第三十二話:ハリボテ怪獣ハンドメイドン・後編

 ハンドメイドンが作り物だとバレた。ここからが本当の勝負だ。


『みんな、作り物だとバレた。ここからは何でもあり。アロンの準備が整うまで時間稼ぐぞ』

『ピノ、了解です。小麦粉粉塵爆弾、秘密兵器四号。ありったけをつぎ込んで爆発させます』


 ピノの視界を通じ、粉塵爆弾とは別に花火が用意されている。秘密兵器四号、ポンポン砲だ。


「小賢しい真似を」


 モノ・ヴァレル、突進。本格的に着ぐるみを引きちぎるつもりだ。


「ナンモミエナーイ」

『秘密兵器四号、ポンポン砲発射』


 俺の愚痴と同時にモノ・ヴァレル目掛けて花火が撃ちあがる。煙とともに時間差で色とりどりの花火が開花。もちろんダメージはない。だが、戦闘中に花火が撃ちあがると思わなかったらしく、モノ・ヴァレルの突進が止まった。


「なんだこの魔法は……い、痛くないぞ。いや花火か?小癪な」


 この隙を見逃すはずがない。


『ベクレルオブザレイ、四発目!』


 ハンドメイドン、メインウェポン炸裂。モノ・ヴァレルが怯んだ。

 怪獣はハリボテだがそれを動かしているのは本職の人間なんだよ、バーカ。


「調子に乗りおって!」


 ドラゴンが翼を広げ、大きく息を吸い込んだ。

 騎士団を壊滅させたレーザービームが来る。


『間に合え!』


 レタンが尻尾を投げて身代わりになる。尻尾は一瞬だけ耐えると、文字通り消し炭になった。もちろん魔王の必殺光線がそれで止まるわけがない。


『カミシモ! チャック下げて』

『御意、アロンも救出する』

『離さないで』


 変身を解除して脱出成功。ああ、空気がうまい。


「バカ言ってねーで次の準備しろ。ジャンピングカット攻撃やるんだろ?もう小細工……じゃなかった、秘密兵器の在庫もねーぞ」


 ジャンピングカット攻撃。一回変身を解除して、移動してから再び変身するだけの技だ。

 情けなくもカミシモにお姫様抱っこされて、魔王の背後へ駆け抜けると、同じく分身におぶられ並走したアロンが立ち止まった。


「ソーサク、一気に魔力を貯めたい。五分、いや、三分だけ時間をちょうだい」

「え、俺一人?」


 着ぐるみ怪獣の戦闘力はバカにされるほど低いぞ、魔王相手にどれだけ時間を稼げるかなんて分かったもんじゃない。


「どうして一人で抱え込んじゃうの?」


 アロンは優しく微笑んで。


「ふふ、私たちが君を守りながら戦うから、君は私たちを助けてね」


 それに、アロンは俺に向かって拳を突き出した。


「揺れまくったら集中できないもん。だってぶん殴るんでしょ?リアルモンスター」


 そう言われたらやるしかないじゃないか。


「分かった。任せろ」

「期待してる」


 二人でコンと拳をぶつけると、アロンはキングギドラゴンの千切れて放置された首の中に入っていく。

 見送った俺は、またカミシモに抱かれて移動再開。締まらないのはいつものことだ。

 バレずにモノ・ヴァレルの背後を取ると、降ろしてもらった。


「カミシモ、アロンをお願いしたい」

「いいのか?」

「もちろん」


 カミシモはコクリとうなずくと、二人に分身した。


「一人つける。チャックくらいは……降ろせる」


 心強いぜ。

 残り二分と三十秒。

 俺はカプセルを手にしてハンドメイドンメインに変身した。


「そこだ」

「うおっ」


 直後、ドラゴンに突っ込まれ、そのまま打撃戦に突入。巨大化したとはいえ、ドラゴン相手に肉弾戦は勝ち目が無い。

 俺は細い腕で、敵の太い前足を掴もうと抵抗する。ハンドメイドンメインの指の数は四本。もとから動かしにくいのに、振り下ろされるドラゴンの腕など掴めるわけもなく。


『ソーサク大丈夫か、ぶっ刺さってんぞ』


 ピノから状況を教えてもらう。首を犠牲に受け止めることに成功したらしい。ドラゴンの両腕を抑えて、後はこのまま。


「そこにいるのだろう、アロン!」


 モノ・ヴァレルが口を広げて、着ぐるみの頭部にかぶりつき、頭を食い破られた。

