魔王の城に配属したその日 1-4

  ヒロとダンテは割れた皿を片付けていた。


「ベルゼルってやつ、嫌な奴だな」


 ヒロは皿の破片を片付けながら、ダンテに話しかけた。


「そうなんだよ、アイツ俺たちの前ではあんな態度でさ、上のやつには途端にイイ子ぶりやがるんだ」


「まったく、ベルゼルは最低な奴よね、腰巾着の2人も別に大したことないくせにベルゼルに逆らえないからってペコペコしちゃって」


 ベネッタは壁に余垂れかかりながら、


 ベルゼルの悪口を言った。


「なぁ、ベネッタよ。片づけは手伝ってくれねぇのか?」


 ダンテは片づけの手を止めてベネッタに手伝うよう促す。


「ホウキとチリトリ持ってきてあげたでしょ? 私に割れた破片触らせんの?」


 ダンテはため息をついて、片づけを再開する。


「ですよね……ったく、わがままは困るよ」


 ダンテはボソッと呟いたが、ベネッタに聞こえてしまう。


「なんか言った?」


「なんも、言ってませんよ~」


 2人のやり取りを聞いていたヒロは気になって聞いてみた。


「なぁ、2人って好き同士なの?」


 2人はビクッと反応し、顔を赤らめる。


 ダンテは凄く動揺したのか、破片が手に刺さってしまう。


「い、いてぇ! 急に何言うんだよヒロ!」


 ダンテは急いで刺さった破片を取り除く。


「そ、そうよ。ダンテのことなんてなんとも思ってないから!」


「俺もこんな女、なんとも思ってねぇし!」


「こんな女ですってぇ!?」


「あ、いやベネッタこれは違うって……」


 ダンテとベネッタの口喧嘩が始まる。


 2人の反応を見てヒロは悟った。


 そうか、この2人は好き同士なのか。


 こっちの世界では付き合ってるっていうのかな?


「2人はどうやって仲良くなったんだ?」


 ダンテとベネッタは口喧嘩を止めて、ヒロの方を振り向く。


「それはベネッタが絡まれてたから、俺が止めに入っただけだよ」


「絡まれてた? 誰に?」


「ベルゼルに決まってるでしょ! アイツあの後ダンテのこと寄ってたかってボコボコにして……」


 ベネッタはその時のことを怒りを滲ませながら話す。


「あぁ、それで負けたって言ってたのか……」


 ヒロの言葉に、食い気味でダンテが入ってくる。


「負けてねぇ! あの時はベネッタもいたし手は出すわけにはいかなかっただけだ!」


 へぇ、よく手を出さなかったな。


 俺なら手を出して反撃してるのに。


 ダンテは思った以上に漢だったのだ。


「ベルゼルって強いの?」


「そりゃ、紋章の所持者だし俺たちには無いスキルを持ってるからな」


「私たちミニデーモンの中では1番強いんじゃないかしら?」


 そうか、ベルゼルは強いのか……


 ダンテやベネッタが強いと認めるぐらいだ。


 だけど、俺だって紋章の所持者だ。


 きっと、どうにかして見返すことはできるはずだ。


 ヒロはどうにかしてベルゼルを見返す方法を頭の中で模索した。


 しかし、なかなかいい案が思いつかない。


「でも、アイツに何かこうギャフンとさせることはできないかな?」


「そしたら、【魔族武闘会】で優勝することじゃない?」


「あぁ、そうだなそれしかないだろ」


 2人は何かを知ってるような口調だった。


「何それ?」


「ミニデーモンだけが出れる大会よ。定期的に開催されて、勝利者には大量の魔力が景品でもらえるの」


「確か、次の開催は3ヵ月後だっけ?」


 3ヵ月後か、時間はある方なのかな?


