第十話:コカトリスを倒せ!

 街に戻ってさらに理解できないことがあった。

 それはゴブリンを倒して帰還し、報酬金をもらって、これから宿でゆっくりしようなどと考えていたときに、街の人たちに囲まれて告げられた。


「コカトリスがこっちに向かっているみたいなんだ!」

「冒険者たちはとっくに出払っちまって、戦えるのがアンタたちしかいないんだ」

「ルレーフの森、すぐそこまで迫ってきてやがる。助けてくれ」


 どうやら俺たちが倒したゴブリンたちは、このコカトリスに怯えてこの街の近くまで逃げてきたらしい。

 つまりコカトリスを倒さないと、今後もゴブリン達みたいに逃げてきた魔物が街に侵入してしまう可能性もあるし、最悪なのはコカトリスが街を襲うことだ。ゲームよろしく異世界でもコカトリスはゴブリンなんかよりも強いから。

 懇願するように集まってきた人々には悪いが、アロンの言葉を借りよう。

 え、無理ですけど。

 せっかくアロンから言葉を拝借した手前、それを無用にする輩がいた。そう。


「私たちに任せてくれ!コカトリスを倒し、街に平和をもたらしてみせよう」


 女騎士レタンである。

 俺たちはゴブリンで苦戦していたんだ。どう考えてもコカトリスに勝てるはずないじゃないか。


「おお、さすがはレタン様。名門ヴィニル家の剣士様だ」

「こ、これでもう安心だ」


 なに安請け合いしてんのさ。声震えるくらいなら断ってくれないかな。


「冒険者の皆さんは大変そうだね。じゃ、商人のピノちゃんは次の街へ出発するんで、この辺で」

「みんな、どうしたんだい?」


 騒ぎを聞きつけたのかエイジン様登場。薄情な弟子に何か言ってやってください。


「あ、ピノ君。もうしばらくこの街にいることになったから、ソーサク君たちのコカトリス討伐を手伝ってほしいな」

「またまた~、嘘は良くないですよ。え、嘘じゃない?嘘だ、嘘だと言ってよ上司!」

「旅は道連れ世は情けと言うじゃないか」

「嘘でしょ……」


 クビを宣告された会社員のように、ピノは膝から崩れ落ちた。

 さすがエイジン様。昼間のメンバーでまともに戦えそうなのは、アロンとピノくらいしかいないんだ。今ピノに抜けられたら非常に困る。


「四人いるが……これでどうやったら勝てるんだろうか」


 へっぽこメンバーでコカトリスと戦うことになってしまいそうだ。この後どうするか、一発レタンを殴っても許されるのではないか。

 そんなことを考えていると、アロンが俺の袖を強く引っ張った。


「だからさっさとこの街を出ようって言ったのに」

「ホント、ごめんなさい」


 一発殴られたらアロンは許してくれるだろうか。

 民衆に称えられレタンが帰って来た。凛々しく堂々とした姿から一変、申し訳なさそうに腰を折る。


「申し訳ない。その、もう一度だけ協力して頂けないでしょうか」

「まず、なんで見栄張ったのか教えてくれます?」

「……以前も話した通り、私の家、ヴィニル家は剣で人々を助けてきた。父上は単独でドラゴンを倒し、兄上は急襲騎士団の団長に上り詰めた。ヴァニル家は伝説の大魔術師、ファレーノ兄妹と並ぶほどに有名なった。しかし、私は剣を扱うことができない落ちこぼれ。このままでは家の面子が立たないし、困っている人を見て何もできない自分が嫌いなんだ……」

「だからコカトリスを倒して、家の人から認められようと」

「違う!」


 レタンはきっぱり否定する。


「ただ私は……困っている人を助けたい」


 本当に、それだけなんだ……。レタンは何かを堪えるようにうつむいた。

 何とも言えない空気が漂う。俺も協力できるなら手伝いたいところだが、いかんせん足手まといもいいところ。

 意外にもレタンに賛同したのは商人のピノだった。


「全く……仕方ない。いいよ、協力する。似たような理由で商人になったからな」


 逃げようと画策していたところ、エイジン様に退路を塞がれ、哀れにも道連れとなった彼女。

 さっきまで顔面蒼白でブツブツと呟いていたが、戦う決心をしたらしい。声色もいつものふざけた感じではなく、一オクターブほど低い凛々しいものだった。


「でもでも~ピノちゃん商人だしぃ、戦力にはならないよ。頑張ってケガの手当てかな」


 訂正、後方支援だった。声色も元に戻っているし、安全地帯から眺めるつもりだな、羨ましい限りである。

 ピノが戦闘に参加すると表明した結果、残るは俺とアロンのみ。レタンはすでに俺をロックオンしたらしく、すがるような視線が突き刺さっている。


「レタンさ、勝算あると思ってるの?」

「コカトリスの最大の武器は邪眼。目を合わせたものを石にしてしまう強力な能力だ。だが、コウモリみたいな元から目が見えない生物や魔物には効かない。ソーサクの……かいじゅうだったか。昼間、ゴブリンに目を攻撃されたにも関わらず、痛がるそぶりはおろか、瞬きや血さえも見せなかった」


 なるほど。チドンは着ぐるみの怪獣で、目は作り物だからコカトリスの邪眼が効かないと。


「ああ。着ぐるみの怪獣を囮にして、コカトリスが気を取られている隙をついて倒す。アロンの魔法があれば、怪物が炎ブレスを吐いたと騙せるはず、身体の大きさも含めて注意を引けるだろう。後は私が目をつぶせば他に警戒すべき武器はない。トドメはアロンの火属性魔法で一掃してやれ」

「その作戦、乗った」


 火炎放射を放てるんですか!?やるしかないじゃないですか。どうしてそれを先に言わないかな。

 普段苦しめられていた、あの視界の悪さがここで役に立つとは。


「ソーサクさん!どうして?」

「ごめん、けど俺の能力が誰かの役に立って、勝算もあるなら戦った方がいいかなって」


 嘘です。火を噴く大怪獣になりたいだけです。いや、アロンごめん。裏切られた、みたいな顔しないで。


「……これで最後ですからね」


 頬を膨らませつつも、アロンもコカトリス討伐に合意してくれた。俺の予感が当たり、へっぽこメンバー再集合。次にやることは対コカトリス専用の怪獣(着ぐるみ)を作ることだ。

 万が一、空気穴からコカトリスと視線が合わないように、頭の位置が高い怪獣にするか。いや、ピノの感覚共有魔法で何とかしてもらおう。

 後方支援のピノが石になった時点で俺の視界も死んで道連れ確定。囮の意味も無いから作戦は失敗か。まあ、後方支援が死んだら全滅しているようなものだろう。そうならないよう俺が頑張らないと。

 後は……アロンを隠す場所を考えよう。口はコカトリスに注目されそうだから、怪獣の胸辺りに特殊な模様を作って隠れてもらうとして。

 まとめると、魔法を放つ胸部に特徴的な模様が欲しい。囮の役目を果たすような派手な色がいいな、例えばオレンジ色とか。それから強く見せたいから棘が無数に生えていたほうがいいだろう。確かそんな怪獣がいたはずだ。


「あー、スーパーバイオ怪獣ネオザウラにしよう」


 次作る怪獣が決まった。コカトリスの攻撃を防ぎつつ、動きやすい素材はなんだろう。それにアロンを隠せる大きさはどれくらいなんですかね。

 ま、エイジン様に相談すればいいか。

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