第十二話:ネオザウラの逆襲

「アロン、突撃する。けど、ただ突っ込むと力負けしそうなんだ。牽制でファイアボールを撃って」


 それっぽいモノマネをして、ドカドカと決して速いとは言えない速度でネオザウラはコカトリスに突っ込んだ。


「揺れる、これめっちゃ揺れる!ソーサクもっと静かにできないの?」


 アロンも気が乗ったのか丁寧な口調が砕けている。こっちが本性なんだろうな。……これはこれで幼馴染ぽくて有りだ。

 テレビのネオザウラになった喜びと、幼馴染系美少女と会話できた嬉しさに身を任せて体当たり。殴り合いに持ち込む。コカトリスはドラゴン系の魔物だが、腕が無く代わりに翼が生えている。そこで接近戦は苦手と踏んだ。俺も苦手なんだけどね。

 嘴でつつかれると痛そうなので……いや、ネオザウラの構造的につつかれるなら顔や胸か、なら痛くないし別にいいか。


「それだとアタシに被害出るんだけど」

「……君を守りながら戦うから、俺を助けてね」


 セリフだけ聞けばかっこいいが、アロンがやられたらコカトリスが倒せなくなって、俺も死ぬ。言い換えると、助けてくださいお願いします。


「え、う、うん」


 アロンの困惑しつつもどこか嬉しそうな返事を聞きながら、何とか左腕で喉元を鷲掴みにする。あー、腕が全然上がらねえ。肩パーツ大きくしすぎたか。チドンの時から学んでないな。

 敵は翼をはばたかせて抵抗するが、右腕でこれも掴んだ。後は胸部に仕込んだアロンが何とかしてくれるだろう。


「雷魔法プラサンダ!」


 アロンは炎魔法が効かないと判断したのか、雷魔法に切り替えて攻撃を開始。俺の胸部から青色の雷がほとばしる。……マジでネオザウラのツイビームにそっくりだ。


「ナイス、アロン。あの攻撃最高」

「え、あ……うん、ありがとう」


 二重螺旋状になった青いイナズマはコカトリスの首に直撃し、爆発を起こす。羽毛でおおわれていた首が禿げて傷ができる。威力も演出も申し分ない、最高の一撃だ。


『よし、効いているぞ』

『がんばれがんばれ、その調子』


 外野二人からも歓声が上がる。

 ネオザウラのツイビームは異世界でも強かった。

 だが、ニワトリ型の原生生物がそのまま倒されるはずもない。自由の利く左の翼でネオザウラを叩き、左右に身体を揺さぶって、態勢を崩された。


 痛い。


 ふわふわしたウレタンで出来ているくせに、倒れた衝撃も殴られた痛みも何一つとして吸収されないとか欠陥構造だろ。悶絶したいところだが、敵に跨られて身動きが取れないし……いや、これは元からか。

 コカトリスはここがチャンスだと、ネオザウラをついばんでくる。

 無駄に重くて暑いくせに、防御性能はゼロに等しい。鋭いくちばしでつつかれたら穴が開くに決まってる。俺の視界に光が差し込みつつある、このままだと俺もアロンも危ない。


『かの者を守れ!シルバ・ザ・ゴーン』


 レタンが魔法を唱えたらしく、ネオザウラを守るように白色の光の障壁が形成された。

 防御魔法のおかげかあんまり痛くない。むしろ倒れた時の方が痛かった。

 よし、今がチャンスだ。俺は胸部のアロンを守りつつ、もぞもぞ動いてやり過ごす。


「オラ! ネオザウラがおまえ如きに倒されてたまるか」


 重い足でなんとか蹴飛ばすと、確かな感触が返ってきた。


『今のでコカトリスが後退したよ☆ソーサクやるぅ』


 よし、距離ができた。反撃開始と行こうじゃないか、さてと。


「レターン起こしてー」


 我ながらダサいが、一人だと起き上がれないから仕方ない。


『いくぞ、せーの!』


 ネオザウラが関節を曲げずに立ち上がると、敵はすでに構えていた。

 コカトリスはクルルルと唸ると嘴を開き、紫色の息を吐きだした。

 ピノから念話が飛ぶ。


『マズいぞ、あれは毒の息だ。吸い込むなよ』


 石化光線ばかりに気を取られ、毒の息の対策なんかできてない。ネオザウラは俊敏な怪獣じゃないし。不味い逃げる間もなく毒に飲まれてしまった。


「アロンどうしよう」

「どうしようって、これじゃあ解毒は間に合わないし……そうだ、風よ吹き荒れろサバツガマ」


 毒が蔓延しつつ、さらに暑くなってきた着ぐるみの内側に風魔法が吹き荒れる。


『おい、大丈夫かよ! お前の首から紫色の煙出てんぞ!』


 それ空気穴!

 例の画面を見ると確かにネオザウラの首辺り、俺の目がある場所を中心に、着ぐるみのあちこちから紫色の煙が噴き出していた。……コカトリスに空けられた穴じゃん。

 アロンの風魔法は毒の息と熱気を着ぐるみの穴から押し戻して、コカトリスにクリーンヒット。


『なんかよく分かんないけどコカトリスが押されてる』

「なら今がチャンスだ。アロン、敵の足元を狙ってくれ。マウント取ればどうにかなる。……はず」

「わ、分かった。ああ、狙いにくいなあ。もう」


 ニワトリドラゴンが怯んでチャンス到来。再び俺は突進する。胸部に隠れたアロンが雷を発射。コカトリスの足に直撃、バランスが崩れたところを俺は見逃さずに、体当たりを仕掛けて押し倒し、マウントポジションを取った。


『いいぞソーサク、そのままだ』


 レタンは叫ぶと、ネオザウラの飾りとなった重いだけの尻尾を駆けあがり、背中の棘を足場にして肩まで跳躍。滑るようにネオザウラの腕を駆け下りて、コカトリスの首に到達。

 敵は着ぐるみ怪獣の派手な棘や厳つい顔に気を取られて、レタンに気づいていない。


「くらえコカトリス!」


 声に反応し、邪眼がようやく空色の鎧を捉えるも、剣はすでに振り下ろされていた。

 通常攻撃(一撃必殺)が炸裂し、ニワトリの頭部が斬られ……ずに爆発する。同時に暴れてた翼や尻尾から力が抜け、足が痙攣したのち、動かなくなった。


「コカトリスは倒した。ありがとう、みんなのおかげで街の平和は守られた」

「お疲れいっ☆ はい、予備の剣だよ」

『誰かーチャック空けて』

『すみませーん、こっから出してくださーい』


 こうして俺たち四人の、人に見せられない戦いは終った。

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