 そうか! 1人で難しいなら、3人で戦えば……


 ヒロは2人に考えていることを話した。


「なぁ、それって団体戦とかはダメなのかな?」


「なに? もしかして俺たち3人でベルゼル達と戦うってのか?」


「それはいい案だけど大会は個人戦だしね、ロゼ様が言えば別だろうけど、ロゼ様は関与してないし、身内で勝手に開催してるって感じだから……」


 なるほど、ロゼ様が言えばか……


 何かを閃いたヒロは急いで割れた皿を片付けはじめる。


「お、おい急にどうしたヒロ。何を急いで皿を片付けてるんだ」


 ダンテはヒロの突然の行動に驚き、その場でオロオロし始める。


「もしかして……」


 ベネッタの言葉に、ヒロは2人を見て、不気味な笑みを浮かべた―――





 ―――「なに? 私に団体戦の許可をしてほしいだと?」


 ヒロたちはロゼの部屋に訪れていた。


「はい、何とか許可していただけませんか?」


 ヒロはロゼに頭を下げて、お願いをした。


「おい、ヒロ! 俺は1人でもアイツに勝てるから問題ねぇよ!」


 ダンテはヒロが頭を下げている後方でベルゼルに勝てると豪語する。


 ヒロはゆっくりと頭を上げて、後ろを振り返った。


「ダンテ、ベルゼルに勝ちたいと思ってるのは俺も同じだ。だったら3人でアイツを見返してやろうぜ」


「ヒロ……」


「でも、ロゼ様が認めてくれないと意味がないんじゃ……」


「いいぞ」


 ロゼは二つ返事で承諾した。


「えっ!? いいんですか!」


 ベッドの上でくつろぎながら、手に持っているグラスを机に置き、


 立ち上がって、ヒロ達に近づく。


「団体戦とは興味がある、ヒロの力も見てみたいしな。だが、開催は3ヵ月後だ。それまでに強くならなければ、お前が足手まといになるだけだぞ?」


「はい、わかってます」


「はぁ~、しょうがねぇな。わかった、やってやるよ!」


 ダンテは手を腰に当てながら、少し笑みを浮かべる。


「楽しそうじゃない! やるからにはベルゼルに一泡吹かせましょうよ!」


 ベネッタはすでにやる気に満ち溢れている。


「ロゼ様、許可していただきありがとうございます!」


 ヒロは笑顔で頭を下げる。


 ダンテとベネッタも頭を下げ、3人はロゼの部屋を出た。


 ロゼの部屋の扉を閉めたヒロはダンテたちの方を振り返る。


「ダンテ、俺を鍛えてくれ」


 突然の出来事にダンテは驚いた。


「はぁ!? いきなりだな。別にいいけどよ」


「俺は、まだ何もわからないから3ヵ月でできることは全部したいんだ! ベルゼルを倒したい……」


 ヒロは拳を強く握る。


 それを見ていたダンテはヒロの肩をポンっと叩き、


 爽やかな笑顔を見せた。


「わかった、じゃあせっかくだ、ついてきなよ」


「私もついていこっと♪」


 ダンテとベネッタはヒロの前を歩き、とある場所に連れてこられた。


「ここは?」


 ヒロは周りを見渡す。


 壁や天井は、他の部屋とあまり変わらない。


 違うのは、槍や剣などの戦闘に用いられる装備がたくさん壁に並べられているのと、


 一回りも二回りも他の部屋に比べて大きく、


 壁は分厚いのか、


 周りの音は遮断され、3人の歩いている足音が壁や天井に反響している。


「地下訓練所だよ、ここはいつもはデーモン兵が訓練で使用してんだけど、この時間なら大丈夫、みんな寝てる時間だし、大声出しても響かない」


 ヒロは思う存分訓練ができることに感動していた。


「こんな場所があるなんて、ダンテありがとう!」


 ヒロの屈託のない感謝の言葉に思わずダンテは照れてしまう。


「う、うるせ! ほらなんでもいいから武器を持てよ」


 ダンテは剣を握り、ヒロに向かって構えた。


 キョロキョロ探すがどれも合いそうにない。


「う~んと、じゃあこれで」


 ヒロが手にしたのは三つ又の槍だった。


 ミニデーモンが持つにはちょうどいい大きさの槍を見て、


 ダンテとベネッタは吹き出す。


「なんだよそれ、おいヒロ! 凄く似合ってるぞ」


「ほんと、戦いを学んできましたって感じで」


 ヒロは2人に笑われたことで、顔を赤く染める。


「い、いいだろ別に! どれがいいかなんてわかんないだから」


「そうだな、よし! いつでもいいぞ!」


「よし、いくぞぉ!」


 ダンテの言葉をきき、ヒロは槍を強く握り、勢いよく突進をした。


 それから次の日を迎える直前までヒロはダンテと訓練を積んだ。


 ダンテの戦闘能力は異常に高く、


 ヒロがどれだけ立ち向かっても一太刀も与えることはできなかった。


