魔族武闘会開催! 3-1

  闘技場の真ん中でイヴはマイクを持ってライトを浴びていた。


「さぁ、いよいよ魔族武闘会第一試合を開始します! みんな準備はいい?」


 会場内だけ気温が上がるほどの盛り上がりを見せる。


「選手の紹介です! 『魔法はお手の物、知識の量と魔法の質はミニデーモンの中でもトップクラス! アイドルの次に可愛いミニデーモン! ベネッタ!』」


「誰がアイドルの次に可愛いだ! 悪意ある自己紹介するなぁ!」


 ベネッタはツッコミを入れながら勢いよく入場した。


 ズカズカとイヴに近づき、


 顔をイヴに近づけて凄むが、


 イヴはスンとした表情をして次の紹介に入った。


「続いては『武器を扱わせたら一級品! 力と技を兼ね備えたウェポンマスター! 女のケツを追いかけるド変態! ダンテ!』」


「おい~、イヴちゃんそんなこと言うなよ~女のケツなんか追いかけてないのに」


 そういいながら入場したダンテはイヴの真横に行くと、


 チラッとイヴの尻を眺めた。


「そういうことするからでしょ!」


 ベネッタはボソッと呟きながら、


 ダンテのケツをつねった。


「いてて! なにすんだベネッタこら!」


 ダンテはベネッタを睨むが、


 何事もなかったようにむすっとした表情をして前を向いている。


「続いては注目選手!『紋章の所持者にして問題児! 実力は全くの未知数、果たして快進撃を見せるのか!? ヒロ!』」


「俺だけ酷い言われようだな……ある意味注目選手ってことかよ」


「まぁ、問題児は間違いじゃないしな」


「そうね、ヒロの周りだけ問題だらけだし」


 ダンテとベネッタはイヴの紹介に反論は無いようだった。


「おい、なんだよ! お前たちだけは味方でいろよ!」


 ヒロは2人と言い合いをしている中、


 相手の紹介は続く、


 そして、


「それでは最後の選手の紹介です! 『打倒ベルゼルを掲げるミニデーモン! 今回のダークホースです! アブロン!』」


 アブロンの名前が呼ばれると、


 会場は異様に盛り上がった。


「なんだ、アイツあんなに人気なのか?」


 ダンテはヒロに関節技を決めながら、


 アブロンの方を向いていた。


「さぁ、わかんないけどダンテ早くどけてくれよ」


「お、おぉ」


「どうでもいいけど、あんたたちこれが初戦なんだから少しは緊張ってのはないの?」


 ベネッタに注意され、


 ダンテとヒロはたじろぎながら、


 じゃれあうのを止めて、


 アブロンに体を向けた。


 6人はイブの前に並びお互いに向かい合う。


「イブは審判! ラブは実況に回ってもらいます!」


 イブはマイクを持って、


 自分たちの役割と試合の内容を淡々と説明した。


「なぁ、実況って何するんだろ?」


 疑問に思ってヒロはダンテに聞いた。


「さぁ、まさに電光石火っ! とか言うんじゃねぇか?」


「バカね、魔族武闘会は魔族の国全土に放映されるのよ、ここに来てない人にもわかりやすく説明するために実況がいるのよ」


 ベネッタは分からないヒロに丁寧に説明をした。


「放映って、ところどころ現代にそっくりだよな」


 ボソッと呟いたヒロの言葉をダンテは聞き逃さなかった。


「なんだ? 現代って」


「あ、いやなんでもないよ!」


 ヒロはアタフタしながらなんとかその場をごまかす。


「それでは両者! 離れて位置についてください!」


 イブに誘導され、


 アブロン達と距離をとる。


 ヒロはブルブルと体が震えていた。


 緊張で震えているのか、


 もしくは武者震いか、


 決して嫌な感じはしなかった。


「さぁ、実況は黒の純潔悪魔ことラブがさせていただきます! 両者距離をとって互いににらみ合っております!」


 ラブの前には長机が用意され、


 その上にはスタンドマイクが置かれており、


 ラブはマイクを手に取って実況を始めた。


 ラブの横には巨大な銅鑼、


 そしてデーモンがばちをもって試合開始の合図を待っている。


 やがて両者の距離を確認したイブは片手を上にあげた。


「魔族武闘会第一試合……開始!」


 イブが腕を下に振り下ろすと、


 ばちを持ったデーモンが銅鑼を勢いよく叩いた。


 ドーンと鈍く低い音が場内に響く。


 第一試合が開始した。


「お前たちには残念だが、俺に勝てるのはベルゼルただ一人だけだ、見るがいい俺のスキルを! うおぉ!」


 アブロンはスキルを発動すると、


 見る見るうちに筋肉が膨張し、


 筋肉が脈を打ち始める。


 身体は倍以上に膨れ上がり、


 いたるところから蒸気のようなものが立ち上る。


「どうだ、これが俺のスキル【増強】だ! パワー、スピード、テクニックどれをとっても俺の方が上だ。お前たちに勝ち目は少しも……」


 ドガァァン!


 突然場内に響いた轟音が鳴り響く。


「ばぁか、もう終わってんだよ。お前たちはよ」


 ダンテの剣は高く振り上げられている。


 勝負は一瞬、


 いや、


 すでに勝負はついていたのだ。


 アブロンの周りを取り巻くミニデーモンはダンテによって吹き飛び、


 アブロンの身体はヒロの槍の攻撃で大きく凹み、


 豪快に空を舞っていた。


 ヒロとダンテが試合開始と同時に一撃を決めていたのだ。


 観客は一瞬の出来事で頭が追いつかず、


 ゼゼルとグルーディアをはじめ、


 軍団長の誰もが言葉を失い、


 しばらくの間静寂が続いた。


 唯一人、


 目を疑うことなく、


 眼前と目の前に広がる光景を静かに見つめているのは、


 ロゼただ一人……


「な、なんと! まさに電光石火! 今回ダークホースのアブロン選手! 私たちが気が付いた時にはすでに宙を舞い、地面に叩きつけられました! 全員が失神しておりもはや行動不能です!」


