第十八話:みんなは友だち?
次の日、俺たちはゴーレム戦の秘策を手に入れるために、五人でルレーフの森に向かっていた。
「ソーサク、本当にあれでゴーレムが倒せるのかよ?」
ピノは昨日に引き続き不機嫌である。俺の秘策に納得できていないらしい。
「うん、ゴーレムってさ、無機物じゃん。だからグリーンスライムで溶かせるよね」
そう、俺の秘策とはグリーンスライムである。
特撮映画でビルを破壊するときに、破壊するビルに予めカッター等で切り込みを入れて壊れやすくする。その後石灰とかで切れ目を目立たなくし、撮影を開始。怪獣が殴った衝撃で、ボロボロだったビルが破壊できる。という流れだ。
今回はその応用、ゴーレムをビルだとするとカッターはグリーンスライムだ。
ピノはベレー帽を深くかぶりなおし、頭を押さえて。
「確かに……理屈は通っているけどよ、どうやってグリーンスライムにゴーレムを食わせるんだ?足元に吹っ掛けて終了じゃないよ。顔とか身体全体にかけないといけないんだから、何体捕獲すれば足りる計算だ。そもそも発射する方法と、運搬手段は?」
「着ぐるみ怪獣の口から発射すればいいんだよ。ビームみたいに」
「は?」
「スライムに水をたらふく飲ませて、体積を増やした後、タンクに詰め込んで一気に放出する。グリーンスライムがエサと勘違いしてゴーレムを溶かしてくれる。これをみて」
俺はエイジン様から貰った紙にペンを滑らせて、一体の怪獣を書き上げた。
三本の首がある黄色のドラゴン。……なんだけど、着ぐるみなので、名前は偽物の王竜。つまり。
「キング・偽・ドラゴンだ」
どうだ俺の考えた最強の怪獣は。かっこいいだろう。
「……溶解液を吹っ掛けて、防御力を下げるのは分かった。運搬もまあ、毛皮をタンクとかタルの中に入れれば何とかなるし、毛皮も私が用意できる。んで、ゴーレムが溶けるまでの間はどうするんだ?」
「えっ、溶けないの?」
「いや、普通に考えて一瞬で溶けないじゃん。バカじゃねーのか」
ピノから予想外の反論をもらった。ヤバい、論破される。
「空を飛んで距離を取る……とか?ほ、ほら偽ドラゴンは翼があるよ」
「どうやって!ゴーレムと同じくらい、30メートルの物体を空に上げるのは不可能だ。演劇じゃないんだぞ」
「助けてカミシモ」
「吊るせる……糸で」
ほら問題ないじゃん。
「……でも、引っ張れない」
「まて、カミシモ。おまえ、空を飛べるのか?」
レタンから驚愕の声が上がった。キング・偽・ドラゴンを吊るすということは、偽・ドラゴンよりも高い位置、つまり、30メートル以上の場所に常にいないといけない。
カミシモが跳躍すると帯が広がり、ふわふわとその場で滞空してみせた。さらに分身まで召喚。唖然とする俺たちを傍目に満足そうに降りてきた。
「いける。でも、重いのは、無理」
「ならレタンも一緒に飛ばしてもらって」
「いくら私が空を飛んだところで、カミシモに偽・ドラゴンを引っ張れる力がなければ、ズルズルと落ちるだけだろう」
確かに。カミシモにはレタンと違い、偽・ドラゴンを持ち上げられるだけの力は無い。あと一歩、便利アイテムの一つでもあれば空中で操演ができるはずだ。
もし、そんなアイテムを所持する人物がいるとしたら商人しかいない。
「……あるよ。『天使の羽衣』が」
何それ?
「空が飛べる羽衣だ。ここに来る前、エイジン様がいつの間にか仕入れてきた激レアアイテムさ。使用者の力、筋力で空を飛ぶ時の出力が変わるっていう不思議な効果がある」
これをつけたレタンに上空で待機してもらって、カミシモと一緒に糸で引っ張れば。
「首だけじゃなくて、本体も操れるか……」
「はぁ~、これを見越して仕入れてきたとしか思えないな☆ 戦えってことかよ。勝算はあるみたいだし」
いつの間にかピノの口調が元に戻っていた。
「しょうがないなぁ☆ ピノちゃんがいないと。見えな~い。とか、立てな~い。とか情けない鳴き声上げるんだろ」
「戦って、くれるのか」
カミシモの問いを肯定する。ただし。ピノは人差し指を立てた。
「あくまでサポートだ。武器は使わない、商人だからな。そこんとこ間違えるなよ☆」
改めてピノが協力してくれることになった。
「……ありがとう」
「それじゃあ、スライム探し、頑張るぞ」
「おー」
元気がいいのは俺とレタンだけでした。
森の中を駆け回ること半日。お目当てのグリーンスライムを発見。
場所はルレーフの森の小川近く。獲物は腰かけるのに丁度よさそうな岩に覆いかぶさってお食事を楽しんでいるようだ。問題はコイツをどうやって連れ帰るか。
「レタンさ、岩ごと持ち上げてくれる?」
「断る。逃げられるし、鎧に張り付かれたらおしまいだ」
今回の獲物は無機物をエサとしているスライム。鎧で相手をした日には、欠片一つ残さず独自の体液で消化されてしまう。
そう、この体液が問題で、レタンのような鎧はもちろん、布でできた衣類も、ベルトの留め具のように意外なところで金属が使われている。仮に溶かされない服で戦ったとしても液体でベトベトにされてしまい、最悪な着心地が一生続くことになる。
「というわけで用意しました専用装備」
てなわけで、俺たちはピノから与えられた、対スライム用のアイテムをいつもの装備の下に着ているのだ。
いつもの服装を解除して専用装備の力を見よ。
「で、なんで水着なんだ?」
「仕方ねーだろ季節的に余ってたんだから。それに水着じゃなくて下着な。真冬用の」
「露出度が高いわりに、妙に温かいのはそのせいか」
専用装備の正体は、オオカミ系のモンスターから作られた下着である。俺が着ているものはトランクス風で、女性陣はさっきも言ったように水着風だ。
このオオカミのビキニ(俺、命名)はビキニ水着のような見てくれをしているが、材質が毛皮。なので着てみると意外にも暖かい。冬用の下着といわれて納得する。今は春だが。あ、だから売れ残ったのか。なるほどね。
さてビキニということで、女性陣の色んなものが露になる。
何とは言わないが、上からカミシモ、レタン、アロン、ピノの順番だった。眼福である。ありがとうございます。
「……これで、戦闘できるのか?」
カミシモの疑問も分からなくもない。スライム戦だけ下着姿のまま戦って勝てるのか。布面積から考えて防御力は皆無。転んだら絶対に痛いし、怪我するだろう。
「戦闘用の装備じゃねぇって言っただろ」
「……合点」
それでいいのかカミシモよ。
水着のような下着姿になった俺たちは、グリーンスライムを取り囲んだ。
スライムは俺たちに見向きもせずに岩の上。元気にご自慢の溶解液をまき散らしている。対して俺たちは誰一人として動こうとしない。
岩が溶けて小石に変化したころ、レタンが当然の疑問を発した。
「で、誰が捕獲するんだ?」
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