第二十話:石の巨人・前編
酷い目に合ってスライムを捕獲し、街に帰還した俺たち。
宿に保管してあったお金と、エイジンさんから恵んでもらったお金、街の人から哀れな視線と一緒に頂いたお金で金銭問題は不本意ながら解決した。
再集合した俺たちは作戦会議と称して宿泊している部屋にいる。
「えー、まずスライム捕獲作戦、ご愁傷さまでした。ゴーレム戦の流れを決めたいです」
司会進行、俺。死んだ目をした美少女たちを相手に会議を進めていく。先に手を挙げたのはピノだった。
「変身して、スライムぶっぱなして、時間稼いで終了。じゃないのかよ」
「私とカミシモが操演、アロンが光線、ピノが指令、ソーサクがモンスター担当のはずだが」
モンスターじゃなくて怪獣な。役割と流れはそんな感じで大丈夫だろ。
カミシモ、ゴーレムの情報は掴んでる?
「うん、分身が偵察……中」
「は~、はい。感覚共有しますね」
ピノが魔法を使い、情報共有を開始。
街外れの森、コカトリスと戦ったその先で、魔術師と思われる人物が巨人のようなゴーレムを動かしていた。太い手足と大きな体、逆三角形のボディはバランスが悪いように見える。まるでロボットだ。
「ソーサク、コイツと殴り合うんだぞッ☆」
「うへぇ、無事でいるビジョンが浮かばねえ。でも魔法使いが相手なのか……これはこれで使えそうだな」
俺が創る着ぐるみの怪獣は見た目だけなら現実に存在してもおかしくないクオリティだ。相手が術者だろうがモンスターだろうが、着ぐるみ怪獣と特撮映像を知らないなら本物の怪獣だと騙せそうだ。
「ハッタリが効くと」
「ハッタリ言うなし」
例えばゴーレムの周りに適当な火薬を仕掛けた後、偽・ドラゴンの鳴き声に合わせて爆発させれば、相手は大パニックになるだろう。だって鳴き声一つで爆撃できるドラゴンだぜ。
「で、その火薬を準備する人と、仕掛ける人は誰なのかな?」
俺は中の人、アロンが光線担当、カミシモとレタンが偽ドラゴンを持ち上げないといけないので、残ったのは……俺たち全員で商人を見る。
「戦わないって言ったよ」
ピノは全力で首を横に振るが、俺たち三人はすでに役を押し付けることを決めた。
「うん、戦ってないよ。火薬を仕掛けるだけで」
「あらかじめ仕掛けて後方待機すればいいと思うが、ダメなのか?」
「起爆もよろしくお願いします、ピノさん」
「お前ら絶対許さないからな!」
よし特撮っぽくなってきたぞ。
「ピノ、火薬はどれくらいあれば準備できる?」
「五十年ほど……ごめんなさい、一日あれば。物はあるから後は買い取るだけです。はぁ、在庫ゼロでも上司が何とかしてくるんだろうな」
小細工含めてだんだんと武器が揃ってきたな。
会議がまとまりレタンが立ち上がった。
「よし明後日までに騎士団が到着しなければ、ゴーレムに奇襲を仕掛ける」
何がよし、だ。自慢じゃないが俺たちはスライムに負けたパーティである。はたしてゴーレムに勝てるのか、全くもって不明だ。だが、まあ、何となくだがうまくいく気がする。
連携が取れることを精一杯祈ろう。
騎士団の到着を待っていたが案の定無駄に終わり、決戦の日がやってきた。
火薬の件はエイジンさんに頼んだらあっさり譲ってもらった。あの人、たまに商人とは思えないほど品物バンバンくれるんだよな。
スライムの麻痺を治し、近くの川の水と一緒にタルに突っ込んだ。ヌラヌラ動いているから生きてはいるだろう。このまま大人しくタルの中で美味しいゴーレムが届くのを待っていてほしい。
コカトリスと戦ったルレーフの森。その奥地にいるであろうゴーレムを目指して、レタンを先頭に俺たちは進む。
最後尾にいるピノの様子が不安だが、直接戦わないから大丈夫だろう。
森の奥へと進むにつれて、地鳴りが強くなる。すでにゴーレムが可動しているとみて間違いない。
「……ゴーレムが進行しているな、ここで向かえ撃つぞ」
レタンの号令の元、全員が戦闘準備に入った。
羽衣を巻いたレタン、分身するカミシモ。アロンはキング・偽・ドラゴンの口の中。ピノはスライムビームと火薬の準備中。最後に俺の創る着ぐるみ怪獣にセットして完了だ。
歩くたびに地響きを立てて ゴーレムの姿を見せる。双眼鏡を覗き込んだピノから。
「敵ゴーレムの腕部は灰色、関節部分は赤茶色。おそらく関節部分は粘土、腕は石……ありゃ大理石か?スライムビーム効果抜群じゃねーか」
幸先は良さそうだ。
「ソーサク、頼んだ。ゴーレムとはいえ相手は同じ作り物だ。負けるなよ」
「キングギドラゴンは地球の怪獣です。異世界のモンスターでは歯が立ちません」
レタンから激励を受けてオモシロカプセルをポチッとな。いつものように光に包まれ……なくて、炎が俺の周りに纏わりつき、それが徐々にドラゴンの形になった。
「ヤッパ、ナンモミエネー」
お約束となった鳴き声を放ち、変身完了。事前予告もした金色三つ首ドラゴンだ。
『顔が三つ、目玉は六つ。なのに何も見えないの?メッキは金だけにしろよな☆』
おいピノ、心の声が漏れてるぞ。
『てへ☆念話と視界共有できた?』