 勝ち誇ったように頭部の残骸を吐き捨る。


「この感触、頭を千切ったにも関わらず血が出ない。やはり作り物だったか」


 頭突きを食らい、なぎ倒されて地面に叩きつけられる。

 馬乗りにされ、今度は巨大な爪が肩を引き裂こうと伸びてくる。不味い。例に及ばずコイツも一人じゃ立てない。

 直後、駆け抜けていく人影が映った。空色の特徴的な鎧。金髪を揺らしながらソイツは、銀色に輝くブツを抜いて、竜のカギ爪を受け止めた。


「力比べといこうか、モノ・ヴァレル……続けカミシモ!」

「御意」


 分身が六芒星を作り上げ、モノ・ヴァレルを透明な糸で拘束する。


「兄上の仇、でやぁああ」


 黄色の太刀筋が弧を描き、黒い鱗を打ち砕く。ドラゴンは大きく後退。


「あなたの探している人を連れてきたよっ、当てれるものなら……当ててみやがれ!」


 視界魔法で共有していた映像が爆発的に増えた。これは……ピノがモノ・ヴァレルを含めてこの場にいる全員分の視界を繋げたのか。しかもみんなアロンの衣装を着ているし。


「さっき倒したはずでは、いや、偽物か。本物は」


 起き上がったモノ・ヴァレルは本物のアロンを見失い、戸惑っている。

 ここまででかなりの時間を稼げたはずだ。魔力はあとどのくらいで溜まるんだ?


『もう少し、あと二十秒、それで完成する』


 作戦をかなぐり捨てた決死の時間稼ぎが功を奏し、アロンの術が、俺たちの切り札が完成まで迫っている。しかし。


「見つけたぞ、アロン・アール・ファレーノ!」


 本物が声を発したことで居場所がバレた。

 俺達は眼中になく、モノ・ヴァレルがギドラゴンの頭に狙いを定める。

 魔王が口を開く。並ぶ牙から紅蓮の炎が漏れていた。


『やべーぞソーサク、あっちの方が先だ!』


 ピノから悲鳴が上がる。秘密兵器は使い果たした。

 クソ、着ぐるみが重くて立ち上がれない……いや、これだ!


「レタン、カミシモ、起こして、いや俺を投げて!」

『糸、準備できた』

『ソーサク、行ってこい』


 カミシモとレタンの操演コンビが糸を引き、ハンドメイドンを叩き起こす。

 本物の怪獣なら肩が破れたら腕が使えなくなるし、首が千切れたら動かなくなる。

 けど、俺たちはハリボテの怪獣だ。どんなにやぶれようが、どれほど傷つこうが、熱い気持ちがあれば、何度でも動くんだ。


「日本の特撮怪獣……舐めんなよ!」


 大きく、大きく振りかぶる。千切られたスーツから伸びた生身の腕。その腕にありったけの力と着ぐるみの重さを込めて、思いっきりそのツラをぶん殴った。


『クリーンヒット!』

『いいぞソーサク』


 仲間たちの歓声が上がり、魔王は大きく、ぐらりと揺れて地面に激突。

 身長四十メートル相応の質量に、自力じゃ立てないくらい重い着ぐるみが合わさったんだ。ドラゴンと言えど耐えられないよな。

 予想外の一撃を受けてもなお、モノ・ヴァレルはすぐさま尻尾でハンドメイドンを叩きつけてきやがった。反撃をもらって俺も吹っ飛ばされる。せっかくいいとこ見せたのに。

 立ち上がるモノ・ヴァレル、攻撃目標はハンドメイドン。もう俺たちに武器は無い。

 だけど。


「深紅の破壊者……」


 本当の狙いはな。


「魔術の申し子……」


 こっちなんだよ。


「万物を穿つその力……我に示せ」


 キングギドラゴンの千切れたはずの口が、真っ赤に輝いた。

 放てアロン、貫け俺たちのロマン砲。


「ヴァリアブルスレイザァァアア!」


 一直線に伸びた熱線はモノ・ヴァレルを押し返し、鱗を砕いて甲殻を破壊。それでも足りないと腹に風穴を開け、空の彼方へと延びていく。

 モノ・ヴァレルの身体からはバチバチと火花がほとばしり、ゆっくり、ゆっくりと倒れていく。

 直後、爆発が起こった。

 挫折も悩みも吹き飛すほどの大爆発だった。

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