第十四話:カミシモ参上
ピノの無茶ぶりを一言で表すと、劇で使う魔物の着ぐるみが壊れてしまったから、俺の能力で何とかして助けてほしい。とのことだった。
なるほど、俺の能力なら怪獣の着ぐるみを一発で創れる。まさに適役だ。確かに面倒ごとだが。
「分かりました。怪獣の着ぐるみを作ることは俺の特技です。お任せください。」
俺は乗り気だった。ここで実力を発揮すれば劇団に入団できるかもしれないし、なんてったって着ぐるみ怪獣の正しい使い方をするんだもの。やる気も出てきますわ。
「おお、ありがとう」
凛々しく答えて団長さんと握手する。ちょっとだけレタンの気持ちが分かった気がした。
「なんなら怪獣役で劇場に出してもらえませんか? 故郷で同じような経験をしました。お役に立てるかもしれません」
今回は戦闘じゃなくて劇、炎魔法で怪獣にブレスを吐くようなことはしない。倒れると大変なのは相変わらずだが、日本のヒーローショーで同じようなことをやっていたし、一人でもなんとかなるだろう。
これならレタンやピノに迷惑をかける必要もなく、自己完結できると意気込んでいたら、意外な人物も名乗りを上げた。
「わたしも協力します。炎とか爆発とかの演出なら任せてください。魔法で何とかできます」
「君は……」
「アロンです。職業は魔法使い。よろしくお願いします」
「アロン? ほう、これも何かの縁だ。彼とは同じパーティで戦っていたようだね。うん、相性も良いだろう。こちらこそ、よろしくお願いするよ」
アロンの気迫に押されたのか、ランドさんから許可を得た。確かに俺一人で何とかなるが、アロンを爆発担当に持っていけば、念願の特撮怪獣演劇も夢じゃない。いいぞ、この流れ。
「とその前に君のモンスターの仮装を見せて欲しい。今回のモンスターはワイバーンを予定していたから、翼の生えた凶暴そうなのがいいな」
お客さんに見せる必要があるから先にクオリティを確認したいのだろう。任せておけ。
翼が生えていて凶暴そうな怪獣か……。
「分かりました。それならこんなのはどうですか?」
例のカプセルを使って宇宙怪獣に変身する。
自動車の初心者マークのような頭に鋭い目。翼にはカギ爪が生えていて、ワイバーンにも負けないくらいかっこいい。人を食べるほど凶暴で、必殺技は口から放つなんでも切断してしまう音波カッター。
その名も音波怪獣ガオスだ。どうでもいいが名前の由来はガオーって鳴くからである。
本来は八十メートルほどだが、演劇仕様に合わせて体長は五メートル。俺が中腰になったとき、団長さんと同じくらいの背丈になるように合わせた。
俺がガオスの着ぐるみを装備すると、団長のランドは予想どおり喜悦の声を上げた。
「すごい、これはすごい!劇団を長くやっているが、これほどまでリアルなモンスターは初めてだ」
おほめ頂き光栄です。あとガオスは怪獣です。
「このモンスター、頭は動かせるのかな、口は開くのか?」
開きません。俺が動かせるのは翼と足くらいです。あと怪獣です。
「何を言っているのか分からないけど、無理だということは理解した。それならこちらにも考えがある。おーい、カミシモ」
音もなく女性が団長の横にひざまずいていた。彼女がおそらくカミシモだろう。
「……お呼び、ですか。え、知らない人」
劇らしくかっこよく登場したけど、君もコミュ障なの?