できました。いつもお世話になっております。
『スライムビームとアロンはどの首にセットする?真ん中でいっか』
『真ん中は千切れるから止めて』
『……なんで分かるんだよ』
『直感』
首は中央千切れる予定の長男、右手スライムビーム撃つのが次男、左アロン担当が三男でよろしく。
『ピノちゃん了解でーす』
『アロンです。三男に乗りました』
『カミシモ……スライムビームの設置完了。操演の準備、できた』
『レタンだ。上空待機中。これより、キングギドラゴンを起こす』
せーのっ!と上空から掛け声がすると、浮遊感に襲われキングギドラゴンが直立。よし、翼に腕を通してっと、足も動く。
「カララララ」
『レタンだ。ソーサク、糸の位置が悪くて首でも絞められたか?』
うがいをしたような甲高い声は演劇の裏で合成した奴です。エレクトーンいじって楽しかったな。
恒例となった煽り合いはピノの念話で強制終了となる。
『進行していたゴーレムが止まったぞ☆こっちに気づいたみたいだな。まあ、あれで気づかない方がバカか』
『よし三男、口開け。アロン、合体攻撃で倒すんだ。カーアローブレス、発射!』
『えっ合体、攻撃……』
アロンさん、その場のノリだから気にしなくていいです。
案の定、指示役から怒られる。
『合体ってもお前は突っ立ているだけで、ほっとんどアロンの魔法頼りじゃねーか、本人困惑してるぞ』
「あーもう、足場がグラグラしてて魔法が使いにくいな、ギザギザので妥協しよう。雷魔法ギガ・プラサンダ」
着ぐるみの性能に文句を付けつつ、光線担当が以前のプラサンダの上位互換らしき魔法を放つ。金色の雷魔法がゴーレムの肩に直撃し、爆炎を上げて大理石が木っ端みじんに吹き飛んだ
その光景に操演部二人から感嘆の声が上がる。
『クリーン、ヒット』
『……相変わらずブレス、いや魔法だけはすごいな』
偽・ドラゴンのブレスもといい、アロンの魔法は効いている。本体がヘタレなのは御愛嬌。
先制攻撃が決まり、喜んだのも束の間、ピノから念話が入る。
『待て……ゴーレムの肩が、修復している』
近くの土や岩を集めて崩れた肩が再構築した。
しかもゴーレムが振りかぶっている。ストレートが飛んできそうだ。ちょっと、レタン引っ張って。
『せーの!』
「カラララ」
首を絞められつつも、操演部に合わせてギドラゴンがバックジャンプ。ゴーレム渾身のストレートを糸で引っ張り回避成功。近づかれなければ糸が絡まることもないし、中の人が殴られる心配もない。引き撃ち戦法、遠距離戦では無敵なのだよ。
距離を取って再びプラサンダ……じゃなかった、カーアローブレスを発射。しかし、悲しきかな、すぐに修復されてしまう。操演二人から悲鳴が上がる。
『永久、機関』
『くそっ、術者を倒さないとゴーレムは倒せないのか?』
ゴーレムは人工モンスターだ。単体ならただ破壊するだけでいいが、製作者がいると今回みたいに再生してくるケースもある。
レタンは言ったが、製作者を先に倒さないとゴーレムは倒せない。逆を言えば製作者さえ倒せばどうにでもなる。
問題は、誰が倒すか。だ。
俺とアロンはキングギドラゴンの中に入って動けないし、レタンとカミシモは空中にいる。消去法で考えて……ピノだけだ。
『嘘でしょ、嘘だろ?嘘だと言ってよ! ソーサク。な、レタン、お前の出番だぞ』
『……すまない、私が離れればソーサクとアロンが危ないんだ』
『見つけたら、私が、行く』
『……絶対戦わないからな、カミシモ頼むぞ』
文句を言いつつピノが魔術師の捜索に回ってくれた。相手もキングギドラゴンとは別にピノが動いているとは思わないだろう。案外簡単に見つかるかもしれない。
後は俺たちが時間を稼げばいいはずだ。ま、偽ドラゴンの首がある限りは無敵だがな。
「ソーサク!長男が掴まれた」
言ったそばからお約束。キングギドラゴンの死期は近いかもしれない。
『ソーサクだ。長男を犠牲にスライムビームを使おう』
『……こちらカミシモ。口、頭よし』
『撃て、スライムビーム発射!』
次男から液状になったスライムが発射。ゴーレムの身体は酸に弱い大理石でできている、接触した瞬間に溶解が始まった。
だがゴーレムはギドラゴンの首をつかんで離さない。長男にもかかってしまい。
「ソーサク、長男が溶けちゃってる」
このままだと千切れ……千切れた!
ブチッと音を立てて長男が本体と分離。これが生物なら出血大量で死亡するが、着ぐるみ怪獣だから無縁の話。
しかし、相手側にキングギドラゴンが作り物であるとバレてしまう可能性が浮上。人工怪獣だと知られたら、俺たちがやっているように術者を各個撃破されてしまう。バレるのだけは絶対に阻止しなければならない。
こんなこともあろうかと俺は一つの秘策を用意していたのだよ。
キングギドラゴンの翼は大きい。ブラブラしていた両手を活かして、変身アイテムを取り出した。
「第二形態だ。いくぞ、ロボキングギドラゴン!」
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