 ラブはマイクを手に取り、


 興奮気味に実況を始めた。


「ヒ、ヒロチームの勝利です……?」


 イブは目の前で起こったことが理解できず、


 半ば不思議そうにヒロチームの勝利を宣言した。


「マジで電光石火って言ってるぜ」


「いや、この表現はまさに電光石火なんじゃないか?」


 ヒロは手に持っていた槍をおろし、


 ダンテは剣を肩にトントンと当てながら話していた。


「ちょっと、2人とも! 私何もしてないんだけど……」


 ベネッタはムスッと頬を膨らませ、


 少しご機嫌斜めになっている。


 どうやら戦闘に加われなかったことを怒っているようだ。


「いいじゃねぇか、戦力は隠すに越したことはねぇだろ」


「そ、手の内は隠すべきだよ、次の試合も始まるだろうから早くはけようよ」


 ヒロとダンテは不機嫌なベネッタをなだめながら、


 終始会話をしながら、


 控室に戻っていった。


 会場はどよめき、


 次の試合が始まるまで収まりそうにない。


「あの、アブロンを一撃?」


「ヒロってあんなに強かったの?」


「手も足も出てなかったぞ」


 ダークホースと言われていたアブロンが、


 ヒロに負けたことが誰も信じれなかったのだ。


「まさかの結末でした、ダークホースのアブロン選手が1回戦で敗退とは誰が予想できたでしょうか!? 今年の魔族武闘会は波乱の幕開けとなりそうです!」


 ラブは軽妙な口調で実況を続け、


 その間に次の試合が準備される。


 1回戦の余韻が残っているのか、


 続く2回戦以降はまるで無観客かと思われるほど静かに行われていった。


「ヒロ……なるほど、紋章の所持者ですか」


 グルーディアは髭をゆっくりと撫でおろしながら、


 試合を観戦していた。


「ヒロはスキルを使用しなかったようですな、あるいはまだ使用できないか……」


 ゼゼルは鋭い観察眼で、


 ヒロがスキルを使用できないことをすでに見抜く。


「だが、気がかりなのはダンテという男、彼の太刀筋は自己流に見えるが随所に垣間見える魔剣流……ロゼ様、もしや自らが教えた……ということではないですよね」


 ゼゼルはチラッと横目でロゼを伺う。


 ゼゼルの視線を感じたのか、


 ロゼは静かに微笑んだ。


「ゼゼル、強い者がいるのはいいことだな」


 その言葉を聞いたゼゼルは軽いため息をつく。


「はぁ、まったくロゼ様、そういうことは私どもに任せて頂かないと」


「仕方ないだろう、強さを求める者は拒むことはできん、ゼゼルならわかっておるだろう」


 ロゼは椅子の横に置かれた机の上にあるグラスを手に取り口に運んだ。


「なるほど、ではヒロ達はロゼ様の弟子……ということですな?」


 グルーディアは髭を執拗に触りながら、


 会話に入ってきた。


「違う、弟子ではない」


 ロゼはすぐに否定した。


「ほぅ、では何でしょうかな?」


だ」


 グラスを置き、


 肘をつきながら、


 笑顔で答えた―――


 ―――控え室では、


 3人が戦いの疲れを癒しながら、


 モニターに映る試合を観戦していた。


 木製のロッカーが白い壁際に配置され、


 長机や長椅子も完備されており、


 机の上には飲み物まで準備されている。


 休むには十分な設備だ。


 ダンテは長椅子に座って背中を掻きながらくつろいでいる。


