第三十一話:ハリボテ怪獣ハンドメイドン・前編

 暑いし暗い。ヒーローショーのころから何も変わっていない。鼻は押し付けられ、視界は地面くらいしか見えない。どれだけ吠えれど火は吹けないし、動きにくいのも変わらない。着心地は最悪で、戦うには心もない。

 なのに、どこか安心感があった。


『よ、ソーサク。いつも通り視界を共有したぞ☆』

『こちらレタン。防壁の展開ならいつでもいける』

『カミシモ、準備完了』


 当たり前だ。今の俺には仲間たちがいる。コカトリス、ゴーレム相手にバカをやってきた、作り物で本物と渡り合ってきた悪友たちが。


「ソーサク、またよろしくね。で、アタシは何したらいい?」

「どデカいを頼む。開幕一発目だ、怪獣らしく、俺たちらしく、おバカでド派手にやろうぜ」

「また無茶言って、アタシは秘術発動してるのにさ。ふふっ、それで雷?風?リクエストなら答えるよ」


 リクエストか、そうだな。原作を重視して。


「青くて熱い、真っ直ぐな熱線で」

「了解。……その、ありがとね」

「なんか言った?」


 ハンドメイドンの口が開き、アロンが笑う。


『何でもない。炎魔法ベクレルオブザレイ』


 オーダー通りの一撃がドラゴンに炸裂。想定外の一撃だったのか、モノ・ヴァレルは大きく怯む。しかしダメージはない。首を戻すと、すぐ火炎の吐息がほとばしる。


『今度こそ、守り抜け! シルバー・ザ・ゴーン』


 レタンの防壁が炎の威力を弱めた。もちろん全てを防げるわけもなく、ハンドメイドンが焼かれるが。


「あれ?全然熱くない」

「アロンよ、今回はコカトリスの鱗を使っているから耐熱性能はバッチリなんだ」


 俺の能力は着ぐるみの材質まで自分で決められる。その特権を最大限に使わないと。


『レタンだ。ソーサク、敵が突っ込んでくるぞ』

『了解。カミシモ、ジャンプして後ろに距離を取りたい。いけるか?』

『任せて、せーの』


 カミシモの掛け声と同時に、糸がハンドメイドンを引っ張り跳躍。

 後ろに距離を取り、オマケにとアロンが火球を放ち、目くらましとなった。


「ソーサク、次の手は?」

『秘密兵器一号出そう』

『ピノちゃん了解です。風魔法埃隠れの術、発動』


 すぐさま周囲に土煙が立ち込め、レタンをはじめとする地上の工作部隊を隠してしまう。これこそが秘密兵器第一弾だ。

 ネタバレすると煙り草や土を集めて、それを風魔法でまき散らしているだけなんだけどね。


『レタン、尻尾攻撃かますぞ』

『こちらレタン、了解』


 早速レタン達が動いた。今回の尻尾は口のように先端が二つに割れている。そこにレタンを仕込んで通常攻撃でぶん殴ってもらう。


『レタンだ。尻尾に到着した』

「ナンモミエナーイ」


 口を広げて、牙を向くドラゴンに一回転。

 俺のなけなしの遠心力と、カミシモの見事な操演によって、尻尾をモノ・ヴァレルの顔面に叩きつけた。

 直後にドカンと大爆発が起こり、モノ・ヴァレルが吹っ飛んだ。レタンと共有した視界を除くと、やっぱり剣が折れていた。コイツ、武闘家に転職すれば大成するんじゃなかろうか。


『……それも考えたんだが、兄上に、お前が本気で殴ると手の骨がバラバラになると言われた』


 なんかゴメン。


『……ピノです。秘密兵器二号の準備しておくな』


 フォローしてよ。


「グロロロ、下級モンスターが!」


 首を振って立ち上がる魔王。

 耳の穴かっぽじって良く聞け。ハンドメイドンは怪獣だ。


『そう怒るな、相手は完全に騙されてるぞ☆なんかしろ』


 作戦は順調だ。ここらで俺たちも気合を入れよう。


『アロン、換気よろしく』

『はーい』


 バシューっとハンドメイドンの身体中から蒸気が噴き出した。これで若干涼しくなる。


『はぁ~、癒されますね』

『ホント』

「なんだ、何が起こっている!?」


 攻撃の予備動作と勘違いしたのか魔王が動揺している。


『ヘイヘイヘーイ、あいつビビってんぞ。アロン、そのままやっちまえ☆』

『りょーかい、二発目のベクレルオブザレイ』


 身体を大きく震わせて熱線発射、今度は翼に命中。マルチタスクの影響か、やはりダメージはない。


「おのれ……」


 よし、モノ・ヴァレルがこっちの攻撃を嫌がって飛んだ。


『翼を狙らえ。あんな布切れ、ぶっ壊しちまえ』


 目標のヴァリアブルスレイザーを当てるために、相手の行動をできるだけ制限したい。その分だけ有利になれる。つまりあの翼は邪魔だ。それを破壊する手段は用意してあるのだよ。


『秘密兵器三号、爆発ガラ弾、発射用意』


 ただの投石器である。

 しかし、怪獣がいると話は変わる。怪獣が岩を投げているように見せかければ、接近戦をしなくても怪力をアピールできる。そもそも巨大化しているとはいえ、俺の力でドラゴンと殴りあっても勝てるわけがない。近づかれれば負けるのだ。向かってこられると怖いし。


