第13話 人の名前がわかる回
アサミカズキ。それが俺の名前だ。
リーダーの顔は相変わらずの仏頂面で、それでも少し驚きを隠せなかったのか、目が少し見開いた。すると今度は互いに目配せし合い、何かを確認するように皆頷いた。
「よし、じゃあアサミくん」
リーダーは俺の向かい側の椅子に座った。
「今から信じられない事が起こりまくるかもしれないけど、とりあえずは俺らの言うことを聞いて欲しい」
「えっ?いや、聞いて欲しいと言われても...あなた達は一体?」
「ああそうか、自己紹介がまだだったな」
「そんなことする暇あるか?」
刀の男が一言。
「名前だけならすぐ済むんやないか?」
返答したのは関西弁の女。リーダーの男は静かにするよう注意するかのように手を叩いた。
「俺の名前は...そうだな、リーダーと呼んでくれたらいい」
「ずるいぞ!自分だけ楽しやがって」
コインの男が声を荒げる。
「リーダーの特権だ。そもそもお前が俺を勝手にリーダーにしたんだろ」
そう言われたコインの男は舌打ちをして、ばつが悪そうにそっぽを向いた。
「えっと、次、私ですかね?」
そう言うと、敬語で白髪の、無地の青いレースの女が立ち上がって小さく礼をした。
「初めまして、私のことは...パフォーマーとお呼び下さい」
パフォーマーは座ると、両手で俺の右手を優しく握った。
「ふふ、とても逞しい身体ですね、それでいて若くて、細くて...」
「...ああ、どうも...」
...なんだろう。段々手つきがいやらしくなってきたような気がする。
手首、腕と、もみほぐすようにしながらジリジリとその綺麗な手が迫ってくる。
パフォーマーの息もどことなく荒くなってきたような...
「はいはーい!次うちやなー!」
ナニかを察知したのか、関西弁の女が無理やりパフォーマーとの間に割って入って来た。パフォーマーは残念そうな顔をして手を引いた。良かった、自分の貞操が守られた気がする。
「うちはそうやなぁ...アクトレスって呼んでくれたらええで!」
アクトレスはそのまま笑顔でパフォーマーとの間に座った。パフォーマーの鋭い視線に気付かないふりをしているのか、左の外の井戸山をじっと眺めていた。
「じゃあ次は俺か?」
刀の男が声をあげる。
「俺の名前は...」
何も考えてなかったのか、しばらく考えた後に自分の握っている刀を見つめ...
「...サムライだな」
これには周りも「ないない」と手を振って拒否の反応を示す。自分からしたらどれもあまり変わらないのだが...
「はい次、不貞腐れてるお前な」
「...チッ...」
そっぽ向いたままのコインの男が仕方なさそうに顔をこっちに向けた。
「ギャンブラーだ...これでいいだろ?」
「知らね」
「死ね」
そうやってリーダーと口喧嘩しつつも手が出たりはしない。実は仲良いなこの2人。
「次私?」
今度は御者の女が声を発した。
「私は...この流れ的にビルダーって感じかな、よろしくね」
青い髪をたなびかせ、いまだに顔が見えないが、声は若く、どこか安心できる声だった。
「これで全員、分かったか?」
「何となく」
「何かわからないことがあったら是非私に聞いてください私のスリーサイズなら喜んで教えます知りたいですか知りたいですよね!」
もうこの人隠す気無くなってきてない?
「じゃあ1つ聞きたいんだけど、あー、あれは無視していいから」
スリーサイズを言おうとしているあれを無視して、リーダーの話に耳を傾けた。
「君が酒場を出る時に貰った鍵は持ってる?」
「ああ、あれ、確かここに...」
あの時色々なことがあったから鍵をよく見てなかったが、ネームタグのついた、これまた現代の鍵だった。ネームタグにはインクで「ホーム」とだけ書かれていた。
「よし、じゃあ今からーーー」
突然、乗っていた荷馬車が急ブレーキした。なんてことない、ただ馬が立ち止まっただけだ。
しかしなぜ立ち止まった?答えは簡単、前に人がいて、御者のビルダーが馬を立ち止まらせたからだ。
「まずい...!」
リーダーが前に乗り出して中から前に立ち止まる人物が誰かを確認した瞬間、そう言い放った。自分も気になって確認しようとすると
「動いちゃダメ...!」
パフォーマーが全力で押さえつけた。息遣いや手つきがいやらしくないことが、事の重大さを説明していた。
「すいません、お聞きしたいことがあるのですが...」
その声を聞いた瞬間、パフォーマーが全力で俺を押さえつける理由が分かった。
それと同時に身体が震えて冷や汗が止まらない。
どうして、彼女がここに?
どうして、彼女は喋れている?
どうして、まだ俺を探している?
どうして、アンナが生きている?
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