第14話 アンナか、あるいは
どうする? この先の村に行くにはこの道を通るしか無い。かといって今の状況でアンナとやり合えるかどうか...
「...どうするんだよ、リーダー...?」
ギャンブラーが息を潜めて俺に問いかける。こう言う時くらいは本当に黙ってくれ頼む。
「ビルダー...とりあえず時間稼ぎを、何か考える」
「えっ!?ちょっ!」
「どうかサれまシたか?」
それは人間の言語を喋れども、ところどころ発音に水音が混じっていた。
「あー、いや、何でも無いですよ、えへへ...あー、そうだ、えー、お聞きしたいことって?」
あまり時間も稼げないだろう、早いとこ何か作戦を立てないと...俺の能力はこう言う時には役に立たない。
アクトレスの仮面じゃ騙すことはできても、命を落とすかもしれない。
サムライの刀は...相手がどんな奴になるかわからない以上、無闇には使えない。
ギャンブラーのコインは...どうなるか分からないからなぁ...
パフォーマーは...対処は出来るが、その後に「使徒」が来そうなんだよなぁ...というかあまり騒いでも「使徒」が来るだろうし、どうにか平和に行けないか?
いや、無理だな。
「アサミくん、それとお前ら、いい作戦がある」
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「あの!人を探しているんですか?」
リーダーが再度顔を覗かせ、アンナに喋りかける。
「...ええ、そうです、金髪の少し童顔の青年を探してまして...」
「ああ、そうでしたか、迷子になってたようなので拾ったんですよ、本人かどうか確認してくれませんか?」
リーダーがわざとらしく、偶然を装うようにして俺がここにいることを伝えた。
ここまでは順調、けどここからは上手くいくかどうか...考えてる間に足音が1つ、荷馬車の後ろ側へと回ってくる。
そうして顔を覗かせたそれは、紛れもなくアンナその人だった。頭の右上辺りがグチャグチャになって血を流し、脳みそが見えていることを除けば、だが。
よくビルダーとリーダーはコレを見て吐かずにいられたと思う。俺だけでなく、ギャンブラーやアクトレスも吐きそうになっている。
「あア...!」
安堵の声を漏らして近づくソレが、こっちに近づいた瞬間、リーダーがもう一度撃ち抜いた。ハンドガンを音も無く、サプレッサー無しで。
「早く出せ!」
リーダーが乗り込み、ビルダーは馬に鞭を打って無理やり走らせる。
「...死んだ...のか?」
リーダーと一緒に、小さくなっていく仰向けのアンナを凝視する。
「逆に聞くけどよ...頭蓋骨がグチャグチャになっても生きてる奴に、もう1発撃ち込んで、死んでると思うか?」
突如、アンナの身体から血飛沫があがる。
アンナの腹部が破裂したかのように思えば、そこから何か飛び出してくる。あれは...骨?
花の蕾が開くように、アンナの骨、正確には肋骨が外側へと開き、まるでムカデのような多くの足を持つ生き物のようになった。
アンナの身体とその骨の足ががバタバタと暴れ出し、何とかうつ伏せの状態になると、骨の足が身体を持ち上げて、素早く、それこそムカデのようにこっちに向かって走り始めた。
「村まで後どれくらいだ!」
「あと少し!」
化物はその小さな身体とは裏腹に予想以上のスピードで荷馬車に迫っていた。
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ザ
ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"イ"イ"イ"イ"イ"イ"イ"イ"イ"イ"イ"イ"イ"イ"イ"イ"」
白目を剥いて、血涙を流すアンナの顔面が、目の前に飛びつきそうになったその時。
「うるせえ!」
サムライの刀が上半身と下半身を真っ二つに両断した。しかし、それでもなお上半身が身体を起こそうと四苦八苦して、今にも立ち上がって飛びつきそうだった。
ただ、不思議な事に、サムライは刀を鞘に納め、周りの警戒を始めた。すると今度は化物の上半身が何かに引っ張られるようにズリズリと外へゆっくり動き始めた。
上半身はそれに抗うようにアンナの爪や骨の足を床に突き立てたが、結局は引っ掻き傷を残しただけで、そのまま外へと引っ張られた。
自分はその光景をもはや何も考えず見ていた。考えたくなかった。
「怪我は?」
「大丈夫」
リーダーが辺りを警戒しながら聞いてきた。2人がかりで警戒するということは、敵はあの化物以外にもいるのだろうか?
突如、井戸山の後ろに映る青い太陽に、何か人影のようなものが映った。それはだんだんとこちらへと向かっているように見えた。
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ああ、何ということだ。確かに、この可能性もあったな。けど、あいつが?あの自己中で傲慢なあの女が?
やはりあの手紙にあった通り、こいつはこの世界を変えうる存在だというのか?いや、今考えることはそれじゃ無い。
「「使徒か?」」
サムライとギャンブラーが同時に問いかける。
「いや、違う」
上空に翼の生えた女。あの女が直々に赴いてきた。創造神アーシアが。
「それ以上だ」
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