第25話 酒場での言葉
昼 ディーナの酒場兼宿屋
昼ともなると中には酒の匂いが充満し、ガチャガチャと食器のぶつかる音が聞こえる。その中で、隅に位置するテーブルの、蝋燭の光があまり当たらない場所で静かに乾杯する男が2人、つまり俺とザルクさんがいた。
「今日の狩りの成果に」
「今日の狩りの成果に」
ザルクさんの言葉を復唱してジュースの入ったジョッキで杯を交わす。ザルクさんの横にはあの白い酒瓶が置かれていた。
「にしてもさっきは災難だったな」
「まさか、断罪師さんに連行されることになるとは思いませんでしたよ」
互いにジョッキの中身を飲み、ステーキを頬張る。この肉は、狩りをした時の鹿の肉だそうだ。
「あ、そういえば」
狩り、ということを思い出したついでに、ザルクさんに気になったことを聞いてみる。
「森から連れ出された時に、アティが練習とかなんとかって言ってましたけど、それってどういうことなんですか?」
練習という言葉を聞いたザルクさんは眉をピクリと動かし、目線はステーキから俺の顔へと移った。
「練習、か。確かに間違いじゃねぇな」
「何か、大きな魔物とかを狩る予定なんですか?」
ザルクさんは黙ったまま、もう1度ジョッキの中身を飲む。そうして、ゆっくりと口を開いた瞬間。
「よぉ〜ザルク!そんな辛気臭い面してどうしたんだぁ?あ、いつものことか!」
突然近くにいた酔っ払いがザルクさんの肩をがっちり掴んでガハハと笑いながら揺さぶってきた。
「俺を揺らすな、その臭い口も閉じろ、酒が不味くなってかなわねえ」
「その酒は元から不味いだろうよ〜!ヴァリウス様のこの酒に比べたらよっと!」
そうして酔っ払いがテーブルに置いたのは最初に来た時にザルクさんが嫌っていたあの赤い酒瓶だった。
「ハァ....」
ザルクさんはジョッキの中身を飲み干し、そして今度は赤い酒瓶の液体をなみなみと注いだ。そしてゆっくりと立ち上がり、ジョッキを持ち上げ、そのまま
「オラッ!」
酔っ払いの顔に思いっきり浴びせた!
「そんなにこの酒がお気に入りなら好きなだけ飲ませてやるよ!」
驚き、倒れる酔っ払いをさらに追い打ちするかのように赤い酒瓶の中身を全てボサボサの頭にかけた。
「テメェ!」
酔っ払いは立ち上がりザルクさんの胸ぐらを掴んで壁まで押し付ける。
「なんだなんだ、喧嘩か!」
「いいぞ!やっちまえ!」
周りの客はこの2人の様子を見て外野からヤジを飛ばす。俺もこの光景が面白く思い、こっそりとヤジを飛ばそうか悩んでいたときだった。
「お前の娘はヴァリウス様に選ばれた名誉があるってのに、お前は変わらず狩りのことばっかだ!」
その言葉を聞いたザルクさんは目を見開き、血管の浮いた拳で酔っ払いの腹をへこませた。
「もう1度俺の前でその名前言ってみろ!テメェのタマをもぎ取って的のど真ん中に捻り込んでやる!」
野次馬は歓声をあげ、2人を囃し立てる。
「はい、タメタスープ」
そんな熱気に包まれた中でも、ディーナさんは変わらない態度でタメタスープ。つまりトマトスープを出してきた。
「止めたりとかしないんですか?」
「もう当たり前みたいになっちゃってるからね、よっぽどのことがない限りは止めたりはしないよ」
どうやらテーブル1つが割れることはよっぽどのことじゃないらしい。
「あ、ディーナさん!」
「なんだい?追加の注文?」
「さっきあの2人が言ってた、ヴァリウス様とか、ザルクさんの娘って何かあったんですか?」
ディーナさんはそれを聞くと目を泳がし、視線をザルクさんの方へ移した。少し考え込んだ顔をしてからため息をつき、俺の方へ視線を向き直した。
「今から言うこと、私が言ったって言わないでちょうだいよ?」
俺は無言で頷き、身を乗り出してディーナさんの言葉に耳を傾ける。そうして、この村の歴史について語られることとなった。
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