『ピノだよ、指示はこっちが出すね。ガオー、腕を振るドカン。岩ボンボンで行くぞ。みんな、よろしく』


 擬音語満載の打ち合わせが裏で行われ、旋回するモノ・ヴァレルに標準を合わせた。


「ガオー」


 細っこい腕を地面を叩きつける動作をとり、爆発ガラ石弾発射の合図を送る。


『ドカン入った! 岩ボンボン』


 その直後、あちこちから岩が飛び交うが、もちろんモノ・ヴァレルに当たるはずもない。


『口開けて、三発目、撃ちます』

『御意』


 ベクレルオブザレイ発射。

 俺も身体を反らして、アロンが当てやすいように援護する。


『ソーサク、もうちょっと、もう少しでいいから上向いて』

『無理、腰が、折れる』


 俺の腰は直角に曲がっている。これ以上は態勢的に無理だし、後ろにひっくり返ってしまいそうだ。


『レタンだ。モノ・ヴァレルを下げればいいんだな。カミシモ、尻尾を動かしてくれ』

『御意』


 カミシモの操演で尻尾が少しだけ動き、ちょんと岩に当たる。


『レタン? 何するんのさ』

『こう、するんだ!』


 レタンが巨大な岩をぶん投げた。ひときわ大きいそれは、弧を描きモノ・ヴァレルの少し上を目掛けて飛んでいく。魔王は避けようとして。


『やった、下に下がった。いっけぇぇええ』


 モノ・ヴァレルが大岩を避けた直後、アロンの熱線が翼に直撃。薄い翼膜に穴をあけて地面に叩き落した。


「なんだ、さっきから岩が飛んできたり、地面が曇ったり、我の翼を集中して攻撃してきた。しかも、あのブレス、どこからか魔力を感じる。あのモンスター、もしや知性があるのではないか?いやあの尻尾の動きからして、あれほどの岩を吹き飛ばすなど無理だ。もしや、あれは……」


 モノ・ヴァレルが呟いた。自分の思考を整え、少しずつだがハンドメイドンが作り物の怪獣だと感づいているぞ。


『こちらピノ。どうすんだよ、作戦は順調だが時間はどうなんだ?』

『アロンです。……もう少し時間がかかるね』

『ソーサクだ。カミシモ! ハンドメイドンが作り物とバレたら、真っ先に狙われるのはたぶん頭だ。いつでもアロンを救出できるように待機してくれないか?』

『御意』

『レタンだ。尻尾はどうする?』

『何が何でも尻尾、頭の順で千切ってもらう。それと秘密兵器二号の出番だ、尻尾千切れた瞬間やってくれ』


 作り物と分かればゴーレム戦で俺たちがやったように、術者を探し出して各個撃破されるだろう。特に頭が千切れたら、嫌でも作り物だと分かってしまう。けど尻尾ならトカゲよろしく誤魔化せるはずだ。お城壊した古代怪獣が似たようなことしてたし。


『ピノ、了解! 秘密兵器二号、用意っ』


 秘密兵器二号または通称、小麦粉粉塵爆弾。

 タルに煙り草や小麦粉、燃える白っぽい粉を詰めて、そこに風魔法、炎魔法の順番に打ち込んで粉塵爆発させる、爆発演出装置だ。もちろん大した火力はない。


「人間ども、仕組みは分からんが、お前たちが動かしているのは分かっている。抵抗は止めて果てろ」


 くそ、バレたか。火を噴きながら突っ込んでくる。直接破壊するつもりだな。


『尻尾攻撃で迎え撃つ、場合によってはそのまま千切るつもりで。みんなお願い』

『御意』

『こちらレタン、了解した』


 火炎放射をレタンの防壁で軽減し、突進してくるのに合わせて一回転。

 肩に直撃するが、読まれたらしく鷲掴みにされた。


「捉えたぞ」

『カミシモ、尻尾千切って』

『でやぁぁああ』


 直後、お尻のあたりが軽くなった。

 尻尾を引っ張っていた魔王が勢い余って大きく後退。モノ・ヴァレルが尻尾を投げ捨てた瞬間。


『小麦粉粉塵爆弾。発射!』


 モノ・ヴァレルと俺の周りで、爆発が乱発する。数十個爆発したが、爆心地から距離が離れているため、直撃はおろか、爆風すら当たらない。ただ視界がさらに悪くなって、焦げた臭いにおいが辺りに広がっただけだった。


「な、なにが起こっている。何故爆発した?そして何故当たらない」


 モノ・ヴァレルは混乱している。それで十分だ。


『レタンだ。これから尻尾で参加する』


 黒くて無駄に重たい尻尾が猛攻撃を開始。砂埃と爆風に紛れてレタンは見えていないようだ。尻尾だけがドラゴンに向かって体当たりを繰り返している。


「尻尾だと? 我を吹き飛ばすほど重いものをニンゲンが動かせるのか? やはり本物……」


 敵が狼狽えている好きに一息つくか。


『換気入りまーす』


 スーツの穴から熱気が吹き出した。


「分かったぞ、尻尾が千切れても血が出ないし、機械のような蒸気が噴き出した。お前はやはり作り物だな」


 無駄に察しがいいぞモノ・ヴァレル。

 ここからが踏ん張りどころ、第二回戦開始だ。

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