「ったく、アブロンってやつもバカだよな。地力がついてないと増強スキルは強くならねぇのに、多分アイツ体鍛えてねぇぞ」


「そんな感じするわ、ぶっ叩いた時体柔らかかったし」


 ヒロは槍を雑巾で拭きながら手入れをしている。


「アンタたちはいいわよ目立つことができて、私は立ってただけなんだけど……」


 ベネッタは目立つことができなかったことを悔やんでいた。


「ベネッタの魔法はまだ隠しときたいんだけどな」


 ヒロはベネッタをなだめる。


「狙うはベルゼルだけだ、他の奴らに無駄な魔法を使うわけにはいかねぇよ」


「それはそうだけど……」


 ベネッタはダンテの言葉にどこか納得はいっていない様子だ。


『うおぉぉぉー!!』


 モニターから観客が盛り上がる音が流れる。


 第一試合の頃とは違い、


 観客はすでに大熱狂、


 皆が試合にくぎ付けになっている。


 原因はベルゼルだった。


 ベルゼルの試合はすでに始まっていたのだが、


 すでに決着が決していた。


 モニター越しからラブの実況が流れる。


『なんと、ベルゼル選手たった一人で相手選手を全員倒してしまいました! その時間わずか10秒! 第一試合の30秒を簡単に塗り替えてしました! さすが優勝候補の一角です!』


 モニターにはベルゼルが口を拭っている姿が映し出されている。


 映像は徐々に周囲を映し出し、


 ベルゼルの周りには相手が血を出しながら倒れている。


「ベルゼル……」


 モニターを眺めながら、


 ヒロは静かに闘志を燃やした。


「本気を出してないわね」


「そりゃそうだろ、相手が弱すぎだ」


 3人がモニターを見ていると、


 控え室にデーモンが扉を開けて入ってきた。


「それでは2回戦第一試合を始めるので、3人は準備をお願いします」


「よし、行くか」


 ダンテは剣を持って、


 控え室の扉に向かう。


「次は私にも見せ場を頂戴よ」


「ベネッタって意外に好戦的だよな」


「ちょっとそれどういう意味よ?」


 ベネッタはヒロに詰め寄る。


「わ、悪い意味じゃないって!」


 ヒロはアタフタしながら控え室を出ていく。


 ベネッタはムスッとしたまま、


 どこか納得いかない表情を浮かべながら、


 ズカズカと音を立て控え室を出る。


 その後も3人は実力を隠しながら、


 次第に勝ちを積み上げ、


 決勝戦に進むことができた。


 ベルゼルも力を隠したまま、


 順調に勝ちを重ねていき、


 試合が続いたことですっかり暗くなっているが、


 観客の歓声はいまだ冷めず、


 暗くなったことを感じさせない。


 照明のスポットライトが中央のリングに焦点を次々と当てていく。


 中央にはイヴが高らかに手を上げてマイクを持っていた。


「さぁ、みなさんお待たせしました! 魔族武闘会はいよいよクライマックス! 決勝戦が間もなく始まります!」


 観客は大歓声を上げ決勝戦の開始を心待ちにしている。


「決勝戦はなんとお互いが紋章の所持者の戦いとなりました!」


 ヒロ達の前には立ちふさがるのは、


 因縁のベルゼルだ。


 ついに決勝戦が始まる。






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