不安になりつつも気になるので、狭い覗き穴から必死にカミシモの様子を探る。
服装は和服……いやシノビ装束だっけ。草鞋に帯、腰には小刀を装備。劇団の衣装なのかは知らないけど、肌の露出度がすごい。それにデカい、何がとは言わないが。クソ視界の悪さが悔やまれるぜ。
「カミシモ、彼は今回のピンチヒッターだ。モンスターの仮装をしてもらったんだが、口と頭が動かせないらしい。だから君の忍術で動かせると嬉しんだが」
「しばしお待ちを」
頭部をチェックするためにカミシモが接近。ここでようやく素顔が分かる。と思ったんだけど、赤い仮面で隠れてご尊顔は拝めない。あの仮面、アロンの赤い服と似たような色をしているな。
俺が人間観察をしているうちに、カミシモはガオスの頭部を触って、口をいじると。
「……できます」
とだけ言った。
団長さんはその一言で理解したらしく。
「ありがとう、カミシモ。ソーサク君、彼女はこんな人物だけど腕は確かだ。カミシモ君、コイツを飛ばすことは可能かな?」
「御意」
「糸を使った忍術が得意なんだ。それでガオスを引っ張ろうって訳さ。大丈夫かな?」
「もちろんです! むしろお願いします」
ガオスが飛ぶ、口が開く、頭が動く! 操演だ、操演技師が現れた。やった特撮だ。操演怪獣だ。すごいぞ異世界のヒーローショー。アロンのエフェクトと組み合わせれば、ショーをやりながら特撮も出来る。
エイジン様ありがとう、本当にありがとう。貴方を信じて良かった。宗教があったら今すぐ信仰したい。聖典は怪獣図鑑でしょ?
心の中で狂喜乱舞していると、団長さんが声を張り上げた。
「みんな集まってくれ! 今回の演目『ファレーノ兄妹のドラゴン退治』の変更点を伝える」
ぞろぞろと劇団員たちが集まってくる。かなりの人数がいるんだな。
「えっ」
アロンよ、人数の多さに怖気づいたな。劇が始まったらこんなものじゃないぞ。
「まず問題となっていたワイバーンの件だが、ここにいるソーサク君の仮装でいくことにした。それとアロンさんという魔法使いが、演出で協力してくれることになった。彼女にはワイバーンの攻撃を担当してもらう予定だ」
あちこちから、よろしくと歓迎してくれた。
お辞儀の一つでもしたいが、着ぐるみだと頭を下げれないので、アロンをコツいてチャックを降ろしてもらう。
「あ、チャック降ろしますね」
変身解除、おおっと歓声が上がる。非常に気持ちがいい。
劇団スタッフと挨拶を交わして、早速、劇の打ち合わせに入った。
「これがモンスターのセリフになるんだけど……」
「ガオスは人語を話しません。ここは絶対に譲れない。あと怪獣です」
「……そ、そうか。まあ、初めてだし、こっちでフォローしたほうがいいか。うん、舞台裏で魔王役が喋るとして……」
一部俺の拘りがあったものの、打ち合わせはスムーズに進んでいった。
俺の仕事はガオスになって暴れること。なんと火炎放射のおまけつき。原理はアロンの杖を舌に仕込み、威力を調整したら、戦え火を吐く大怪獣の出来上がり。音波カッターは怪我人が出るから無理だったよ。
なおガオスを動かすには俺、カミシモ、アロンの三人が息を合わせる必要が出てきてしまい、結局。
「ピノさ、念話よろしく」
「あ、はい。分かりました。団長さん、わたしがガオスの仲介役やるんで、報酬上乗せしてくださいね☆」
「ああ、お金は弾もう。この公演は絶対に成功するぞ」
ピノ、参戦。
「待ってくれ。私だけ仲間外れなんてあんまりだ」
ここまで来るとレタンも何かやりたいと言い出し、ガオスの飛行中の操演を担当することになった。力に任せて糸を引っ張るお仕事である。
最終的にスーツアクター、俺。指示だし及びガオスの鳴き声担当、ピノ。操演技師、レタンとカミシモ。エフェクト担当、アロン。計五名。ただの演劇にも関わらず、コカトリス討伐戦よりも豪華なチームが結成された。
コカトリスを倒したパーティが劇をやる。という噂は街中に広まって、チケットは飛ぶように売れた。前評判が良かったのか、街で一番大きな広場を借りることも決定。演劇が一大イベントなだけあり、街全体の協力を得て、簡易的ながら舞台を作ることになった。野外ステージのくせに屋根付きだ。ま、操演的に屋根無いとガオス吊るせないからね。
「これほどの規模の劇は王都以来だ。みんな、はりきってやるぞ」
「おー」
劇団の士気は高い。レタンやピノも初めての劇とあって、緊張はしているが、やる気に満ち溢れている。
え、俺? 人生の絶頂期を迎えたと勝手に思っている。反比例してアロンのテンションが低かったが、まあいつものことだろう。
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