第9話 勇者の意味
船を降りると、森の奥に大きな山が目に入った。
アンナ曰く、あの山が目的地らしい。頂上付近は白くなっておりとても高いことが分かった。同時に、あそこがどれだけ遠いことかも。
しばらく山を眺めていると、海鳥の飛ぶ方向とは真逆の、こちらの方向に向かってくる鳥が一匹。アンナの送った伝書鳩だった。アンナはそれに気付き、向こうからの手紙を読む。
何故か俺に見られないように、だ。そしてその内容を見たアンナは、喜びに満ちた顔で目を輝かせた。
もうめんどくさくなって中身を見ようとは思わないが、魔法学校の推薦状とかそういうのかな。魔王と戦ったら永遠の名誉だろうし。
「よし、早く行くよ!」
アンナは返答を待たずして山へとダッシュで向かった。
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「...ゼェ...ゼェ...ゲホッ...ゴホッ...」
杖をついて、腰を曲げて、息切れがすごい、おばあちゃんのような人がいる。
「あんなにダッシュで走るから...」
「...ゼェ...ゼェ」
返事もできないほどにアンナは疲弊し、しまいには倒れてしまった。自分は神様の加護か知らないが、かなり身体が軽い。
「ほら、水飲んで、少し休憩しよう」
近くの岩にアンナを座らせ、水を持たせる。振り返ると、今まで歩いてきた森、その奥にある海、そして不安にさせる曇り空が視界に入った。こうしてみるとかなり登ったんだな俺。
「ここって大体何合目?」
「知らないけど...もうすぐ着くよ」
もうすぐ?と思って頂上を見上げるが、もうすぐと言えるような距離ではない。
「頂上に行くと思ってる?」
「え?違うの?」
「違うよ、その途中にある洞窟だよ」
こういうのって普通頂上じゃ無いの?
「よし!休憩終わり、早く行こっ!」
またしてもアンナはダッシュで走っていった。
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洞窟の前でおばあちゃんのような人がいる。
この流れはもうやったので割愛するが、今回はちゃんと水を持っていたので、さっきとは幾分かマシな状態になっていた。
「ここが目的地?」
「そうよ...あれ?もう水なくなった?」
なんならさっきのやつで8割は持ってってますよ、アンナさん。右には暗闇の洞窟が唸り声をあげていた。この先に魔王がいて、それを倒したその後は分からない。
けど、神様に選ばれたからにはやらねばならぬという謎の使命感もある。それに、もしここで暮らすことになったとしても、まったりスローライフを過ごすのもいいかもしれない。
「...行こうか」
「...そうだね」
とりあえずは今このことを考えよう。アンナは杖を構えて詠唱し、光るオーブのようなものを出して、明るくした。
オーブが先導する道を進み、ふと振り返る。ポツポツと雨が降って来ていた。
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雨の音が遠ざかり、奥へ奥へと進むと、何故かまた雨の音が聞こえてきた。
光の進む道の先に、また別の光があった。それはオーブとは違って薄暗く、自然光のようなものだった。
そんな光が照らすのは、大きな穴だった。いくら明るい光で照らしても、それを余裕で飲み込んでしまいそうな暗闇が穴を満たしていた。
見上げるとなんとも言えない曇り空が空を満たしていた。洞窟はここで終わり、ただ目の前に崖しかないことに俺は戸惑った。
「何をそんな驚いてるの?」
アンナが不思議そうにこっちの顔を伺う。
「え...いや、だって...魔王は...?」
「マオウ...?えっと、ちょっと何言ってるかわからないんだけど...」
こっちのセリフだよ...
「いや...え...だって、俺は魔王を倒すために神に選ばれて勇者になったんじゃ...?」
するとアンナは合点が言ったかのような顔をした。
「なるほど、多分前の世界と意味が違うんだね。いい?この世界での勇者っていうのは」
ーー世界の災厄を収めるための生贄なのーー
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