 ダンテは飄々ひょうひょうとしているが、


 身のこなしが軽く、


 ヒロの攻撃をのらりくらりと避けると、


 一撃だけをヒロに与えて、


 それ以上の攻撃はしない。


 まるで大人と子供の戦いだった。


 時にはダンテは武器を変えたり、


 戦い方をヒロに合わせてみたりしていたのだが、


 そのどれもがヒロにとっては強敵だった。


 ダンテはロゼの戦闘能力を引き継いでいるのかもしれない、


 そう思う程に強かったのだ。


 ヒロはベネッタとダンテのアドバイスを聞き入れながら、


 少しずつ、少しずつ成長していった。


「ヒロ! そこはもう少し踏み込むんだって! 何度いったらわかるんだよ」


「ごめん、ダンテ! くそぉ!」


「ヒロ、ダンテの攻撃をよく見て!」


「わかった、ありがとうベネッタ!」


 12時を回って2人の疲れもピークに達したころ、


 ヒロは今日一の動きを見せる。


 ダンテの言葉を思い出し、ヒロは後ろに重心を乗せて、


 ダンテの攻撃の出方を伺う。


「どした! 来ないならこっちから行くぞ!」


 ヒロの動きに違和感を感じたが、


 躊躇なく距離を詰めてくる。


 ダンテは戦闘能力は高いが、


 どちらかというと自分からガンガン手数でペースを掴んでいく、


 前線で力を発揮するタイプだった。


 ヒロはずっとダンテの動きを分析をしていたのだ。


 ダンテの剣が振り上げられる。


 いつもと違い、振りが遅い。


 次の攻撃を考えている。


 ヒロは攻撃をすると、寸でのところで避けられて、


 一撃を喰らうと考えた。


 2人の思考が交錯する。


 ヒロはダンテの攻撃に合わせるため、


 持っている槍で受けた。


「へっ、やっぱり来たか!」


 ダンテはヒロの槍をすり抜けるように、


 一歩踏み込み、ヒロの懐に入り込んだ。


 いつの間にかダンテは剣を逆手に持ち替えている。


「これで、終わり……だ?」


 ヒロの顔がダンテの近くにある。


「なっ!?」


 ダンテは下から上に剣を振り上げようとしたが、腕が上がらない。


 ダンテは視線を腕に向けた。


 腕にはヒロの足がこれ以上、腕を上げないように抑えている。


「お前! やりやがるな!」


 ヒロはニヤっとして、踏み込んでから槍を下から突き上げた。


 ダンテのみぞおちにヒロの一撃が入る。


「がはっ!」


 ダンテは息ができなくなり、


 思わず後ろにヨロヨロと下がった。


「ヒロ! 今よもう一度!」


「よし! うおぉぉぉ!」


 ヒロは槍を後ろに引き、勢いをつけてダンテに一撃を放った。


 やった!


「くっ!」


 しかし、ヒロの攻撃はダンテの顔の寸前で止まり、


 あと一歩で届かなかった。


 ダンテはヒロにやられたことをそのままやり返していたのだ。


 ヒロの攻撃が届かないよう、足でヒロの腕を封じ、


 ダンテの剣は正確にヒロのみぞおちを捉えていた。


 勢いをつけていた分、剣はヒロのみぞおちに深く入り込み、


 ミシッと骨がきしむ音がヒロの体に響き渡る。


「うぐぅっ」


 息ができなくなり、


 堪らず、ヒロはその場に倒れこみうずくまる。


「ヒロ! 大丈夫?」


 ベネッタが心配で駆け寄り、ヒロの背中をゆっくりとさする。


「危なかったぜ……ヒロ。でもあともう少しだったな」


 ダンテの額には汗が流れている。


 最後の攻防はダンテも必死だったのだろう。


「ごほっ! ごほっ! おい、ダンテ……お前強すぎだよ」


「ば~か、俺はまだ一度も負けたことがねぇんだよ。今日初めて戦ったお前に俺が負けるわけねぇだろ。でも、最後の攻撃はよかったぜ、気づいたら本気だったからな」


 ダンテの誉め言葉に、ヒロはダンテを見ながら笑みをこぼした。


「へっ、道のりは遠い……な」


 ヒロはそう言い残して気絶してその場に倒れこんだ。


「ちょ、ちょっとヒロ! ヒロ!?」


 ベネッタはヒロを起こそうとするがダンテがそれを止めた。


「ほっとけよ、大丈夫だよ疲れただけさ。何せ今日は一日中戦ってたんだからな」


 そういって、ダンテは後ろに倒れこみ、


 豪快ないびきをかきながら眠った。


「ねぇ、大丈夫2人とも! 女の子に部屋まで2人を運べっての!? ったく、もう!」


 ベネッタは気を失っている2人に大声で話しかけるも、


 声がただ部屋の中でこだまするだけだった。

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