第24話 断罪、尋問、説明!
昼前 断罪師の家、その前の道
怪しい。とても怪しい。金髪に少し童顔、ネズミ色のポーチを引っ提げ、腰には刀を着用している。絶対に怪しい!
「ま....待って....もう....身体が持たない....」
不審者は僕に半ば引きずられるような形で歩いている。だからなんだ、怪しい奴を放っておくのは断罪師の規範に反する行為だ!
「おー、おかえりアティ君」
家のドアを開けると、先輩がキセルを吹かして机に足を乗っけていた。
「....先輩」
「ん?」
「キセルはもう吸わないって言ってましたよね?」
「いつ言ったっけ?」
「昨日です!」
「じゃあ多分この流れも昨日やったな」
そう言って先輩は机の下から白い酒瓶を取り出し、ガラスのコップに注いだ。
「酒はもう飲まないとも言いました!」
「いつ?」
「昨日!」
「じゃあこの流れも?」
「昨日!」
「いやあ、歳をとると物忘れが激しいねー」
....なるほど、その気なら僕にも策があります。
「こんなものがあるからいけないんです!」
そう言って僕は先輩のキセルを取り上げる。
「あっちょっ!」
先輩は立ち上がり、僕を追いかける。
「毎日毎日吸わない吸わないって言って先輩はいっつもそれを破る!今回ばかりはもう限界です!」
僕はキセルを両手で掴み、そして....
「やめろ!」
思いっきり膝蹴りして真っ二つに折った!
「うわあああああああああああああ!」
先輩は心臓を掴まれたかのように悶え苦しみ床に倒れのたうち回る。不審者とザルクさんはここまでの流れを見て同時に一言。
「「なんだこれ」」
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11時ちょうど 断罪師の家
「いやあ、お見苦しいところをお見せしました」
あれからこの上司らしき人は、世界の終わりを嘆いたり、幼児退行したりしているところをなんとかアティが宥めた。
「改めまして、ルゲンと申します」
ルゲンは軽く会釈した。俺もそれに応えて会釈する。ルゲンは少し俺の顔を見た後に、2、3枚の紙を取り出した。
「えーっと、大体2時間前くらいに怪しい人が村を歩いてると通報が入り、そのままザルクさんと一緒に森へ」
「そこで狩りをしていたところを、僕が連行したという流れです」
警察の取調室みたいに、俺とルゲンが向かい合う。違う点と言えば、その横にアティが座り、後ろでザルクが腕を組んでじっとこの場を睨んでいるということだ。
「森からここへは随分遠かったでしょ、どう?なんか飲む?」
その言葉が出た瞬間、ルゲンが下から酒瓶を取り出し、同時にアティが身の回りの容器を全て取り払った。ルゲンは無言で酒瓶を戻し、話を続けた。
「まあ、要は怪しい奴じゃないということを証明できればすぐに帰れますので、さっさとやっちゃいましょう」
そうすると、ルゲンは机に肘をつき、手を組み、自分のことを見透かすように俺の目をじっと見つめた。
「それではいくつか質問します」
「あなたのお名前は?」
「アサミカズキです」
「年齢は?」
「19です、確か」
ルゲンが俺の一挙手一投足を観察し、アティが横でチェック表を書き込んでいる。
「出身地は?」
その質問が問われた時、自分の頭が真っ白になった。
どう答えればいい? 適当に嘘をつくか?
こうして考えてる間に、アティはこちらの様子を確認している。
「ザルクさんはどうですか?」
ルゲンは自分の肩越しにザルクさんの方へ視線を向けた。
「あ?そうだな、東の方から来たんじゃないか?その....あれだ、東の剣の....カタナだったか?それを持ってたし」
ルゲンとアティは今度は刀へと目を向けた。
「まあ、この際ですし持ち物検査もしておきますか」
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ルゲンが自分のバッグを物色して、アティが俺の身体を服越しにポンポンと叩く。
「アサミさん、これは?」
「えっと、録音装置です」
「何が録音されてるんですか?」
「あー、ある人の演奏を」
「ほう、聴いてみても?」
「いや、ちょっと壊れてきてるんで、出来れば」
そう言うとルゲンは無言で頷き、録音装置を横に置く。今持っているものは刀、録音装置、鍵束、水筒である。正直言うとコインとか仮面とかも持っていきたかった。
だがあの手紙曰く、木箱の中に入っていたもので最大で持っていけるのは3つまで、鍵も含まれるから実質2つまでということらしい。
「....あの」
「はい、何ですか?」
「あなた達って一体どういう役職なんですか?」
その瞬間、この場にいる3人の視線が一斉に自分に集まるのが分かった。場の空気が凍りつき、静寂が訪れる。
「断罪師を知らないっていうんですか!?」
この静寂を打ち破ったのはアティだった。アティは目を見開き、顔が段々と赤を帯びていく。
「断罪師はこの大陸中の悪という悪を確保してその名の通り断罪する僕の憧れの正義のヒーローなんですよそれなのにあなたは!」
「ストップ、ストップ!」
今にも暴れそうなアティを後ろからルゲンが取り押さえる。
「先輩!邪魔しないでください!」
「まあ待て、落ち着け!東から来て、断罪師を知らないということは、この人は『島』から来た可能性が高い!」
「島?」
その言葉を聞いたアティはピタリと動きを止め、同時に顔の赤が冷めていく。
「ほら、東の端にある島って、鎖国してるっていうじゃん? だから断罪師のこと知らないんじゃないかな、ですよね?」
アティの後ろからルゲンが顔を出す。この機を逃す手はないだろう。
「ええ、そうなんです、島から渡って旅をしてここに至るといいますか、そんな感じです」
おそらく断罪師というのは警察みたいなものなのだろう。確かに、警察ってなんですか、とか聞かれたら驚くに決まっている。
「ああ、そういう....こと、だったん....です、ね」
アティは自分のさっきの行動を見直したのか、今度は恥ずかしさで顔を赤らめていた。
ルゲンとザルクはその顔を見て少し笑っていた。
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