第十一話:激闘!ルレーフの森
対コカトリスの準備ができた。
まずこの作戦の軸になる着ぐるみの怪獣、ネオザウラ。こいつの素材は今までと同じウレタン製。アロンの収容スペースを確保し、全長は12メートルくらい。コカトリスの大きさに合わせた。
次にレタン。新調したロングソードと、どうせ折れるからとエンジン様に頼んで予備の剣を二本用意した。しかし、三本のロングソードを腰にぶら下げていると動きにくいので、二本の剣はピノが預かることになる。これだけやって彼女は三回しか剣を振るえない。
そんなピノは後方支援を担当。最低限の道具だけ持たせて、俺の視界となるべく奔走するのが仕事だ。本職は商人だが、この作戦のキーになる人物だ。ほんと、お願いします。あなたが頼りです。
さて、ピノの上司ことエイジン様は念のため街で避難や誘導、物資の供給を行うらしい。ゴブリンの時もそうだがこの神様が一番の安全地帯にいらっしゃる。あなた面倒くさいことを俺に押し付けるために転生させたのでは、と邪推してしまう。
最後、アロン。いつも通り適当に魔法で攻撃してもらう。以上、特に無し。
作戦を確認し終えると、街中に魔物襲来を知らせる警報が鳴り響いた。
「コカトリスだ。コカトリスがルレーフの森に現れたぞ!申し訳ないが後はお願いします」
逃げる人から望みを託され、俺たち五人はコカトリスを倒すべく、ルレーフの森へ向かった。
着ぐるみの怪獣で本物の怪物を倒せるのか。街の人が俺達に命を預けるのはつくづく間違っていると思うのだが。しかし、前世のかすれゆく意識の中、リアルモンスターを一発ぶん殴ってやると誓ったんだ。頑張るしかないか。
天気は雲一つない快晴、遠足に出かけるにはこの上なく適している。鼻歌を歌いながら歩きたくなるくらい清々しい陽気だ。行先にコカトリスなぞ化け物がいなければの話だが。
太陽という名の観客から熱い視線を全身に浴びて森の中を進む。馬車の往来で踏み固められた、それなりに歩きやすい道を通っていくと、少し開けた場所でた。ちょうどその時、バサバサと羽音が聞こえてくる。
「キシャーーー」
コカトリス、襲来。この場所が戦地になるだろう。
体長は12メートルくらい、身体はニワトリで翼と尻尾がドラゴンの魔物。そいつが目の前に現れた。普段ゲームに現れるスマホの6インチとか、テレビの32インチの画面よりも非常に強そうである。
レタンはコカトリスの不意を突くべく、ピノは後方支援なのでここで別行動になる。
「ソーサク、頼んだ」
「一番大変だと思うけど頑張ってね☆ ピノ、応援してるから。じゃ」
別行動になり、アロンと二人っきりになったところで愚痴をこぼした。
「みんな何でそんなに元気なんですかねぇ」
「わたしは憂鬱です。ソーサクさん、早く倒してこんな街とっとと出ましょう」
アロンはどうしたらこのメンバーで倒せる発想に至たるのか。君がメイン火力だよ。ともあれ俺のやることは一つだ。
「変身、スーパーバイオ怪獣ネオザウラ」
例のカプセルをポチッとな。光に包まれ怪獣の着ぐるみを身にまとう。今回はアロンが乗るために地面に伏せた状態だ。
「アロン、乗った」
「はい、乗りました。へー、中ってこうなってるんだ。本当に何にも見えないし、すごく暑いですね。今、風魔法で涼しくします」
え、そんなことできるの?
閉め切った着ぐるみの中に風が吹いた。涼しい、エアコンじゃん。今後もやって頂けませんか?
