第4話 鍵

酒の匂い、野太い賑やかな声、ガチャガチャと食器同士がぶつかり合う音。


 冒険者ギルドとは、案外居酒屋のような場所らしい。アサミは、運ばれてきたステーキを頬張りながら、ここに至るまでを思い返す。

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「冒険者登録?」


「そう、勇者って言う肩書きがあっても、言ってしまえば特別な力と使命を持った冒険者のようなものよ、だから冒険者ギルドに行って冒険者登録をするの、それに勇者ってことをあまり知られたくないから」


 昼市場の人並みに紛れながら、ツンデレ魔女とアサミは話す。


「それは別にいいんだけど...なんで勇者って事を言ったらダメなの?」


 城を出てから冒険者ギルドに行くまで周りの人から勇者の話題を聞いたことがない。


「勇者ってことを知られると、色々と面倒なことが起こるの」


「たとえば?」


「気の狂った集団が襲いかかってきたり、地位とか権力目当ての女が色目使ってきたりとか、本当に色々よ」


「へぇ...」


 そうやって相槌をうちながら、アサミの視線は市場に並ぶ商品に移っていた。


 見たことのない食べ物、見たことのない動物、見たことのない人。様々なものに目移りしながらも、ツンデレについて行った先に一際目立つ建物が現れた。


 西部劇にある酒場のような、そんな感じの建物。上の看板には冒険者ギルドと大きく綴られている。


「早く、行くわよ」


 ツンデレは躊躇せず中へ入っていく。アサミは少し緊張しながら、後についていった。

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...そして今に至るわけである。ツンデレは奥の受付に行って冒険者登録の手続きを申請している。その間アサミは昼食を取って、暇を潰していた。


 アサミはステーキを食べ終わり、改めて冒険者ギルドの内装を見回してみた。丸テーブルを数人のパーティが囲み、今後のクエストや報酬について話し合っているところもあれば、楽しくワイワイ酒を飲み交わすおじさんパーティもある。


 どれも四人ぐらいのパーティだ。それに比べてうちはたった2人。もう少し人を増やした方がいいのではなかろうか?アサミがそうして考え込んでいた、その時。


「なぁ」


「はい!?」


 突然呼びかけられて、上擦った声を出してしまった。いつのまにか自分と対面する形で誰かが座っていた。焦茶色の少しボロボロのローブを纏い、フードで顔を隠している。


「お前、勇者か?」


 その呼びかけに、アサミはどう答えるべきか少し戸惑った。こんな誰かもわからない人に自分の、それも勇者という身分を明かしていいのだろうか?


「おい」


「はい!」


「質問、してるんだ」


「......はい、そうです」


 低く、そして威圧感と共に放ったその声に怖気付き、アサミは正直に勇者であることを明かした。


 しかし、ローブの人は特にアサミに何かしようというわけではなく、ゴソゴソとポケットの中を漁り出した。


「手、出せ」


「え?あのーーー」


「出せ」


「はい」


 もはや命令に近い指示に従い、アサミはローブの前に手のひらを上に出した。


 すると、ローブの人は何かを手に握り、それをアサミの手の中に置いた。


「...鍵?」


「いいか、何があってもなくすんじゃない、他のやつにも渡すな、絶対に自分で持っていろ、約束だ」


「いや、約束も何も、あんたは一体ーーー」


 言い終わる前にローブの人は突然コインを取り出し、それをコイントスのように上に弾き飛ばした。


 それを目で追い、テーブルに落ちたとき...すでにローブの人は居なくなっていた。


 辺りを見回してもそれらしき姿は見当たらない。アサミは走って外へ出て、そこでも辺りを見回す。しかし人混みにいても、あの目につくローブは見つからなかった。


「何してるの?」


 振り返ると入口にツンデレが呆れた顔をして立っていた。


「えっと...外の空気を吸いに」


 あからさまなため息をついて、ツンデレはこっちに戻るよう促した。


 アサミは鍵を、何故自分がそうしたのかわからないが、バックの中に入れ、ツンデレについていった。


 あの人は一体誰なのだろう。そんな思考が、アサミの頭から離れなかった。

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