魔族武闘会開催! 3-3
「急に笑って気持ち悪いな、自分で自分がおかしくなったのか?」
ベルゼルは試合中にも関わらず腕を組んで、
ヒロを嘲笑する。
「いや、ベルゼル……お前の倒し方が分かっただけだよ」
ヒロは傷ついた体を震わせながら立ち上がる。
「何? 僕の倒し方が分かっただと?」
「あぁ、それはお前の足元が教えてくれた」
ヒロは腹を抑えながら、
ベルゼルの足元を指さす。
足元にはベルゼルの足跡がない。
「ベルゼル……自分からは攻撃できないんじゃないか?」
「なっ……!?」
ベルゼルは動揺を隠せなかった。
「俺はずっとお前に攻撃を仕掛けてた。だけど、お前からは攻撃を仕掛けてくることは一切なかった。ずっと不思議に思ってたんだ。なんで俺が倒れたりしてるのに追撃をしてこないのかって……しなかったんじゃない、できないんだ。自分から攻撃をしたら反撃できないんだろ? お前はまだ自分からの攻撃の仕方を知らないんだ」
ベルゼルは両の拳を強く握りしめた。
屈辱……
自分より格下と思っていた者に、
秘密を暴かれたことが、
何よりもベルゼルの心を傷つけた。
「……だからなんだ? 僕が攻撃をしないからなんだ? お前はボロボロじゃないか、何を少しわかった風な口をききやがって……」
ベルゼルは歯が削れる程の歯ぎしりをして、
ヒロに対する怒りを露わにした。
「そうだ、だから俺は……」
ヒロは驚く行動に移った。
「攻撃しない……」
腕をだらんとして、
ヒロは目の前の槍を拾わず、
まるで戦う意思を見せない。
目の前で起きる光景にベルゼルは憤りを隠せない。
僕の前で戦意を無くした?
僕と戦う気がないだと?
この僕を前にして戦わないだと?
腕をブルブルと振るわせ、
徐々に怒りが込み上げる。
そして、
ベルゼルは自分から動いた。
「くそぉ! なめるなぁ!」
ベルゼルが動き出し、
一気に距離を詰める。
ヒロは目の前に転がる槍を、
前転して手にすると、
槍をベルゼルに向けて投げつけた。
「ぐっ!」
ベルゼルは槍を手で払うと、
ヒロの姿を見失ってしまう。
「ど、どこにいった!?」
「こっちだよ」
背後からヒロの声がする。
ベルゼルは反応してすぐに後ろを振り返る。
「な、後ろかぁ!」
ヒロは後方に回り込み、
ベルゼルの腹部に強烈なボディブローを入れる。
「ぐふっ!」
ベルゼルは初めての痛みに、
思わず膝をついて咳き込んだ。
「ゴホッ、ゴホッ! ……くっ!」
ヒロは膝をつくベルゼルの前に立ち、
槍を拾って見下ろしていた。
ベルゼルがその光景を目にすると、
何かが壊れたかのように表情が一変する。
「お前……この僕を見下すな……見下すなぁ!」
まるで悪口を言われた子供のように、
ベルゼルは立ち上がり、
その場で奇声を上げながら怒り狂い始める。
今まで味わったことがない事象が目の前で、
ましてや自身の身に降りかかるとは到底思っていなかったベルゼルにとって、
見下ろされることは何より耐え難い事だったのだ。
ベルゼルはついにヒロに本気を出すことを決意する。
「喜べ、僕が君を本気で相手してやることを……俺が攻撃できない? ふっ、それは違うぞ、攻撃できないやつなんていない。……そのことを君に教えてあげるよ」
ベルゼルは空に向かって咆哮した。
空気が揺れるほどの咆哮はその場にいた全員の耳を塞ぐほどに凄まじく、
次第にベルゼルの肉体は徐々に奇異に変化していく。
ベルゼルの肉体は膨張し、
血管が浮き出るのが遠くからでもわかるほどに脈打ち始める。
口からは白い吐息を吐き、
周囲はまるで極寒地帯にいるかのように寒くなっていく。
「ふぅ、さぁ……ヒロ始めようか」
ヒロは咄嗟に槍を構えた。
(コイツ……ヤバい……!)
