネッタは瞬く間に劣勢に置かれてしまった。
「あぁっと! ヤコブ選手、ダンテ、ベネッタの両選手をハンマーで吹き飛ばしてしまった~!」
ダンテは震える膝を叩いて、
何とか立ち上がろうとする。
しかし、
体力は限界に到達していた。
体はボロボロで、
ディエゴとの戦いで無数の切り傷、
加えてダンテ自身の体力の無さが、
ダンテをさらに追い込んでいた。
(くそっ、体も限界か……)
もっと訓練を積んでいれば、
自身の弱点は分かっていたはずだろ……
悔やんでも悔やみきれない、
剣を杖代わりに、
震える足を手で抑えながら、
顔をゆっくりと上げる。
視界はぼやけ、
ディエゴとヤコブは余裕の表情を浮かべていた。
ダンテの心は折れかけていた。
(すまねぇヒロ、コイツらつえぇわ)
剣を握る力が弱まる。
ふとヒロを振り返る。
ヒロの体は内出血や痣ですでに満身創痍で、
それでも必死にベルゼルに立ち向かっていた。
「くそぉ! まだだぁ!」
ヒロの闘志はまだ消えていなかった。
(ヒロ……お前……)
なんでそんなにボロボロなのに立てるんだよ、
俺はもう立つこともやっとなのに……
ヒロの立ち向かう姿にダンテは心を打たれる。
(へっ、お前に勝ってる俺がこんなんじゃざまぁねぇな)
ダンテは気力を振り絞り、
力強く立ち上がった。
「うおぉぉぉ!」
「おい、もうボロボロじゃねぇか」
「気合だけじゃ勝てねぇぞ」
ヤコブとディエゴに嘲笑されながらも、
ダンテの目はまだ諦めてなかった。
瓦礫に埋もれるベネッタに必死に呼びかける。
「おい、ベネッタ……聞こえてるだろう! まだ寝るには早いぞ!」
ダンテの声に反応したのか、
瓦礫から覗かせるベネッタの指がピクッっと動き出す。
ベネッタの指は血で真っ赤に染まっており、
おそらくベネッタも体力の限界に来ているのだろう。
それでもダンテの言葉に反応したベネッタは、
手を使って、
瓦礫をどかして顔を出す。
「なに? ……もう寝かしてくれてもいいんじゃないの?」
「まだもう一仕事あるぞ、手を貸してくれ」
ダンテは次の一撃に賭けていた。
だが一人では到底かなわない。
どうにかして彼らに対して一瞬の隙を作る必要性がある。
(一瞬……一瞬だけだ)
剣を強く握りしめ、
ダンテは構えをとった。
ベネッタは瓦礫から何とか抜け出し、
息を切らしながら、
ダンテの意図を持ち前の思考力で汲み取った。
「……OK」
ベネッタは何かを呟くように魔法を唱え始める。
「ディエゴ、どうする? あの女からやっちまうか?」
「いや、どうせ魔力ももうそれほどないだろう、ダンテはまだ動けるからなダンテに行くぞ」
「それもそうだな、よし」
彼らはダンテに標準を合わせ、
先程同様、
猛スピードで突進をした。
「くそ、やっぱりこっちに来るか……まぁ」
「想定内だけどね」
ベネッタは血が流れる頭を左手で抑えながら、
右手に魔力を集中させる。
「これで終わりだ!」
「くたばれダンテぇ!」
ヤコブはハンマを両手に持ち、
勢いよく上から下に振り下ろした。
ボンッ
ヤコブの足元が小さく爆発した。
「バカが、その程度しか魔力が無いのか!」
「バカはてめぇだよ」
ベネッタの狙いは足元ではなく、
地面そのもの。
爆発によって抉れた地面に、
ヤコブは足を持っていかれ、
バランスを崩す。
「うおぉ!」
「ヤコブ!」
ディエゴはとっさの判断で、
スキルを無効にして、
自身のステータスをもとに戻した。
「それも想定済み……」
「なに!?」
ディエゴの足元にはすでにくぼみができていた。
ディエゴは足がくぼみにはまり身動きが取れなくなってしまう。
「なっ、いつの間に!?」
「最初の爆発魔法よ」
ベネッタは自慢げに答えた。
「最初!? 最初って……」
ディエゴは青ざめた。
「貴方達を最初に巻き込んだ爆風……あの時にすでに地面に爆発させてくぼみを作っておいたの」
「バカな!? くぼみがあれば気づくはずだぞ!」
「でも気づかなかった。ヤコブの体のせいでね。それにくぼみが2個もあったらさすがに気付くでしょ? だから2個目はわざと貴方の目の前で爆発させた」
「まさか、ここまで計算をしていたのか!?」
「言わなかった? 私、IQが250あるって」
「じゃあ、狙いは……」
「そう……お前だよディエゴ」
ダンテは力強く踏み込んだ。
剣を後ろに構え、
居合のポーズをとる。
勝負は一瞬だった。
目を閉じて、
深く深呼吸をする。
全身の筋肉の動きを感じる。
(あぁ、今いい感じだ)
ダンテの姿が消える。
「なっ!」
「消えた!?」
ディエゴ達の背後で
ダンテの剣はすでに高々と上げられていた。
攻撃は終わった。
「神霧……!!」
ヤコブとディエゴの体が十字に切り裂かれ、
切り口から血飛沫が舞い上がる。
「がはぁ!」
「そんな……最初から俺が狙いだったなんて」
「お前のスキルが一番厄介だからな」
「くそ……がぁ」
ヤコブとディエゴは地面に倒れ、
白目をむいて気絶した。
「はぁ、はぁ」
ダンテは最後の力を振り絞ったからか、
剣で体を支えるのがやっとだ。
「なんとか……勝てたみたいね」
ベネッタは頭を抑えながら、
肩で息をしている。
ベネッタの魔力も限界に来ていたのだ。
「あぁ、だがヒロに加勢しないとまだラスボスが残ってるからな」
「そうね……」
ダンテとベネッタは重たい体を引きづり、
ヒロの加勢に向かった―――
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