第23話 少年少女の逃避行って言うとなんか良さげに聞こえるやつ
「というわけで、新たに僕たち〈
アジトの一つと思しき街外れの民家に連れて来られたスティングは、新入りとしてひとまずの挨拶をしておく。
「はじめまして、スティング・ラムチャプです。種族は
「なんなのこいつ!? なんなのこいつ!?」
「うるさいなーエモちゃんは」
「これわたしが悪い流れ!?」
エモちゃんと呼ばれた金髪にヘイゼル色の眼の小柄な少女が、軽く流そうとするヴィクターに食ってかかっている。どうやら彼女がサブリーダー格のようだった。
「なんであんたはこういう変なのしかスカウトできないわけ!? どうせまた面倒見るのわたしなんでしょ!? 負担考えてくれない!?」
「おいエモリーリ、その言い方だとまるで俺らまで変みたいじゃねぇか」
「だよね。それは心外かも」
「あんたたち自分らのこと
黒髪に緑の眼の少年、赤土色の髪に葡萄色の眼の少女が順に名乗ってくる。
「俺はジェドル・イグナクス、種族は
「わたしはパグパブ・ホイッピー、種族は
「なに言ってやがる、パブ!? 最初が肝心だ、舐められたら終わりなんだよ!」
「でも実際ジェイちゃんって現状、悪魔の化身化ができる以外は、普通の
「なんでそういうこと言うんだよ、普通に傷つくだろうが!?」
「ジェイちゃん……おすわり」
「そんで犬じゃねぇんだよ!」
「待て」
「聞いてんのか!? 聞いてねぇよな!?」
「こんな感じの扱いでいいから」
「全然良くねぇぞ!?」
「わかったよ、よろしくねパグパブ。そしてジェドル、お手」
「オイ!? 爆速で舐められてんな俺!?」
その間にヴィクターが事情を説明してくれたようで、先ほどの金髪少女が苦い顔をして近づいてくる。
「わたしはエモリーリ・ウルラプープラ、種族は
なぜ性癖を破壊しようとしてくるのだろうか、このちんちくりんの美少女は。
「え、えーと……よろしく、エモママ?」
「はぁあ!? 冗談に決まってるでしょ、なんで真に受けてんのよ、気持ち悪いわね!」
「えぇ……この人喋りづらいなぁ」
「あんたねぇ、ジェドルとかはともかくわたしを舐めてると、星が落ちたとき教えてやんないわよ!?」
「完全に朝起こしてあげないって言うときのお母さんじゃん……それに言わなかったら君らも全員巻き込まれて死ぬんだよ?」
「わかってるわよ! ちょっと言ってみてるだけだから! ほんとはちゃんと教えてあげるから、心配しないでぐっすり寝なさい!」
「優しっ……完全に朝起こしてあげるよって言うときのお母さんじゃん」
「はぁあ!? わたしがいつあんたのママになったわけ!?」
「君が言い出したことだと思うなぁ……」
ちょっと心配になってきたのか、ヴィクターが声をかけてくる。
「どう、スティング? 上手くやっていけそうかな?」
「全然余裕」
「こいつ意外と図太いわね!?」
「叔父さんの罪を背負って逃げてきたっていうのは、伊達じゃなさそうだね……」
「結構骨のある男かもしれねぇな……」
そのとき未来を受信したようで、エモリーリがピクリと反応して声を張った。
「やばっ、早速捕捉されてるみたい! 隕石来るわよ! 総員、即座に退避!」
荷物を掻き集め、一気に隠れ家から脱出する五人。逃げ去る背後に轟音と衝撃波が響き渡り、体勢を崩されるが、それだけで済んだ。
「予知すごいな……ありがとうエモリーリ」
「なんてことないわよ! いちいちお礼とか言わないで!」
「そうだよスティング、そんなことしたら見ての通り、エモちゃん照れちゃうから」
「あんたはまた余計なことを!」
「ヘッ、こいつはなかなかスリルがあるぜ」
「ジェイちゃん、そんなに足震えてたら走るの遅くなるでしょ」
「ふふふ震ふるえてねぇし!」
「インターバルの一分より、さらに早く行動開始できるから、おおむね安全だね。エモちゃん予知すごい」
「だから褒めないでってば!」
中途半端な安堵を得てしまったせいか、スティングの中で弱気の虫が騒ぎ出し、それを口の端に上げてしまう。
「……なんでみんな、そんなに楽しそうなんだ? 俺のせいで危うく死にかけたし、これからも何度となくそうなるんだぞ? 迷惑じゃ、ないのか……?」
互いに顔を見合わせた四人を代表し、ヴィクターが答えてくれる。
「仲間ってのはね、そもそもが一蓮托生なんだ。ちょっと呪詛やら爆弾がくっついてくる程度じゃ、そんなに大きな違いはないのさ。だから引け目に感じる必要はない。
それに本当のことを言うと、この隕石だって活用手段はあるわけでね。ほら、馬鹿と鋏は使いようってことわざがあるでしょ。あと石があればジャンケンの手が全部揃うわけでね」
「こういうとき最終的によくわかんない余計な喩えを出して説明がグダるのがまさにヴィクターって感じよね。でも言ってることはその通り。だから頼りにしなさいって話なのよ」
「そうそう。ほら、あれだぜ……罪のない……なんかの……石を投げるとかいう……なんだったっけ、なぁパグ?」
「そしてここぞとばかりになんか頭良さそうなことを言おうとして一向に思い出せないのがすごくジェイちゃんって感じだね。そういうわけだから、改めてよろしく、スティングくん」
呆気に取られていると、ヴィクターが優しく微笑みながら、先ほどと同じ問いをもう一度投げかけてくる。
「どう、スティング? 上手くやっていけそうかな?」
今度はさっきの何倍もの自信をもって、彼と同じ表情で答えることができた。
「全然余裕!」
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