ヒロの本能がそう悟ったのだ。
ヒロを取り巻く周囲が凍てつく寒さで襲う。
「あぁーっと! ついにベルゼル選手が本気になりました! ヒロ選手の思わぬ反撃により、ベルゼル選手が本気で戦う相手と認めたのか! ベルゼル選手の周囲が白いモヤがかかっているようです。心なしか寒くなってきてるような……イヴさん! 状況の説明を、お願いします!」
イヴは体ガタガタと震わせながらマイクを手に持つ。
「え〜、非常に寒いです! まさに極寒! 吐く息が白い粒状の雪に一瞬にして変わります。これはベルゼル選手のスキルがついに発動したのか!? 近くで見てますが、その全貌ははっきりと分かりません!」
体を凍える空気が襲う中、
ヒロの額に大粒の汗が流れる。
ベルゼルの強さを肌で感じ取っていたのだ。
今までは始まりに過ぎず、
ベルゼルは不敵に笑みを浮かべ、
ヒロを指差した。
「君に勝ち目はないよ? これが……紋章の力だぁ!」
ベルゼルはそういうと、
途端にヒロの視界から消えた。
「なっ!?」
消えた?
どこに?
審判のイヴが首を振っている。
どうやらイヴにも追いつけないスピードで動いたのか?
「後ろだよ……」
ベルゼルの声が後ろから聞こえる。
(嘘だろ? もう後ろに!?)
ヒロはすぐさま反応し、
後ろを振り返るが、
ベルゼルの掌底が腹部を捉える。
それはかつてない衝撃を生んだ。
骨にまでダメージがいき、
ミシミシと音を立て、
ヒロの体は宙に浮いてリングを囲う壁まで吹き飛ばされた。
「ぐわぁぁ!」
壁に埋もれるほどの衝撃、
ヒロは気を失いかける。
(これが、紋章の力か?)
気力を振り絞り、
気を失いかけていたヒロはなんとか理性を取り戻す。
こんな攻撃を何度も喰らえばいくら特訓したとはいえ、
体は無事では済まないだろう。
しかし、
体が言うことを聞かない。
立ちあがろうと足を踏ん張るが、
足はガクガクと震え、
立つのさえやっとだ。
ヒロは震える足を両手で支えてなんとか立ち上がる。
「なんとぉ! ベルゼル選手の攻撃は的確にヒロ選手のボディにヒット! あまりの衝撃にヒロ選手、壁に埋もれてしまいました! なんとか立ち上がりましたが、満身創痍と言ったところ、これは勝敗が決したのか!」
ラブの実況に観客はベルゼルが勝ったと確信したのか、
これ以上ない盛り上がりを見せる。
「ヒロ、これが君と僕の力の差だよ。わかったらとっとと降参でもしなよ」
ベルゼルは先程とは違いすでに落ち着いた雰囲気を出している。
「まだ……まだぁ……!」
ヒロの目はまだ諦めていない―――
―――ベルゼルとヒロが死闘を繰り広げる中、
ダンテとベネッタはディエゴ・ヤコブと戦いを繰り広げていた。
「ヒロ! くそっ、ベルゼルの野郎、本気を出してきたのか!?」
ディエゴは笑いながらダンテの体を体当たりで突き飛ばした。
「ははっ、ベルゼルさんが本気を出した。これでお前たちは終わりだよ」
続けてヤコブもハンマーを肩に乗せながら大胆に笑う。
「今降参したら無事で済むかも知れねぇぞ、ベルゼルさんの気分次第だがな」
ダンテは肩で息をしている。
ダンテの戦闘スタイルは素早く相手を仕留める速攻タイプだ、
体が細く身のこなしが軽い分、
体力は他とどうしても劣ってしまう。
対してディエゴは細身で長身、
相手の攻撃をいなしながら反撃に移る持久タイプで
ダンテとの相性は悪い。
ベネッタの魔法もことごとくヤコブの純粋な力に打ち砕かれており、
魔力が尽きるのも時間の問題だった。
「俺のスキルは”付与”、ヤコブに俺のスピードを上乗せすれば、俺と同じスピードで動く重戦車の出来上がりってわけさ」
「はっはっはっ、だから言ったろう、俺たちは2人になると強いってよぉ」
ディエゴのスキル”付与”は自身の能力を他人に付与することができる。
いわゆるバフスキルの一種のようなものだ。
ヤコブのパワーに加え、
スピードを付与されたヤコブの動きは、
ダンテとベネッタを圧倒するには十分だった。
加えてヤコブのスキルの”強化”は魔力を消費して自身を強化する。