「バカ言ってないでさっさと立ち上がってください。これじゃあ魔法も当たりません」
「了解」
もっともな罵声を浴びて、立ち上がろうと俺はもぞもぞ手足を動かすが、ネオザウラは微動だにしない。
「ソーサクさん、どうしたんですか?コカトリスこっち来てますよ」
「……た、立てないんだけど」
「なんでぇええ!」
怪獣の足を大きく造りすぎてしまい、俺の足の裏が地面に付かない。重い着ぐるみで爪先立ちなど出来るはずもなく、膝を曲げようにもウレタンで包まれたボディが元に戻ろうと反発してくる。
「これがコカトリスの呪いの力……」
「完全に自滅じゃん! このままだとわたしたち踏みつぶされちゃうんですけど」
初っ端から詰んだこの状況に救世主が現れた。
『みなさーん、大丈夫ですか?ピノでーす。今念話で会話できるようにしました。聞こえてますか?』
ピノさーん。
『はいはい、どうしました?』
……立てないんだけど。
『なんでぇええ!』
『……こちらレタン、とりあえずそっちへ向かう』
念話越しにピノの絶叫とレタンのため息が伝わってくる。
レタンの怪力なら起こしてもらえるか。
希望を託し、コカトリスに踏みつぶされませんよに、レタンが呆れて俺を見捨てませんようにと祈りを捧げつつ待つとしよう。
して、誰にしよう。全ての元凶エイジン様に祈るのも癪に障るな。などと考えていた俺を、現実に戻したのは凛々しい女性の声だった。
「おーいソーサク、聞こえるか?レタンだ、助けに来たぞ」
「レターン、起こしてー」
「分かった。下から押してみる。……ハッ」
「え、すご」
その直後、身体が一気に持ち上がり立つことができた。十メートルの着ぐるみと十メートルの人を軽々と持ち上げるなんて……レタン、実はバケモンだろ。
驚くのは俺達だけではない。もう一体、森からいきなり出てきた巨大怪獣に、仰天しているやつがいた。そう、コカトリスである。
しかし俺達を敵と見定めたのか、ドラゴンの翼を広げ、甲高い鳴き声で威嚇してくる。さらに目を紫に光らせた。
『石化光線だぞ!目に当たると石になるから避けろよな☆』
ピノから念話が飛ぶ。
もちろん着ぐるみのネオザウラが石化光線を避けられるはずもなく、作り物の目に直撃した。
しかしネオザウラは何ともない。レタンの読みが当たり、コカトリスの必殺技で着ぐるみ怪獣は倒せない。
『おお、石化光線無効だぞ。へっ、コカトリスのやつ、ビビってやーんの』
ピノはどこか楽しそうに念話ではしゃぐ。一人だけ安全地帯にいるからって、調子ぶっこいてんじゃねーぞ。
『ソーサク、念話で思ってることは駄々洩れだからな。あとで覚悟しておけよ☆』
後で、か。コイツを倒した後のことを考えられるなんて、随分とお気楽じゃないか。
「ソーサクさん、どうします?」
「このまま突撃しても勝てる気がしない。適当に魔法撃っておいて」
「分かりました。もう、人使い荒いんだから。うーん、まず手始めにファイアボール」
ネオザウラの胸部がオレンジ色に光を放ち、ボンボンボンとテンポよく火球を放った。
2メートルほどの火球が三連続でコカトリスの頭部に直撃し、黒煙が上がる。
アロンの身長よりも大きい炎だ、これでダメージを稼げればいいが。
黒煙が晴れてピノから念話が入る。
『ソーサク、アロン。コカトリス効いてないよ』
どうやらコカトリスに炎攻撃は通用しないらしい。
こんなときテレビの怪獣たちはどうしたっけ。
「ソーサクさん、引っかくふりとかできませんか?予想外のタイミングで魔法が決まればいいダメージになると思うんです」
「その作戦乗った」
そうだ、テレビの怪獣たちも遠距離攻撃が効かないと突進攻撃に切り替かえる。
「アロン突撃する。けど、ただ突っ込むと力負けしそうなんだ。牽制でファイアボールを撃ってくんない」
「ああもう、人を何だと思ってるのさ」
「喋ると舌嚙むぞ、文句は後で聞く。行くぞ、ネオザウラ!ジュババババ」
それっぽいモノマネをして俺はコカトリスに突っ込んだ。
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