第十三話:劇団が来た
「おーい、ソーサク、このチャックを引っ張ればいいんだな」
レタンが怪力にまかせてネオザウラのチャックを開き、俺の変身を解いてくれた。
ピノ達が戦利品としてコカトリスの羽をむしり取っている間、俺は今後の研究として尻尾からドラゴンの鱗をいただいた。
それらを街に持ち帰ったのだから、よくぞコカトリスを倒してくれた。と広場のあちらこちらから歓声が巻き起こり、俺たちは英雄としてもてはやされることになった。
「いやー、皆さんのおかげで助かりました。ありがとうございます。ささやかですが、お楽しみください」
街総出でお祭りが開かれ、広場には用意できる最大限の御馳走が並び、ぜひ食べてほしい。と街の人達の優しい視線が俺を追いつめた。
善意に押し殺されそうになりつつ、料理の手を伸ばすと、ほとんどに鳥肉が使われていた。まあ、俺には関係のないことだ。
非常にかっこ悪い戦闘をした俺からすれば、素直に胸を張れるはずもない。その動機もレタンのような誰かを守りたいではなく、着ぐるみ怪獣からブレスを吐きたい。という不純の塊みたいなものなのでなおさらだ。結局、適当に料理を食べ、程よく愛想笑いを振りまいて祭りをやり過ごし、逃げるように宿屋へ退散。
アロンが宿に戻り、部屋の鍵を受け取ると首を傾げた。
「あれ、部屋の鍵が変わってる?」
俺たち四人はパーティを組んでいると思われたらしく、胡散臭い笑みを浮かべた店員に案内される。
そこはアロンが宿泊していた部屋じゃなくて、豪華で大きなVIPルームに変わっていた。中央の大部屋の窓からは街の広場が一望でき、凝った装飾のテーブルにはフルーツが置かれていた。左右を見渡せば、ふかふかのベッドが備え付けられた五つの個室を発見。至れり尽くせりってやつだ。貴族とその従者が宿泊しそうな間取りを見てピンときた。
「もうしばらくこの街に滞在しろとでも言うのか」
ごめんなアロン、旅立ちはもう少しお預けのようだ。
「そんな……」
二重の意味で罪悪感が増したのは言うまでもない。
「みんなありがとう。そして無茶を言って申し訳なかった」
これから個室でくつろごうとしたときのレタンの言葉である。
確かに俺たちは無茶をした。
ピノ曰く、本来コカトリスは中堅クラスの冒険者でようやく勝てる相手らしく、普通なら俺たちのパーティだと倒せない相手だ。
ピノは一人だけ逃げ出せるポジションにいたし、レタンは殉職する勢いだった。んで、俺はコカトリスが漠然と危険なんだろうなぁ。くらいしか思ってなかった。戦ってもどうにかなるだろう、んなことよりもネオザウラのツイビームを発射したいと思ってた。
となると一つ疑問が残る。アロンだ。
アロンはコカトリスが危険だと分かっているし、魔法職なのに前線で戦う俺と同じ場所にいた。コカトリスから見つけにくい位置にいたとはいえ、危険度的には俺と大差ないだはずだ。
レタンやピノ達とあまり話さないし、俺が賛同したらあっさりと仲間に加わった。もっと反対してもいいだろう。何故反抗しなかったのか。
「アロンって実は超強いとか?」
考えても何もわかんねーや。
そんな彼女を探して辺りを見渡すと、ピノやレタンから隠れるように俺の後ろでちょこんと座っている。
ん、頭を差し出してきたぞ。撫でろってこと?頑張ったし、いっか。
「えへへ」
美少女から頼りにされるのは嬉しいが、一緒に戦った仲間を露骨に避けるのはいかがなものか。出来ればあの二人とも仲良くしてほしい。
俺がどけばアロンはレタン達とコミュニケーションを取ってくれるのかな。いや、みんなで街を散歩するのはどうだろうか。当面の間はこの街で暮らすことになりそうだし、丁度いいのかもしれない。小さなお節介を焼こうと立ち上がる。
「明日、みんなで街を歩きませんか?」
「いいね☆ ピノちゃん賛成。明日は劇団が来るし、みんなで観に行こうよ。ね」
「そうだな剣を新調したい。今度こそ折れないやつを」
ピノとレタンから賛同を得た。
これでアロンも友達ができるといいけど。
「えっ」
……アロンさん、能面みたいな顔で俺を見つめないで。ここまで人付き合いが嫌いだって思わないじゃん。
次の日。
俺たちが宿を出た瞬間、街の人たちに囲まれて世話を焼かれた。
アロンは街を出たいと言っていたが、この様子だと今日街を発つのは、案の定不可能だったわけだ。本人も理解したようで、俺の後ろにピタリと引っ付いている。
俺は開き直ってお昼を店主に奢ってもらい、レタンは三割引きで剣を売ってくれたなど、昨日に引き続き手厚い歓迎を受けた。
無言のアロンを引き連れ、四人で適当に時間を浪費していると、街の外から賑やかな音楽が聞こえてきた。なんだこれは、レタン分かる?
「劇団が到着した合図だ。……そうか、ソーサクは初めてだったな」
これが噂の。
「それじゃ、ピノちゃんテトランプを渡してくるから大人しく待っててね☆」
ピノはゴブリンたちに奪われそうになった、例のライトを持ってパタパタと走っていった。
しばらく時間が経ったがピノは戻ってこない。
俺たち三人はどうしたのかと気になって、ピノがいるであろう劇団を探して街を歩く。
人だかりの中に白くて大きなベレー帽を発見。
「レタン、アロン、あれピノじゃね?」
「おお、ソーサクよく見つけたな」
あっちも俺たちに気づいたようで、遠くから手招きしてる。
「呼んでるみたいです。どうします?」
アロンが小首をかしげる。
何かあったのだろうか、面倒ごとなら避けたいのだが。
「きっと問題発生だ。行こう」
「待ってレタン。はぁアロン、追いかけよっか」
「……自分に正直な人ですね、ちょっと羨ましいです」
俺たち二人は、人だかりへ駈け込んでいくレタンを追った。
あの女騎士はどうしても善人ムーブをしたいらしい。せめてモンスターの討伐に巻き込まれないことを神様に祈ろう。でも神様がエイジン様だから無駄か。
悲しいことに神様に見捨てられた俺とアロンがピノに献上されると、劇団の人たちが待っていた。
見知らぬおじさんに、ピノが掌を向ける。
「こちら、劇団の団長さんです」
「初めまして、私は団長のランドです。お恥ずかしながら、移動中に魔物の仮装が壊れてしまいまして。本日の公演ができず、困っていました」
「はい、と、言うわけで、ソーサク、出番だよ☆」
キャハッとピノのウインクを受けて考える。
今度は何に巻き込まれたんだ。と。
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