第二十一話:石の巨人・後編
「第二形態だ。いくぞ、ロボキングギドラゴン!」
千切れた中央の首をサイボーグ怪獣という設定で再生し、さらにゴーレムからの攻撃に備えて胸部と翼を金属にした。その名もロボキングギドラゴン。
アロンとスライムが仕込まれている首は無事だ。これならゴーレムとの戦いも有利に進め……。
『レタンだ! ソーサクどうなっている。いきなり重くなったぞ』
『カミ、シモ。無理……重い』
られない。重量オーバーだ。長男、元気なくなったし。
「ソーサク目の前にゴーレム! ゴーレム来てる」
『ヤバい、空飛んで! レタン、上げて』
『ふざけるな! いきなりそんなこと言われても』
『死ぬ、死ぬぅ』
『ああ、もう知らん。背負うからな。カミシモ、糸全部貸せ。はぁぁあああ』
よし、回避成功。したのはいいが、あれ、身体が左右に揺れているぞ。
しまった、均等に張り巡らされていた糸が一か所にまとめ上げられて、安定感が無くなって偽ドラゴンが回りを始めてしまった。
「誰か助けて~」
ロボキングギドラゴンが上空で荒ぶった。右に左とぐるぐる回り、着ぐるみの中の俺達は大騒ぎ。悲鳴を上げながらもアロンのプラサンダは止まらない。
『こちら、カミシモ。ゴーレムに、効果あり。これを、狙ってたのか』
偶然です。あれだけ乱射したら当たるか。
口から溶解液と雷を放って、空を飛び、首ちょんぱしても元通り。それも強化された状態で。
どこかにいるはずの魔術師は、今頃ビビり散らかしているんじゃないだろうか。俺たちは裏事情知ってるから笑い事だけどな。……いや笑えねえ、吐きそう。
ゴーレムが再生中で動けないタイミングを見計らい、ロボギドラゴンがかっこ悪く着地すると念話が入った。
『ピノだ、人影を発見した』
共有魔法を通じてピノの視界を覗いてみる。
ゴーレムから少し離れたちょっと大きめの岩の上、ローブに身を包んだ一人の男性。額に角が生えていることから、おそらく魔族。そして恐怖にゆがんだ表情ってことはつまり。
『マジかよ、アイツ黒幕じゃん』
ピノが最悪なタイミングでゴーレムの制作者を発見した。
『おい、ゴーレムの制作者を発見したぞ。カミシモ、後は頼んだ』
『……糸が、絡まって、動けない』
どうするか。
感覚共有しているから分かるけど、カミシモが助けてくれるのは期待できない。むしろ助けに行かれたら、首が動かなくなって俺とアロンが死ぬ。ピノが何とかして魔術師の操作を妨害して、隙を作れば何とかなるし、魔術師を倒せば俺達の勝ちだ。
だがゴーレムを操る魔術師だ。冒険者を辞め、商人に転職したピノがまともにやりあった所で勝ち目は薄い。
『……ソーサク、一つ聞きたいことがある』
ピノから念話が入る。なんだよこんな時に。
『私やレタンから、散々見掛け倒しだの本体は弱いだの言われてきたけど、何とも思わなかったのか?』
着ぐるみの中にいるであろう人物にピノが問う。それはピノが自問自答をしているかのようだった。
だが、俺はピノじゃない。俺なりの意見を述べさせてもらおう。
『ああ、無いね。俺はこの戦い方が好きだ。好きだからやっている。他人がどう思おうが関係ないね』
強いように見えて実はそうでもない、強そうに見せるだけ。そうやって訳の分からない状態にして、混乱しているうちに倒す。これが俺たちの戦い方だ。
それを見てくれだけだの、実際は残念だのと言われたところで、その通りでしかないしな。
『戦いに向いていないのに?』
『けどゴーレムと渡り合えているぜ』
ーーーレタン、自信を持てよ。お前は力があって、強化魔法も使える。わたしとは違うんだ、きっとできる。いや、やり遂げてよ。頑張れーーー
この意味がようやくわかった気がする。
レタンは落ちこぼれとはいえ冒険者だ。力があるし、防御魔法も使える。剣は……使えないけど。でも、ピノが欲しかった要素の全てを持っていたんだ。
俺も夢が無くなった人間だけど、これだけは言える。俺はこの着ぐるみ怪獣が好きだからスーツアクターとして戦っている。思い描いていた夢とは全く違うが、俺は楽しいから満足だ。
だからこそ、俺が言うべきことは。
『ピノはさ、今が面白くないの?』
『はぁ? 魔王軍の手下と戦おうとして、これから死ぬかもしれないのに面白いとか、ふざけてんのか。仲間内で一番弱かったわたしが、今まで出世も昇格も無かったわたしが? あいつらよりも先に魔王へ喧嘩を売るだって?』
怒鳴り散らすように一気にまくしたてる。けど、最後ピノの口角が釣りあがったような気がした。
