第二十二話:あ、俺とアロンが戦犯になった

 俺たち……主にピノとカミシモの活躍でゴーレムは倒れた。

 ゴーレムは土と岩に戻ってしまい、役に立ちそうなものは得られなかった。


「ゴーレムって、強い割に土とか岩でできてるから倒されても証拠は残らないし、ドラゴンの鱗みたいに鎧を強化できません。斥候や単騎襲撃には最適のモンスターです」


 とはアロンの弁である。敵ながらよく考えられたものだ。

 俺たちも手ぶらで帰るわけにはいかない。敵の魔術師が使っていた杖とローブを戦利品として持って帰ることにした。魔王軍なだけあって、アロンが言うには両方とも質はよりものらしい。

 帰還と同時に街の人たちが集まってゴーレム討伐成功を祝ってくれた。俺の活躍はロボキングギドラゴンの中に入って、巻き添えくらったアロンと一緒に吊るされてクルクル回っていたら、なんか倒されていたのだから素直に喜べないけどな。

 称えるべきは魔術師を見つけて懸命に戦ったピノと、それを討ったカミシモであって、絶対に俺ではないのだ。

 脇役は街の隅っこで大人しくしていよう。な、アロン。

 そんな相方はキョロキョロと辺りを見渡し、人の目がないことを確かめると、俺の手を自分の赤い髪の上に乗せた。


「ねえ、がんばったよ。褒めて」


 二人しかいないからって大胆な行動に出たな。

 ゴーレム戦、俺たちが偽ドラゴンを使いこなせなかったせいで、二人で酷い目に遭ったけど。魔法は常に善戦していたな。


「よしよし、頑張ったな。ありがとう」

「えへへへ」


 早く撫でろと突き出してきた頭をなで回す。俺にはこれくらいしかできないけど喜んでくれるなら良しとしよう。しかし、何というべきか。コカトリスを倒したあたりからだろうか、アロンがやたらと甘えてくる。

 アロンは一切目を合わせようとしないが、腕を絡めて俺の手を握り、撫でられている間は心地よさそうにしていた。

 手触りのいい赤髪から視線をお祭りへと戻すと、人だかりができていて、その中心にいたのはピノだった。アイツの性格だ、今回のゴーレム退治を堂々と言いふらしているに違いない。

 今回のMVPだし、注目されるのも当然か。スーツアクターはここでも影の存在か。


「顔を出さないで演技するのも、それはそれで辛いな」

「……いいじゃないですか、気楽で。誰にも知られないってことは誰からも期待されないんですよ。ミスしても気づかないじゃないですか」


 演劇で盛大にやらかしてくれた者だ。面構えが違うな。


「う……それは。言わないでください」

「悪い悪い。でも、お客さんは喜んでくれたし、そこまで気にする必要ないんじゃないかな」

「そうですか……ちょっと気持ちが楽になりました」


 アロンは再びなでなでを催促してきた。仕方ない。俺が頑張ればアロンもあの中に加われたんだ。満足すぐまで撫でるしかないか。

 ところで……ゴーレム退治の片割れはどこにいったのだろうか。注目されるのが苦手だったから、ピノとは一緒にいないはずだが。


「ソーサク、アロン。見つけた」

「あ、カミシモ」


 噂をすれば影……の中からくノ一、カミシモ参上。

 ん、アロンもう気が済んだの?また後ろに隠れたし。


「カミシモ何しに来たのさ、ピノと一緒に崇め奉られてきなよ」

「人ごみは……嫌い」


 そういえばこっち側の人間だった。

 アロンも他の人といると口数少なくなるし……あれ、コミュ障二人に囲まれて、今なにげにピンチでは?


「カミシモ要件は?」

「二人にお礼を、言いに」


 はて、お礼を言われるようなことなんてしただろうか。


「ゴーレム戦の作戦立ててくれた」


 作戦立案したけど、切り札調達のスライムで醜い争いが起きたやつだよね。たしか俺がアロンに水属性魔法で流せって言って、水を吸って巨大化したスライムに押しつぶされた結果、みんな粘液まみれになって全財産失ったやつか。

 あれは俺とアロンが悪かった。


「ゴーレム戦の、囮役」


 結局ゴーレム倒せなかったし、俺のアドリブで糸がこんがらがって、ピノが泣きながら囮してたやつか。第二形態用意したところまでは良かったけど、想定以上の重さで大回転決めて、アロンの魔法があらぬところに飛んで行って援護できなかったよな。

 あれは俺とアロンが悪かった。


「……演劇の、助っ人」


 ガオスが大暴れしたところまでは良かったけど、最後の最後でアロンが暴発して裏方大パニックになった事件だよね。その前に俺がアロンに大爆発を要求したってことはつまり……。

 あれは俺とアロンが悪かった。


「あれ、もしかして俺とアロンって大戦犯だったりする?」

「……」


 カミシモ黙っちゃった。ねえ、なんか言って。ちょっとどの面下げてこの子と会話すればいいの?


「……その、これ、お礼」


 カミシモは自身の袖から赤いリボンで包まれたクナイを二本取り出して、俺の前に差し出した。アロンと俺の分だろうか。

 いや、俺とアロンの分じゃねーよ、俺とアロンはお礼受け取るどころか、責任追及で記者会見するレベルの失態が発覚したんだよ。なんでこの状況で渡してくるかな、どういう神経しているのさ。いや、このクナイで自害しろってこと?


「赤い、リボンじゃなくて……青の方が、良かった?」


 そういう問題じゃないから、赤いリボンが嫌いだから受け取りませんってやついるのか?

 え、どうしたのアロン。


「赤色って、魔除けで使われることがあるんですよ」


 魔除けって俺の着ぐるみ怪獣のことかな?大戦犯だから出てけってことか……なんか納得。畜生、赤いリボンなんて嫌いだ。


「ごめんなさい、そんな、意味はなかった、の」

「じょ、冗談だよ、冗談。俺ってほら、表舞台に立つことなんてなかったからさ、ちょっと戸惑ってるっていうか」


 どうしてアロンが後ろの隠れているのか分かった。すごい気まずい。

 ほら、アロンもなんか言って。戦闘中みたいにフォローしてくれ。


「何とかしてくださいソーサクさん」


 君の言葉を借りるね。


「え、無理ですけど」


 とても気まずい空気の中、俺とアロンはカミシモからクナイを受け取りました。やけくそ。

 ともかく、ゴーレムを倒したことで俺たちはまた有名になった。この街ではちょっとした英雄として扱われるほどに。もちろんスライムに負けたことは禁句である。

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