ヤコブは攻撃するときだけスキルを使用しており、
元々少ない魔力を補っていた。
ただの戦闘狂ではないヤコブはダンテとベネッタにとって非常に戦いづらい相手だった。
「あー、ったく、モブキャラのくせに強さを見せてくんなよな、まぁ、俺ほどじゃねぇけど……」
ダンテは剣を地面に突き刺し、
首の骨を鳴らして、
両肩を交互に揉み始めた。
「ダンテ、もう十分よ仕込みは終わったから」
「やっとかよ、さぁてと、そんじゃ、まぁ」
『反撃開始と行くかぁ』
『反撃開始と行くわよ』
ダンテとベネッタは声を揃えて、
ディエゴとヤコブに言い放った。
「なに? 反撃開始だと?」
2人は大声で笑い、
ダンテとベネッタを嘲笑する。
「はっはっはっ、反撃かぁ、どうやって反撃するつもりだ」
「こうするんだよ!」
ダンテはディエゴとヤコブに向かって走り出し、
剣を横一文字に払った。
あまりにも単調な攻撃に拍子抜けし、
後方に回避する。
ボンッ
2人の背中で何かが爆発し、
爆風に巻き込まれる。
「ぐわぁ!」
「な、なんだ何もないのに空気が爆発した!?」
ダンテはニヤリと笑った。
「あ~、その辺もまずいんじゃねぇか?」
ディエゴは空中で態勢を立て直し、
着地をする。
ズガガッ!
今度は下から岩の棘が現れる。
ディエゴは右足を貫かれ、
その場で膝をつく。
「ぐぅ!」
「ディエゴ! お前らぁ、一体何をしたんだ!?」
ヤコブはディエゴの岩の棘をハンマーを振り回しながら砕き、
2人を睨みつけた。
「なに、たいしたことねぇよ」
ダンテはそういいながら、
足を負傷したディエゴに斬りかかった。
動きが鈍くなっている。
スキル”付与”によってスピードをヤコブに付与していたことで、
動きが悪くなり、
ダンテの攻撃をいなしきれなくなっている。
「く、くそ!」
ディエゴはたまらず、
ダンテの攻撃をかわして5メートルほど距離をとった。
しかし、
ここでもディエゴに悲劇が襲う。
足が氷によって凍結し、
身動きが取れなくなっていた。
「な、バカな! 何もなかったはずなのに」
「そう、何もなかったのよ……さっきまでね」
ベネッタがクスっと微笑む。
「まさか、お前かベネッタ!」
ヤコブは全ての元凶はベネッタだと悟り、
ベネッタに向かって突進した。
ダンテがその行動を許すはずもなく、
ベネッタの前に立ちふさがり、
ヤコブの攻撃を剣で受け止めた。
「お前って意外に頭まわるよな……でも、そう簡単にはいかねぇんだよな」
「くそがぁ、どうせスキルか何かだろ?」
「あれ、私あなたに言わなかった? 得意な魔法は”土”だけじゃないといったはずだけど」
ベネッタは見下したようにヤコブに視線を送った。
「なにぃ! まさか魔法か? でもこんな魔法見たことが……」
ベネッタは腕を組みながら人差し指を立てた。
「そう、これは魔法とスキルを合わせてるのよ、あと、ダンテにもあまり近づかない方がいいわよ?」
「おい、ベネッタまさか俺にもしたのか!」
ダンテは驚き思わずベネッタの方に振り向く。
ヤコブがダンテに近づいた瞬間、
ダンテの腹付近から突風が吹き荒れた。
「どわぁ!」
ダンテは突風でベネッタより後ろに吹き飛ばされ、
反対方向にヤコブは吹き飛ばされる。
「ぐあぁ!」
ヤコブは崩れた壁の瓦礫に下敷きになり、
ダンテは勢いよく立ち上がりベネッタに詰め寄る。
「バカか、バカか、バカか! 俺にしたら巻き添え喰らうに決まってんだろう!」
「なにいってんのよ、おかげで助かってるじゃない、ほら早く戦うぅ」
ベネッタはしてやったりの表情を浮かべながら、
ダンテを首で指示した。
崩れた瓦礫が勢いよく吹き飛び、
ヤコブは立ち上がった。
「ぐっ、ベネッタの野郎……このスキルは……」
「私のスキルは”罠属性付与”というもの。私の攻撃は全て罠として設置することができる。魔法に罠属性を設置しただけよ」
ベネッタはゆっくりと口に指を当てた。
「
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