『そんなの……面白いに決まってんだろうが!』
起爆用のアイテムといくつかの火薬を握りしめ、ピノが駆けだした。
丘の上に駆け上がり、謎の怪獣に恐れ慄いている魔術師の前に立ちはだかる。
「誰だ貴様」
「アタシはアロン・アール・ファレーノ。お前をぶっ倒す、魔術師の名前だ!」
「ぶふっ」
光線担当アロン噴飯。
劇になった英雄の名前を名乗るとは大きく出たな。
「ファレーノ家の大魔術師だと!? なぜそんな奴がここに」
おお奴さんビビってやがる。
さすが魔王とやりあった大魔術師様のブランド力よ。
「オマエをぶっ倒すために追ってきたのさ、このロボキングギドラゴンとな」
「ば、バカな。アロンは赤毛の少女だったはずだ」
さっそくボロが出たぞ。
「オマエ、変身魔法って知ってるか?」
「なん、だと」
さすが口先だけが取り柄の女。
怯える術者に向かってピノは指を鳴らした。パチンと気持ちいい音と同時に、仕掛けた火薬が爆発する。
「今のはちょっとした挨拶だ」
ゴーレムの動きが鈍った。あの魔術師、当たりだ。
喜んだのも束の間、偽物の英雄からSOSが入る。
『今、わたしが魔術師相手に足止めしている。合図と同時にゴーレムの足を攻撃してくれ』
待ってくれ、こっちは吊るされたままなんだ。もう少しだけ時間が欲しい。
「アタシの使い魔、ロボキングギドラゴンがオマエのゴーレムなんざぶっ壊してやる!やれ」
タイミングが早すぎる。無茶言うなよな。
カミシモ、三男の口開いて。
『御意』
『それ次男だぞ』
『糸が……からまって。よし、見つけた。アロン殿』
『もうちょっとだけ上。よしよし、そのままキープ。ソーサク暴れないで、狙いがずれる。撃つよ、プラサンダ』
グダグダになりながらアロンの攻撃はゴーレムの足に直撃、粉砕。バランスを崩し、前のめりに倒れた。
「クソッ、こうなったらオマエだけでも」
例の魔術師がピノに杖を突きつける。
「ま、魔法勝負か?受けて立つ」
声震えてんぞ、大丈夫か?
相手から無数の火球が打ち出された。もちろんピノに抗う術はない。でも小さな身体と前職の経験を活かして、必死に逃げ回っていた。
『助けて~お願い、誰でもいいから早く来て。死ぬ、死ぬぅ』
『待ってろ、今助けに行く』
ストップ、レタン。今ここで抜けられたらロボキングギドラゴンは死ぬ。この役目はお前しかできなんだ。
『っ!すまない』
『もう少し……時間を』
依然としてカミシモとレタンは動けない。そして恐れていた事態が訪れた。
「もしかして……オマエは偽物か?」
そりゃそうだ。伝説の魔術師があれだけ逃げ回っていれば、不信感も抱くだろう。
『……火薬、全部使い切るからな』
爆発で誤魔化すことに決めたらしい。ドドーンとやっちゃってください。
「馬鹿め、引っかかったな!食らえ、爆発魔法グラビティバスター」
宣言通り全ての火薬を使い果たし、大爆発を起こした。数十個の火薬から生まれた黒煙が晴れるが、相手はもちろん無傷。
これでもうピノの武器はない。あるのは腰にぶら下がっている短剣くらいだ。
「アロン、なんか、なんでもいからピノに魔法を撃てないか?」
「無理だよ、だってアタシ今ゴーレムと戦ってるんだよ。目を反らしたらぶん殴られちゃう」
ええい見てくれの翼よ、なんでもいから役に立て。
バサバサと羽ばたくと、強風とまではいかないが、翼の大きさが功を奏し、それなりの風量になって魔術師を襲った。
「くそ、あのドラゴンめ……」
『そ、ソーサクありがとう』
しかし相手はくるりとバク転を決めて距離を取る。
「残念だったな、これでとどめだ」
敵の杖が光を放ちはじめた。ピノはすがるように短剣を握りしめている。
「死ね! 魔術師アロン」
魔法を放とうとした、その瞬間。
歪んでいた視界から敵がドサリと倒れ、とどめを刺したであろう人物が振り向いた。
「遅く、なった」
「か、カミシモ! 遅いぞ」
グッジョブ。何とか間に合ってくれた。
ピノは緊張が解けたのか、一気に力が抜けてその場にへたり込んでしまい、しばらく動けそうにない。仮面の忍者カミシモが手を差し伸べると。
「怖かったんだからな」
くノ一の手を握りしめてピノが泣いた。 カミシモはぎこちない手つきでピノの背中をさすり、慰めていた。
アロンよ、もうしばらく偽ドラゴンの中で大人しくしてようか。
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