第九話:過去を調べて
目的のゴブリンは何とか討伐できた。
スライムはチドンに恐れおののいたのか逃げてしまい、姿は見当たらない。さらにあれだけの爆発音を轟かせたのだから、この辺に魔物はおろか鳥一羽すら見当たらない。
今森の中にいるのは俺たち四人だけだ。依頼達成、安全確保ができたところで、何をしているのかというと。
「なるほど魔物の仮装か。てっきり本物の、それも新種の魔物だと思ったぞ」
レタンとピノに着ぐるみ怪獣について、分かっている部分だけ説明していた。俺も教えてほしいんだけどね。
「にしてもすごいクオリティだね☆材料費もかかんないみたいだし、売ったらいい感じに商売出来そう。何とか消えないようにならない?」
レタンもピノもそれぞれの視点から褒めてくれた。
ただまあ、残しておくのは無理だと思う。
「あの炎はどうやって発射したんだ?」
レタンが言う炎は、ゴブリンを焼いたあれのことか。
「タネを明かすとアロンの魔法じゃないかな。本当なら杖の先端から放たれるんだけど、今回は杖が着ぐるみに突き刺さって、その先端がたまたま怪獣の口の部分から突き出してて、炎魔法が放たれた。と思う」
自分で言っていてアレだが……これは使えるのでは?
もし着ぐるみ怪獣が50メートルくらい巨大化できたら、口の中にアロンを待機させて、口が開いたときに炎魔法を発射する。そうすれば立派な火炎放射だ。
俺は攻撃するために近づかなくていいし、相手からすれば火を吐く大怪獣に見える。
これはすごいぞ! 怪獣に近づくだけじゃなくて、前みたく炎を吐くのに失敗して、無念のラリアット攻撃の醜態晒しコンボとはおさらばだ。
「ところで……レタンが”今回も”剣が折れたって言ってたけど、いつも剣を折っているの?」
「いつもとか言うなぁ」
俺の質問にレタンは赤面していた。
さっきまで凛々しかったのに、すごい変わりようだ。
「なんでさ」
「……小さいころから剣を振るうべく鍛えていたんだ。その結果」
レタンは近くにあった木を思いっきり殴った。
バキ、メキメキメキと音を立てて木が根元から折れる。え、なにこれギャグ漫画?
「私は怪力を得たが鍛えすぎて耐えられる剣が無い。材質、値段、加工法。すべて関係なし。剣を振るうとさっきみたいに簡単に折れてしまう。どうにかしてくれ!」
懇願するように泣き始めたんだけど。
「通常攻撃が一撃必殺技?!」
「もう拳で殴った方が強いんじゃないかなって、ピノは思うな」
「バカなことを言うな。私の家は代々剣で人を助けてきた。私もご先祖様や父、母、兄上たちのように剣で人を助けたいんだ」
コンプレックスのようだ。これ以上詮索するのは辞めよう。可哀そうになってきた。それに妙な拘りがあるというか、着ぐるみ怪獣に命を懸けた俺とシンパシーを感じるな。
話題は残った一人へ。
ところで商人の足元にゴブリンの死体が二つほど転がっているんですが。さっきの感覚共有魔法といい、なんなのこの子。
「これ?……えっと、よくぞ聞いてくれました。商人でも戦えないとこの先やっていけないなって思って、短剣と魔法を扱えるようにしたのさ☆ それがこの成果ってわーけ。納得してくれた?」
キャハッ☆って可愛いアピールしてるけど、返り血に染まっている時点で可愛くないからね。怖いから、普通に。
戦闘に特化しているはずの剣士と魔法使いがゴブリン一匹ずつで、戦闘と縁が無いはずの商人が二匹倒しているのもどうなんだろう。俺?聞くなよ。悲しくなるから。
「アロンみたいに攻撃魔法を会得しなかった理由は?」
「オイオイ、それが出来ればさっき撃ってるつーの。得意だったのが感覚共有魔法だけだったって話」
アロンは火を起こすくらいは誰でも出来るって言ってたけどな。
それにピノは魔法を使っても声がかすれないらしい。
「しかし、その年でよく商売だけでも大変なのに、短剣まで扱えるようになれたな」
「あれあれレタンさん、もしかして私より年上だと思ってる?」
「私は18だが……違うのか?」
「ピノちゃん、こう見えて23歳でーす☆って、なに女性の年齢聞いてるんだよ」
「なんだと年上か」
日本なら四年生の大学を出て新社会人ってところの年齢か……。それでキャハッ、か。
「うわ、きっつ」
「止めろソーサク、傷つくから。人を見かけで判断したらダメだぞ☆お姉さんとのお約束だからな」
「お姉……さん。ねえ」
「なんだあガキンチョ。喧嘩売ってんのか、買ってやんよ。オラ、デュクシ!デュクシ 商人だけど。なんつって」
ピノはぺシペシと俺のお腹を叩いてくる。痛くはないが鬱陶しいな。
丁度いい位置に頭があるからデコピンでもしてみよう、ほれ。
「へう……いったあ。殴った、女の子を殴ったよこの人ぉって、おい、なんでみんな引いてるの?助けろ、助けて、助けてください」
おでこをさすりながら一人うずくまって喚いている。なんかピノの扱い分かった気がする。コイツ、いじると面白いタイプの女だ。
ひとしきり騒いで満足したのか、ピノは立ち上がると俺の疑問に答えてくれた。
「商人とはいってもエイさんの弟子だ。難しい商談とかはぜーんぶエイさんがやってくれる。待ってる時間を無駄にするわけにもいかないし、短剣を練習する時間もあったのサ☆まま、もっと扱えるようになりたかったけどね。こんなん、ナンボあっても嬉しいですし」
短剣とはいえ剣士よりも剣技が上手い商人って一体何なんだろうか。オマケに魔法も使えるし。
改めて振り返ってみるが、自分も含めて何故このメンバーでゴブリンを倒せると思ったのか、そして実際倒せたのか、全くもって理解不能である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます